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終末配達ロボット、君の町へ  作者: 非常口
case.1 オジイチャン
1/12

始まりの配達

終末世界でロボットは、少女に宅配便を届ける。

風が吹いていた。

 錆びた道路標識がガタガタと揺れ、折れたビルの影が長く砂塵の上に落ちている。空は煌々と光り、荒廃した都市には、緑が輝いていた。


 その中を、ひとつのロボットが歩いていた。

人間のような形。だが動きはぎこちなく、足音は金属の打撃音に似ていた。


その背中には、大きな宅配ボックスが一つ。

 配送コード【77-βA-9423】。

 差出人:オオクラ カナ。

 届け先:トキワ町第三住宅区15-3。

 配送期限:99年超過。


ロボットは、歩くのをやめない。

理由は、彼が「そうプログラムされている」からだ。



「配達記録を再確認:記憶媒体、欠損。思考補助回路、起動中……」

 ロボットは立ち止まり、淡い光を放つ目を点滅させた。彼には自分の名前がない。自分がいつから存在しているのかも知らない。ただ、この荷物を届けるためだけに、動いている。


 周囲は廃墟。

 人の気配はどこにもない。

 木々は倒れ、コンクリートに苔が生えている。長い時が流れているはずだが、「時間」の感覚も、彼にはなかった。


「……トキワ町、第三住宅区……検索開始」


 地図データも、欠損していた。

 でも彼は歩いた。風の中を、瓦礫を乗り越えて。



 歩き始めてどれほど経っただろう。

 斜めに傾いた電柱の陰から、声が聞こえた。


「……ねえ、そこにいるの、誰?」


 その声に、ロボットは足を止めた。

 古い世界にはない、新しい音だった。


 目を向けると、そこには一人の少女がいた。

 ボサボサの黒髪、腕にはボロ布を巻いている。年齢は13〜14歳程度。目だけが異様に鋭く、警戒心に満ちていた。


「……ロボット……? 配達……?」


「この荷物を……届けます」


 そう言ってロボットがボックスを見せると、少女はわずかに目を見開いた。


「……届け先、どこ?」


「トキワ町第三住宅区……15-3」


 少女は数秒、黙り込んだ。

 そして言った。


「そこ、私の家。……たぶん、もう誰も住んでないけど」

「でも、その名前。オオクラ カナ……」


 少女は、一歩ロボットに近づく。

目をそらさず、まるで祈るような声で言った。


「それ、たぶん、お母さんの名前」



 風が、少し止まった。

 ロボットは少女を見つめる。

 そして、静かに答えた。


「お届けします。この荷物を。あなたのもとへ」


 初めて、ロボットの“配達”に意味が生まれた瞬間だった。

読んでいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク、感想等をいただけると励みになります。1日1話更新を目指しています。気分でもっと高い頻度で更新するかも。


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