No.11 出発
終末世界でロボットは、新たな仲間を見つける。
日が暮れ、建物の外には茜色の空が広がっていた。天井の抜け落ちた大きな建物の中、少女とマイルズは柱の根元に並んで座り込んで、静かにまどろんでいた。
ほんの少し前まで殺伐としていたこの場所にも、今は静けさが戻っていた。空気は澄んでいて、遠くから吹き込む風が、崩れた壁の隙間を通り抜けては、やわらかく二人の髪とセンサーを揺らす。
やがて、金属の足音が、コツコツと複数重なって響いてきた。
「……ん……」
少女は小さく身じろぎをすると、目元をこすりながらゆっくりと起き上がる。足音の方を見やると、数体の犬型ロボットが、それぞれ口に何かをくわえて戻ってきていた。銀色の身体を夕陽が照らし、赤ではなく穏やかな橙色の目が、何の悪意もなく少女を見つめている。
「……あ、食べ物……くれるの?」
少女はパッと顔を輝かせて立ち上がり、犬型ロボットから受け取った箱を大事そうに両手で抱えた。
「……マイルズ、」
隣に座っていたマイルズに声をかけると、マイルズのオレンジ色のセンサーが淡く点灯した。
「スリープモードを終了します。」
いつも通り無機質な声だったが、それが今は少女に安心感を与えてくれたいた。
マイルズは犬型ロボットたちの戻った様子を確認し、機械的に言葉を続けた。
「任務遂行を確認。スリープモードおよびエネルギー充電に移行。」
それに合わせるかのように、犬型ロボットたちもまた、ぞろぞろと建物の中央、天井の空いた部分――太陽の光がまだかろうじて差し込む場所へと移動し、一体ずつ静かに座り込んで目を閉じた。橙色の光が、ぽつ、ぽつ、と消えていく。
少女はそれを見守りながら、ふっと優しく笑った。
「……寝てる……おつかれさま。」
次に少女は、自分の手に抱えた食料の箱へと視線を戻す。中を開けると、いくつかの保存食が丁寧に詰められていた。見覚えのあるものもある――その中に、彼女ははっと目を見開いた。
彼女の視線は、ひとつの食べ物に釘付けになった。半透明の、エメラルド色にきらめくその物体。以前、マイルズにもらって食べたあの不思議な柑橘のような味の、冷たくて甘い羊羹のようなもの――そのひと回り以上も大きなサイズのものが、そこにはあった。
少女はすぐにそれを手に取り、箱から取り出すと、少し躊躇してから、思い切りかぶりついた。
柔らかくて、冷たくて、ほんの少し酸っぱくて、あの時と同じ味が、口いっぱいに広がった。
「……っ、おいし……」
少女の顔に満足そうな笑みが広がる。疲れも、恐怖も、空腹も、今この瞬間だけはすべて溶けていった。静かで、あたたかい時間だった。
空には満天の星空が広がり、眩しいほどに光り輝いている。
マイルズが横を見ると、少女は食べ物を持ったままマイルズに寄りかかりながら眠りについていた。
マイルズは無言でスリープモードに移行し、犬型ロボットたちも眠りについた。
朝の光が天井の隙間から差し込み、柔らかく建物の内部を照らしていた。
少女は目を覚ますと、大きく伸びをして周囲を見渡した。かすかな埃の匂いと、機械が稼働する低い音。すでにマイルズは起きており、いつものように静かに立っていた。彼の周囲には、昨日と同じ犬型ロボットたちが数体、きちんと整列していた。
「……おはよう、マイルズ」
少女はまだ眠気の残る声で挨拶をする。マイルズはいつもの機械的な口調で応えた。
「HC-47、起動を命令。」
すると犬型ロボットたちの目が次々と淡いオレンジに点灯し、小さく電子音を立てて立ち上がる。
「……ねえ、マイルズ」
少女が少し不満げに口を開く。
「…名前、つけてあげよ、」
マイルズは応答せず、少女を見つめたまま立っていた。少女は、犬型ロボットの一体に歩み寄って、鼻先をつつくように触れる。
「この子はね……ペリ。で、この子がテリ。それから……この子は…メリ。」
楽しげに命名していく少女を見て、マイルズが少し間を置いてから口を開いた。
「……HC-47の個体名を、テリ、ペリ、メリに変更。」
少女は満足そうに笑い、犬型ロボットたちを順に撫でた。
「よろしくね」
するとマイルズが、再び機械的に指示を出す。
「テリ、ペリ、後方の護衛を命令。メリ、前衛および探知を命令。」
名付けられたロボットたちは、それぞれの役割を理解したかのように、整然と動き出す。メリと呼ばれた一体は、少女たちの前方へと小走りに進み、先導を始めた。
マイルズと少女はその後ろに並んで歩き、斜め後ろにはテリとペリが静かに付き従う。まるで訓練された隊列のように、完璧な布陣だった。
「個体名メリに、周囲の地形情報を共有。次の目的地を指定。記憶集積ポータルの発信源および取得。」
マイルズの声に応じて、テリの目が一瞬明るく光り、短く電子音を発した。全身の関節がわずかに動き、次の行動への準備を完了したようだった。
少女は、その様子を見て心強さを覚える。
「……一緒に、来てくれるの?」
マイルズや犬型ロボットたちは何も応えなかったが、少女の声がわずかに弾んでいた。
こうして、配達ロボットと、少女と、そして名付けられた仲間たちとの小さな隊列は、次なるポータルへと向かって進み始めた。
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