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終末配達ロボット、君の町へ  作者: 非常口
case.1 オジイチャン
6/12

No.5 安息

終末世界でロボットは、少女と共に記憶を見る。

 「……おじいちゃん、たまに……ひとりごとで“未来”って、言ってた」


 少女はそう呟きながら、映像の消えた虚空を見つめていた。


 その目は、今見たばかりの記憶を、心の奥にそっと沈めようとするようだった。


「……辛かったんだぁ」


 そう言ったとき、少女の頬を、一筋の涙が流れ落ちた。


 マイルズは何も言わず、ただ前を向いたまま微動だにしない。


 少女は、涙を袖で軽く拭った。

 そして、穏やかに、でもはっきりと告げた。


「……おじいちゃんのとこ、行こ」


 マイルズはそれでも何も言わず、ただ静かに歩き出した。

 少女もそのあとを追う。


 斜めに崩れかけたビルを越え、瓦礫に足を取られながらも、二人は進んでいく。

 青空の下、水たまりが並ぶ道沿いを歩く。


 そして、少女の「住処」だったあの場所へ戻ってきた。


 倒壊したビルの隙間。

 風に晒されたブランケット、黒ずんだ焚き火の跡、そして、少女が暮らしていた痕跡。

 その中心に、静かに横たわる老人の姿があった。


 少女は、ゆっくりとそのもとへ歩み寄った。

 その手には、あのときポータルから拾い上げて持っていた、記憶集積ポータルが握られていた。


 少女はそっと、老人の冷たくなった手に、そのポータルを持たせるように置いた。


 無言で老人の顔を見つめ、少女は小さく、でも確かに微笑んだ。


 そして、また一粒、涙がこぼれる。


「……おじいちゃん、大変だったね」


 少女の声は、静かな風の音と混ざって、空に吸い込まれていった。


「……これ、落とし物。

 ……おやすみ」


 そう言って、少女はそっと目を閉じた。

 その瞬間——


 心なしか、老人の顔が、ほんの少しだけ、穏やかになったように見えた。


 少女はゆっくりと立ち上がる。


 少し離れた場所で見守っていたマイルズのもとへと歩いていき、

 老人に背を向けたまま、ぽつりと呟いた。


「……ありがと」


 風が吹いた。少女の髪がなびき、マイルズの鋼鉄の体を擦る風音がした。


 少女はまっすぐに前を見つめた。


「じゃあ、行こうか。……二つ目のポータルのとこ」


 その言葉に応えるように、マイルズは何も言わずに、歩き出した。


 少女もまた、すぐにその後ろに続く。


 記憶を受け取り、想いを置き、

 彼女はまた、歩み出した。






道中、少女は歩きながら、ふと口を開いた。


「……おじいちゃん、幸せだったのかな……」


 その声は風に乗って静かに流れたが、誰もその問いに答えはしなかった。


 マイルズはやはり無言のまま、ただ前を見て歩いている。

 脚の関節が静かに動く音だけが、世界に響いていた。


 やがて、2人はひらけた通りに出た。

 そこは、元・住宅街だった。


 見渡すかぎり、どの家も苔に覆われ、静かに朽ちかけていた。

 それでも、かつて「人の暮らし」があったことは感じ取れた。

 花壇の跡、崩れかけたポスト、窓辺のカーテン……


 少女は一軒の家を見て、少し立ち止まりかけたそのとき——


 ガラッ……ガサッ……


 ——何かが、音を立てて動いた。


「……何?」


 少女が反射的に身をすくめる。

 音の出所は、左手にある一部が崩壊した二階建ての家だった。

 その前に、瓦礫が不自然に積まれている。

 そして、その瓦礫の山が、確かに動いた。


 マイルズの視線が、即座にそこを向く。


「スキャンを実行します……」


 数秒の沈黙。


 マイルズの目が赤く輝いた。


「外敵反応を確認。戦闘形態に移行します」


 「……え?」


 少女は、一歩後ろへ下がる。


「なに? こわい……」


 その声に答えるように、瓦礫の山が爆ぜるように崩れた。


 次の瞬間、2体の犬型ロボットが飛び出してきた。


 体長は大型犬ほど。鋭利な四肢に、金属製の尾。

 何より——少女の目を釘付けにしたのは、その口元だった。


 べったりと、赤黒い血がついている。


 まるで、それが獣であるかのように。

 人を、噛んだ後のように。


 少女は思わず、声を漏らした。


「……う、うそ……なに、あれ……」


 犬型ロボットたちは、低くうなり声のような金属音を立てながら、こちらに視線を向けた。

 瞳にあたる部分は、不気味な青い発光をしている。


「マイルズ……こ、こわいよ……」


 「敵性目標、2体。威嚇行動を確認。自動戦闘モードを開始します」


 そう告げたマイルズの体表が、変形するようにして変わっていく。

 背面からは防御プレートが展開し、右腕からは小型のパルスランチャーのような装置が伸びた。


 戦闘態勢。


 少女は、ただマイルズの後ろに身を寄せるしかなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク、感想等をいただけると励みになります。1日1話更新を目指しています。気分でもっと高い頻度で更新するかも。


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