終幕 世界崩壊の裏側で
〈ロキシル視点〉
「ん、よしよし。順調順調。しっかりと信仰心が溜まってきてるねえ〜♪」
そこは、無秩序があふれた空間であった。
様々な時代における、様々な年式の、様々な家具や雑貨や魔道具が。
本来の目的とは違う用途で好き勝手にばら撒かれ、放置されている、子どもの遊戯室じみた、混沌が極まる光景であった。
ただしその規模が規格外であり、見渡す限りの視界が、そうした無秩序で埋め尽くされている。
これらは全て、世界の管理神である、ロキシルによる蒐集物であり。
彼の興味を惹いたために下界から集められ、彼が興味を無くしたために捨てられた、玩具たちの亡骸であった。
いまやそれらに欠片ほどの興味も持たない、しかし手放すことをしようとはしない管理神は、現在は目の前に浮かぶ半透明な板に表示された数字を確認して、ご満悦の様子である。
「やっぱり人間ってのは、愚かだよねえ〜。こうやって鞭をもらわないと、自分の役割すら思い出せないんだから。こんな無能どもを託しておいて、進化を促せなんて、創造神様も神使いが荒いよな〜」
だからこそ息抜きが。
刺激が、娯楽が、必要なのだ。
正当なる仕事には適正な対価が必要なのだと漏らすロキシルを、諌めるような天使はいない。
それらは全て使い潰した。
この空間に、ロキシルの機嫌を損ねるものはいない。
ただひとりきりの個室空間で、孤独な神の独白が続く。
「ああでも、あの契約内容だとアイツら、妹ちゃんが転生した時点で、人間どもへの躾を止めちゃうよなあ……ちっ、あの出しゃばりな天使がいなけりゃ、もっと効率的に世界をリセットできてたってのに……っ!」
それに家来が家来なら、主人も主人だ。
悪知恵を働かせて、小癪にも世界樹となったあの転移者からは、神に対する畏敬というものがまるで感じられない。
どころか自らを魔『神』などと崇めさせて、本来はロキシルのものであるはずの信仰心を、少量ではあるが奪い取っている。
「あーくそ、まっずいよなあ……絶対にあの迷惑天使なら、あの『抜け道』にも気づいてるよなあ……」
彼女がロキシルに、敵意を抱いているのは間違いない。
それはそれで不快だが、それだけならば、まだいい。
もしあれが、それ以上の『叛意』を抱いているとしたら……
「……やっぱり邪魔だよなあ、新世界樹」
わざわざ手間暇かけてこの世界に招いてやったにも関わらず、一向に自分の意向に従わないばかりか。
好き勝手に世界を荒らして、究極的には自分の存在すらも脅かす可能性のある存在。
それを面倒だからと放置できない程度には、ロキシルは慎重であり、狡猾であった。
「くそっ! あの腐れ天使、本っ当おおおに余計なことしてくれてるよねえ! っていうかこれ、絶対にわざとでしょ!? 妹ちゃんのランダム転生とか、ボクに対する嫌がらせ以外の何者でもないよねえ!?」
最大の脅威である世界樹に対して、絶対的な優位性を保つための鬼札が手中に収められなかったことは、痛恨の極みである。
とはいえまだ、それがあちらの手に渡ってもいない以上、勝敗は決していない。
「仮にあいつらが妹ちゃんの魂が転生した時点で神罰を止めたとしても、その時点でそこそこの信仰心がボクの手元には集まっているはずだ。だったら、それらをうまくやりくりすれば、愚かな人間たちを導いて、人海戦術することくらいはできるよねえ」
例えば有力な信者の夢枕に立って、
神託を与えてみるのも一興だろう。
【神の威光により一時的に魔族の侵攻を抑えることには成功したが、しかし長くは保たない】
【それらを打破するために異世界からの転生者……すなわち『勇者』をこの世界に導くので、救世を望むのなら、探し出して手厚く保護すべし】
などと、信者の心を煽ってやれば、神に縋るしかない彼らは、喜んで転生者探しをしてくれるはずだ。
そして真実を知らぬまま、勇者として祭り上げられた前世の妹に。
世界の敵である世界樹が敵対したとき。
あの不遜な青年がいったいどのような表情をするのか……ロキシルは久々に、自分の悪戯心に火が灯るのを感じた。
「ふふっ、面白くなってきたあ♪ じゃあそのために色々と、下準備をしていかなきゃね!」
本質的には世界の管理などに興味はない、ただただ自分の享楽を満たすことだけに腐心する神の、孤独な笑い声が響き渡った。
【作者の呟き】
ここまでだと流石に後味が悪すぎるので、もう一話だけ続きます。




