表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/70

第十一幕 千年帝国の崩壊 ③

〈リキエル視点〉


「うおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」


 裂帛の気炎をあげる、太陽騎士を先頭として。


 見慣れない魔法によって、何段階も身体能力を引き上げた、黄金を纏う帝国騎士たちが。


 手にする光剣で、大盾で、魔弓で、魔杖で。


 畳み掛けるようにして、致命の一撃を狙ってくる。


(……なるほど、これは驚くよね)


 本来であればそれぞれが、

 回避不能にして必殺の一撃。


 威力、精度、連携、魔力の質、それらが全て、見事としか表現できない、人類の最上位に置かれる武芸の数々である。


(それでも、僕には届かない!)


 それらを人族の珠玉を、至近距離にて。


 初見でありながら。


 リキエルは埒外の身体能力を発揮することで、避け、躱して、樹槍で弾き、叩き落とした。


「んな……っ!?」


 まさか全てをこうも華麗にいなされるとは、思ってもいなかったのだろう。


 肉薄していたユグドと呼ばれる青年が、驚きに目を見開くが、リキエルは一瞬の隙を見逃さない。


 大盾を突き出(バッシュ)していた巨漢の足元を樹槍の石突で払い、骨を砕いて大勢を崩すと、流れるように旋回。


 追撃を仕掛けていた青年の光剣を弾き飛ばし、胴体を蹴飛ばして、女弓兵の射線を封じる。


 最後に樹槍の先端から放つ魔力弾を、後衛の男が頭上で練り上げていた錬成魔力(ソール)にぶつけて、魔法を強制解除。


 戦場に、静寂を落とした。


「……うん、素晴らしい連携だね。威力も申し分ない」


 リキエルの言葉に嘘はない。


 彼らは間違いなく、現時点における、人族の最上位だ。


 けれど――それでも、なお。


 人類の最先端は、魔神はおろか、魔王にすら届いていない。


 数百年に及ぶ魔王との研鑽を積んだリキエルに対して、たかだか数十年程度の努力では、擦り傷ひとつ負わせることができない。


 覆すことのできない圧倒的な実力差が、

 一瞬の攻防に込められていた。


 それがわからぬ彼らではないだろう。


 だからこそ、問いかける。


「でもそれが、キミたちの現実だ。受け入れなよ」


「この……バケモノ、風情が! 偉そうに、何様のつもりだ!」


 リキエルに噛み付いたのはやはり、ユグドと呼ばれた青年であった。


 ユグドは女弓兵を背に庇いつつ、光剣を構えて、魔神を牽制する。


 溢れ出る太陽の魔力こそ衰えつつあるものの。

 

 一向に折れぬ戦意を前に、リキエルは嘆息した。


「……だって、どんなふうに伝えたところで、キミたちは納得しやしないだろ? だったら現実を、わかりやすく突きつけるしかないじゃないか」


「だ、だったら……強ければ、何をしたっていいっていうのか! 強者には、弱者の気持ちを踏み躙る権利があるとでも!? それがお前たち魔族の言い分か!? そんな理屈で、オレたちの国をめちゃくちゃにしやがったのか!?」


「……否定はしないよ。でもそれは、こちら側にも言えることなんだ。時間がないからこの場で語ることはできないけど、興味があるなら、投降のあとで歴史の真実を開示すると約束しよう。どうかな?」


「戯言を! 魔族の甘言に、耳を貸すものか!」


「……だよねえ」


【……リキエル。情報の解析が終わりました】


 ユグドの相手をしていると、脳内に美女の念話が届く。


 五感の一部をリキエルと接続(リンク)している〈守護天使(アンジェ)〉は、先ほどの数秒に満たない戦闘から、彼らの情報を分析していたのだ。


【おそらく彼らは、噂に聞く帝国の『聖浄騎士(クルセイダーズ)』でしょうね。対魔族(わたくしたち)用に開発された彼らは体内に直接、聖浄魔道具が埋め込ん魔れており、鬼人(オーガン)の〈魂魄解放(オーバーギア)〉の応用で、自らの魂を起爆剤として、爆発的に体内魔力(オド)を増幅させているのでしょう】


(……帝国も、いよいよ切羽詰まってるねえ。もうなりふり構っていられないってことか)


 人族において最も強い魂力を有するとされる鬼人は、魔道具に使用されている魔晶石に宿る魔族の魂と、己の魂を共鳴(リンク)させることで、その力を一時的に引き出す〈魂魄解放(オーバーギア)〉を種族魔法として有している。


 目の前の帝国騎士たち……聖浄騎士(クルセイダーズ)が使用した〈聖浄覚醒(クルセイド)〉は、その応用。


 自身を魔道具と見立て、

 己の魂を燃焼させることで。


 一時的に外部から補充した魔素の変換率を高め、体内魔力(オド)の供給量を増幅させて、戦闘能力を飛躍的に上昇させるという見立てである。


 とはいえそれは、諸刃の剣であり。


 帝国でも開発段階とされていた……おそらく彼らはその実験兵士なのだろう……この魔法技術は、端的に言って。


 使用者の魂力を。


 言い換えるなら寿命を。


 著しく、削り取るものだった。


 それを本人が承知しているのかまでは定かでないが、仮に彼らがすでに生を捨てた死兵であるならば、この後に及んで説得は無意味。


 それでもリキエルは、最後通告を告げた。


「ねえ、キミたち……もう一度、考えておくれよ。事実として、キミたちは勝てないし、帝国は滅びる。これはすでに確定事項だ。だからといってキミたちがすぐに死ぬわけじゃない。今は屈辱を喫したとしても、とにかく生きて、生き延びて、創造神様の教えを思い出してこれからも研鑽を続けていれば、いつかその雪辱を、果たす機会が訪れるかもしれないじゃないか。だからここで、無理に死ぬ必要はないんだ。もう一度だけ言う…………投降してくれ」


「ふっ……ざ、けるなあ!」


 あくまで投降を呼びかけるリキエルに、ユグドは怒りをぶちまける。


「なんだ、お前は!? いったい何がしたいんだ!? 戦場でそんな平和ボケしたことをヌケヌケと宣いやがって……どういう、了見なんだよ!?」


「僕には僕の事情がある。それにキミたちを巻き込むことを、申し訳ないとも思っている。だから可能な限り、被害は抑えたい。それだけの話だよ」


「だったら、俺たちの国を返せ! 家族を! 友人を! 戦友を! アイリスを……みんなをッ! お前らが奪っていった全てを返してくれよ! それができなきゃ、どんな未来も無価値なんだよ! それが無理だっていうんなら……せめて、今すぐに死ねっ!」


「……う、うおおおおおおっ!」


 会話によって時間を稼いでいた間に。


 砕かれた足首を回復させた巨漢が、跳ね上がるように身を起こして、大盾を突き付けて(バッシュして)きた。


 合わせてユグドが光剣を構えて地を蹴り、女弓兵が牽制の魔矢を放つ。


 後方では痩せ男が、ふたたび強力な魔法を練り上げていた。


(……うん、やっぱりいい連携だ)


 きっと彼らは、良い仲間なのだろう。


 信頼の置ける、良き戦友なのだろう。


 彼らだけではない。


 この場にいる全ての人間に、それぞれの人生があって、夢があって、希望があって、未来があって、幸せがあったのだろう。


 その全てを、自分の身勝手でぶち壊した。


 このあとも、自分の願いのために、他者を蹂躙し続ける。


 そう考えるだけで、リキエルの矮小な人間性など瞬く間に押し潰されそうになるが、それを目的のためなら『仕方がない』と割り切ることで、強引に思考を回転させる。


 常人では到底理解し得ない、狂人の感性。


 リキエルは自嘲した。


(でもまあ、今思えば僕がこういう人間だからこそ、前世の神様は僕を転移者に選んだんだろうなあ。アンジェの件といい、あの上位神様とやらはいったいどこまで、お見通しだったんだろう……?)


 それこそ神のみぞ知る、というものなのかもしれない。


 であれば考えても栓のない、神々の思惑など、さておくとして。


 再度、引き伸ばされた思考。


 停滞する白黒の世界の中で。


 リキエルは自身を押し潰さんと大盾を突き出してくる巨漢を、その大盾ごと樹槍で貫き、胸の中央に埋め込まれた聖浄魔道具を粉砕した。


 次いで樹槍を手放し、光剣を振おうとしていたユグドの懐に入り込んで、掌底にて彼の聖浄魔道具も破壊する。


 流れるように手首を砕いて光剣を奪い取ったリキエルは、それを投擲することで、女弓兵の胸元を貫いた。


 そこに至ってようやく倒れ始めた巨漢から、突き刺さっていた樹槍を回収する。


 それらが僅か、一秒未満の間に起きた出来事である。


陥没地(クレーター)の外周を埋める帝国兵たちが知覚したときには、すでに、全てが終わっていた。


「ユグドおおおおおおおっ!」


 最後に残った痩せ男が、頭上に掲げていた魔杖から不可視の重力魔法を放ってきたが、リキエルが魔力を込めた樹槍を一閃すると、魔法を構成する魔素が膨大な魔素に押し流されて、対象に届くことなく霧散した。


「……ち……くしょう……ごめん、よ……みんな………………アイリス……」


 最期に、想い人の名を呟いて。


 太陽の輝きを失った青年は、瞳からも、生の輝きを消失させた。


「ひ、ひいいい!」

「もうダメだ、聖浄騎士たち(クルセイダーズ)でも歯が立たねえ!」

「こんなバケモノに勝てるかよ!? 帝国は終わりだ!」


 それを皮切りに、勝負を遠巻きに見守っていた帝国兵が恐慌して、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出していくなかで。


 ただ一人。


 動こうとしない痩せ男に、リキエルは樹槍を向ける。


「……キミは、逃げないのかい?」


「……ああ、そうだよなあ……僕はこういう性格じゃないと、自分では思ってたんだけどなあ……」


 何かを、振り切ったように。


 しかし、確固たる意思を秘めて。


「……申し出はありがたいが、やはり戦友は、置いてはいけない」


「……そうかい。キミたちの輪廻に、創造神様の導きがあらんことを」


「はっ。敵にそこまで情けをかけるとは、つくづく変わった魔神だな! できれば違う形で、出会いたかったもんだぜ!」


「うん。僕も心の底から、そう思うよ」


「そりゃ光栄、だ……っ!」


 最期まで、己の騎士道に殉じて。


 最後の聖浄騎士が、仲間たちのもとへ旅立っていく。


(……ごめんねは、言わないよ。でもキミたちのことは、絶対に忘れない)


 これまでに散っていった者たちも。

 これから散っていく者たちも。


 帝国軍も。

 魔神軍も。


 自分のせいで消えていく命を、せめてリキエルだけは、覚えておく義務がある。


 それがリキエルが、分体とはいえ、こうして戦場にいる理由だ。


(キミたちの命を奪った咎は、ずっと背負い続けていくから)


 勇敢なる騎士たちに、しばし、黙祷して。


「……行こうか、モーエッタ」


「うん、パーパっ! あーしは、あーしらはどこまでも、パーパに着いていくよっ♡」


 魔人を従えた魔神が、

 魔族の軍勢を引き連れて。


 とうとう帝都の門を、潜り抜けていくのだった。



     ⚫︎


 この日、千年帝国は落日した。


 これを機に『世界殺し』と呼ばれる魔神の名は世界中に広まり、かの軍勢による世界崩壊が、加速していくのであった。


【作者の呟き】


 賛否あるようですが、作者は機動戦士な鉄血編、好きなんですよね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ