間幕①
【注意】これから定期的に挟まる『間幕』は、あまり感情移入し過ぎると読後感に障る内容なので、鬱展開に耐性が無い読者様は、本文を読み飛ばしてあとがき的な【作者の呟き】だけを確認することをお勧めします。
〈ユグド視点〉
ユグドは広大な版図を有するファスティア帝国の片田舎に生まれた、平民の少年である。
幼い頃より、村の少年たちにおける中心人物的な存在として振る舞ってきた彼には相応の魅力があり、実力があり、そして野望があった。
「かーちゃん! オレ、この国を守る兵士になるんだ! ケンコクの、勇者様みたいに!」
ごく一般的な、農家の夕食時である。
本日も村の子どもたちを巻き込んだ『勇者ごっこ』において、見事に主役を演じ切ったユグドは興奮冷めやらぬまま、そんなことを口にした。
「おー! にーちゃんが、ゆうしゃーっ!」
「あらあら」
少年の一大決心に、弟などは無邪気に手を叩いて賛同してくれるものの。
母親は夕食の支度を進めながら、困ったような笑みを浮かべるのみ。
ユグドの家は父親不在の三人家族なので、残念ながら黒歴史確定な幼い夢想を、否定してくれる大人はいなかった。
「なんだよかーちゃん! うれしくねえのかよ!? オレがサイキョーの兵士になったら、毎日いっぱい肉を食わせてやれるんだぜ!?」
「はいはい。じゃあユグドはその前にまず、苦手を克服しないとねえ……具体的には、今日入っているお野菜とか」
「うげっ! また入ってる!?」
身体に良いからと、何度残そうとしても母親がしつこく食事に混ぜてくる緑色の悪魔を発見して、将来の最強兵士の顔が引き攣る。
「こ、こんなまっずい草、男が食べるもんじゃないやい!」
「はいはい。帝国の恵みにケチつけるだなんて、それこそ建国の勇者様に申し訳ないとお母さんは思うんだけど、違うのかねえ?」
「おー? にーちゃん、にげるのかー?」
「……ぐう!」
実母に論破され。
弟に無垢な瞳を向けられて。
それこそ苦草を口に入れられたように、
ユグドは顔を顰めた。
「……ち、ちくしょう! 食ってやる! 食えばいいんだろ、こんちくしょうめ!」
「おー! さすがにーちゃん、かっこいいなーっ!」
「こらこら、ユグド。食べものは感謝をしてからいただきなさい。勇者様の恵みですよ?」
そう言って熱心な勇聖教の信者である母親などは、剣と光輪を組み合わせた首飾りを手にして、食前の祈りを唱え始める。
「……数多の恵みを与えてくださりし、建国の勇者様……彼らの導きを受け継ぎし、いと尊き血の方々……本日もその恵みを分け与えてくださった先人らに、欠かすことない感謝を……」
そうした日々の慣例が終わるのを待ちながら、本日は強大な敵から逃げずに立ち向かおうことを決めた少年は、メラメラと心の中で闘志を激らせる。
(オレは絶対に……帝国でサイキョーの兵士になって、かーちゃんや、この村のみんなを守ってやるんだ!)
それは、ごくありふれた家族の団欒。
帝国に生まれた男なら誰でも抱く、幼い夢想。
千年帝国の名の下に築かれた、穏やかな日常の一幕。
今日も、明日も、明後日も。
自分たちの日常がずっと続くと信じてきっている、無邪気で愚かな幻想の泡沫……
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そんなこと、あるはずがないのに。
【作者の呟き】
とある帝国の片田舎に、ユグドという少年がいました。




