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第十一幕 千年帝国の崩壊 ②

〈リキエル視点〉


 常に頭上が天蓋で覆われている、

 魔樹迷宮で行うように。


 空に滞空していたニーズを足場として。


 魔神軍と帝国軍が入り乱れる地上の移動を省略(カット)したリキエルが、空から降り注ぐ流星の如く、帝都の四方を囲う外壁近くへと飛来した。


「……っ!?」


 いち早くその存在に気づいた、太陽の如き光を纏う帝国騎士が、光剣を振り上げて、リキエルが突き出す樹槍の先端を迎撃する。


 ギギャアアアアンッと、金属の悲鳴が大気を震わせて。


 ボゴッと、太陽騎士の足元が陥没。


 流星の着弾点に、半円状の地割れ(クレーター)が広がった。


「……シッ!」


 太陽騎士との激突で慣性を消費し切ったリキエルは、軽やかな身のこなしで着地したあと、流れるように樹槍の刺突を繰り出す。


「……ッ!?」


 目を見開いた太陽騎士は驚異的な反射でそれを捌くが、一撃、ニ撃を弾いたところで、樹槍の乱舞は終わらない。


 洗練された舞踊のように。


 間断なく繰り出され続ける絶死の刺突に、不利を嗅ぎ取った太陽騎士は、その場から大きく飛び退いた。


「ユグド! 無事か!?」


「……ザック。アイツ、やべえぞ。ただの魔族……魔人じゃねえ。もっと上の、やべえヤツだ!」


「そんなの、見りゃわかるって! 何よあの、馬鹿みたいな魔力量は!?」


「あ、〈乗算(アクセル)〉をかけたユグドでも押し切れないなんて、正真正銘のバケモンなんだな……」

 

 仲間たちと合流する太陽騎士から視線を外さず、リキエルは背中に庇う少女に語りかける。

 

「……モーエッタ、大丈夫?」


「……っ、うん、パーパ! パパ、パパ、パーパあっ!」


 彼女が魔人に転生してから、おそらく初めて経験する、死線であった。


 窮地を救われて、感極まったのだろう。


 ただでさえ扇状的な衣装のあちこちが引き裂かれて、ほとんど裸体と称して差し支えない状態となった魔人の少女が、目に涙を浮かべて、その豊満に過ぎる小柄な身体を、リキエルに容赦なく押し付けてくる。


「うう……やっぱり、パーパはあーしの運命だよお……っ♡ どんなときでも必ず、助けに来てくれるんだもん……っ♡」


「ああ……そういえば、そうだね」


 たしかに初めて彼女と出会ったときも、似たような状況であったことを、リキエルも思い出した。


 そのせいか、いつもよりモーエッタの密着の度合いが強い。


 ぎゅむぎゅむと、蛇のように絡みついて。


 桃色の瞳に、大量のハートマークを浮かべている。


「……ああもうっ、しゅきっ♡ しゅきっ♡ らいしゅきっ♡ しゅきが止まらなくて胸が苦しいよお……もうっ、またおっきくなっちゃうじゃんっ♡ 責任とってよねっ、パーパっ♡♡♡」


「うんうん、今は戦場だからね? お願いだから空気を読もうね? ね?」


 こちらに向けられる帝国騎士の視線が痛々しい。


「とにかくこれを着て、身体を隠して」


 トロトロに蕩けた軟体少女を引き剥がし、羽織っていた外套(マント)を被せることで、大胆に露出した褐色肌を覆い隠すリキエルであった。


「んはああああ……っ! ヤバっ、パーパの匂いに包まれりゅう……っ♡」


 マタタビを嗅がされた猫のように。


 ふにゃふにゃと腰砕となって、その場にペタンと尻餅をついた少女を、改めて背に庇いながら。


 そうした遣り取りの間も魔力を放って周囲を威圧していたリキエルは、対峙する帝国の兵士たちに語りかけた。


「……ずいぶんと、僕の身内がお世話になったみたいだけど、まあ戦場だしね。仕方ないよね。だからここで投降するなら受け入れるけど、どうする?」


「ふ、ふざっ、ふざけるな!」


 半円状に陥没した大地の縁を、囲うように。


 ずらりと居並ぶ帝国兵は、すでにその大半が、戦意を喪失しているようだった。


 遠巻きにリキエルたちを眺める、怯えを孕んだ無数の視線の中で、唯一戦意を失っていないのは、やはり先ほどの太陽騎士と、その仲間たちである。

 

「お前は一体、何者だよ!?」


「僕はリキエル・ユグドラシル。キミたちには『魔神』リキエルって言ったほうが、伝わりやすいかな?」


 魔神軍の名が広がるとともに、それを率いる存在が『魔神』と呼ばれ帝国軍から恐れられていることを、リキエルも聞き及んでいた。


「あ、あれが、魔神、リキエル……?」

「なんで敵の親玉が、こんな前線にいるんだよ!?」

「ひっ、無理だあ! あんなのに、敵うはずねえ……っ!」


 効果は覿面。


 四方を囲う帝国兵の大半が、

 敵首魁の登場に困惑するなかで。


「そうか……お前が、魔神! この戦いを引き起こした、張本人か!」


 対峙する太陽騎士と仲間たちだけは、

 瞳に闘志を滾らせる。


「そうだね。だったらどうする?」


「殺す! 仲間の、家族の、帝国の、仇めえええええっ!」


「……っ、みんな、ユグドに合わせるぞ!」

 

「ここであれを仕留めれば、大逆転の大金星じゃないか! 気張りなよ、タイホー」


「も、もちろんなんだな! 帝国は、おいらたちが守る……っ!」


 咆哮する太陽騎士を筆頭に、黄金魔力に身を包む四人一組(フォーマンセル)らしき帝国騎士が、陣形を組んで突撃してくる。


 彼らの主力(アタッカー)は光剣を握る青年で、大盾を構える巨漢が盾役(タンク)、魔弓を構える女性が射手(アーチャー)で、後ろで魔杖を構える痩せ男が後衛(キャスター)といったところか。


(見たところ、冒険者なんかで見られる一般的な編成だけど……モーエッタがあそこまで追い詰められてたんだ。気は抜けないよね)


 分体の思考を戦闘状態(バトルモード)へと切り替えたリキエルが、色が抜け落ちて鈍化していく世界のなかで、相対する帝国兵らの戦力分析をしていると……


「「「 聖浄覚醒・擬似乗算クルセイド・ニアアクセルっ! 」」」


「〈聖浄覚醒・臨界突破(オーバー・クルセイド)〉おおおおおっ!」

 

 接敵の直前で、何らかの魔法を詠唱した騎士たちの胸元が発光。


 身体に収まりきらない体内魔力(オド)が爆発したように噴出して、黄金騎士たちを太陽の輝きに染め上げて。


「うおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」


 それらのなかにおいても一際に眩く、激しく、荒々しい。


 まさしく燃え尽きる直前の恒星じみた輝きを放つ青年が、裂帛の気炎をあげて、リキエルに斬りかかってきた。



【作者の呟き】


 何となく伝わっていると嬉しいのですが、命を激しく消費する聖浄騎士の〈聖浄覚醒・乗算(クルセイド・アクセル)〉の廉価版が〈擬似乗算(ニアアクセル)〉であり、さらに効果を上乗せしたものが〈臨界突破(オーバー)〉といった塩梅ですね。


 ほとんど自爆技である〈臨界突破〉は、生に未練を持たない聖浄騎士のなかでも飛び抜けた命知らずであるユグドにしか扱えず、制御が難しい爆弾であるがゆえ、お目付け役のザックをつけて、部隊が帝都の一番外側に配置されていたという裏設定。

  

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