No.9 代償
終末世界でロボットは、強敵に立ち向かう。
マイルズの放った二発目の電磁波は、閃光とともに一直線にセイソウへ向かう。
しかしセイソウもただの観察機ではなかった。パルスランチャーをすぐさま格納し、両腕を後方に展開、そこから瞬時に二枚の円形シールドが展開される。空中で交差するように回転しながら、電磁波を受け止める。
バチィッ……!
光が散り、シールドの一部が融解するも、セイソウは一歩も引かない。
「高度戦闘モード、起動。対象:旧式配達ロボット。戦闘ログ収集開始」
次の瞬間、セイソウの両足のブーツ部が開き、そこから噴射装置が展開される。空気が揺らぎ、爆音とともにその巨体が跳んだ。
ズドン――!
着地したのは、マイルズの目前。コンクリートの床が陥没し、砂塵が舞う。その中で、セイソウは右腕を一瞬で変形させ、大剣のようなエネルギーブレードを生成する。
「戦闘ロジック、計算中」
セイソウの剣が、音を切り裂きながらマイルズの胴体を横薙ぎに払う。
キィィィンッ!
金属音。マイルズは瞬時に上体をひねり、その一撃を回避。すれ違いざま、左腕をハンマー状に変形させ、セイソウの右肩に振り下ろす。
ゴンッ!!
鈍く響く衝撃。セイソウの身体がわずかに揺らぎ、床にヒビが走る。だが、セイソウは無傷のように立ち直り、間を取る。
「反応速度、推測値を超えています。アームを展開します。」
セイソウの背中が開き、数本の多関節アームが展開される。その先には、電磁針が取りつけられていた。
マイルズは無言でそれを見つめ、次の動きに備える。
そして――
セイソウが突進する。
多関節アームが蛇のようにうねりながら、マイルズに襲いかかる。一本は右肩へ、一本は足を狙い、もう一本は頭部へ。
マイルズは一瞬のうちにそれらを認識し、右腕のパルスランチャーをひき、左腕の斧に重心をかけ変える。その腕で瞬時に全ての多関節アームを払いのける。そして、セイソウに一瞬の隙が生まれる。
「迎撃開始」
金属音と共に、マイルズはセイソウのアームを切り払う。セイソウの電磁針が一閃で破壊され、ナノブレードも跳ね飛ばされる。しかし、セイソウのパルスランチャーだけがマイルズの足元を捕えた。
ジジジジ……ッ!
マイルズの動きが一瞬、鈍る。
セイソウはその隙を逃さず、胸部から小型の高周波砲を展開、至近距離で発射する。
ドシュン――!!
衝撃。マイルズの左肩部が爆ぜ、装甲が一部焼け焦げる。
少女が叫ぶ。
「マイルズ!!」
だが、マイルズは崩れなかった。スモークの中から、まだ燃えたぎる肩をそのままに立ち上がる。
「戦闘継続。警戒レベル最大。対象、即時排除対象に指定」
その声に呼応するかのように、マイルズの全身の装甲が一段階開き、冷却煙が噴き出す。
「最終制圧プロトコル、起動」
胸部から、マイルズのエネルギーコアが露出する。その中心に集まる光、振動、音。
セイソウがそれに気づき、身構えた瞬間、光が爆発する。
――白い閃光が、戦場を呑み込んだ。
まばゆい白光が辺りを焼き尽くしたあと、辺りは一転して静寂に包まれていた。
空間に満ちていた圧迫感も、機械のうなりも、すべてが消えていた。
少女は目を閉じていた両目をそっと開ける。
粉塵がまだ舞う中、辺りを見回した。
あの巨大なロボットの姿は、跡形もなく消え去っていた。爆発や衝撃の痕すら残っていない。ただ、中心にぽっかりと空いた焼け焦げた床だけが、その一撃の凄まじさを物語っていた。
しかし、少女はすぐに別のことに気づいた。
「……マイルズ?」
さっきまで戦っていた彼の姿が、広間の中心に、まるで眠るように静かに立っていた。
――いや、立ってなどいなかった。
マイルズは完全に動きを止めていた。
いつも胸元でほのかに点滅していたオレンジの警戒ランプも、今は完全に消えている。
「マイルズ……?」
少女は息を呑み、駆け寄る。
そして、その鋼の身体に手を伸ばし、揺さぶる。
「マイルズ!! ……大丈夫!?」
けれど、マイルズはまったく反応しなかった。
息つく間もなく少女がふと顔を上げると、その異変にようやく気づいた。
さっきまで戦いの轟音が響いていた空間。
今はただ、重苦しい沈黙だけが支配している。
だがそれは、終わりを意味していなかった。
四方を囲むように、無数の光点が浮かび上がっていた。
赤く、冷たく、獰猛に光るそれらは――犬型ロボットたちの眼だった。
「……っ」
少女は言葉を失った。
右を見ても、左を見ても、前にも後ろにも、牙を剥いた機械獣たちが、静かに、けれど確実に歩を進めていた。
数十体――いや、もっといるかもしれない。
マイルズがいない今、誰も自分を守ってはくれない。
けれど、少女は――逃げなかった。
少女は手元を見る。
そこには、今も静かに立ったまま、動かないマイルズがいた。
少女はゆっくりと立ち上がる。
その背は小さく、細く、震えてさえいたが、目だけは真っ直ぐに前を見ていた。
足元に転がっていた、錆びた鉄の棒。
少女は無言でそれを拾い上げると、両手でしっかりと握り締めた。
犬型ロボットたちは、低い唸りを上げる。
鋼の爪が、アスファルトを擦る音がした。
それでも、少女は一歩も引かない。
棒を振りかざし、マイルズの前に立ちはだかった。
彼女の眼に浮かんでいたのは――諦めではなかった。
絶望でも、死を覚悟したわけでもない。
ただ、そこにあるものを守ろうとする意志であった。
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