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第八幕 世界樹に喧嘩を売るだけの簡単なお仕事です ⑥

〈エルナカーナ視点〉


「……あーっ、ちょっとだけスッキリしたーっ♡ ブンブンと五月蝿い、人の言葉を介さない羽虫なんて、いるだけ邪魔だもねっ! だから叩き潰されても仕方ないよねっ! というわけでパーパに見限られたよわよわ羽虫どもは容赦なくぶっ殺していっちゃうんでー、潰されたくない虫さんたちは虫ケラらしく、小さく丸まって黙ってくださーいっ♡」


「な、貴様、何を言っ――っぽあ!」


「はい、また一匹、クソ虫が自爆しました〜。愚かでちゅね〜。ほんと脳みそが、虫ケラ並みなんでしょうね〜。きもっ!」


 子どもが無邪気に虫を叩き潰すときのように。


 一切の躊躇いはなく。


 容赦もなく。


 軽々と結界を超えて仲間の命を摘み取った少女に、貴族を庇う騎士たちが激昂した。


「き、貴様あ! 自分がいったい、何をしたか――あぼっ!」

「このクソガキめ、成敗してくれ――うぶえっ!?」

「な、なんだ、おまえ――えぶしッ!?」


「はい、はい、はい、そろそろ、いいですか〜? いい加減にわかってもらえましたか〜? オジサンたちみたいなキモオスがどれだけ泣き喚いても、モーエッタちゃんがイラつくだなんで、ザコはザコらしく、ちゃんと身の程を弁えてくださいね〜?」


「……あ、あのお嬢ちゃん、いったい何をやったんだ……?」


「……おそらく、視線に魔力を乗せた、干渉魔法でしょうけど……」


 強かな冒険者らしく。


 混乱に乗じて、ちゃっかりと。


 この場で一番安全そうな聖女の元まで下がってきた只人(ヒューム)の冒険者、リッドが漏らした呟きに、エルナカーナが答える。


「……でも……あんなの、尋常じゃない。……魔道具も、媒介もなしに、相手の頭を破裂させるほどの魔力を送り込むなんて、あの子が精神魔法に特化した魔人だとしても、異常ですよ……」


 例えるならそれは、数メートル離れた人間に手元から水を撒いて、口から水を注ぎ込み、胃袋を破裂させているようなものだ。


 しかも彼女の場合は、今も聖女が発動し続けている障壁魔法と、騎士たちが纏っている精錬魔力(ソール)という魔力障壁、その両方を貫通しての所業である。


 事態の深刻さを理解したリッドが、

 額に新たな汗を滲ませた。


「……それはそれは……大層な、お手前で。それで聖女様、おいらたちは助かりますかい?」


「……たぶん、向こうの機嫌次第です。……少なくとも自力では、無理だと、思います……」


「……ですよねえ、クソったれめ! こんなのいったい、どうしろっていうんだよ!?」


「っ!? おいそこの冒険者、何をしている!」


 聖女と冒険者の密談に、気づいた騎士が声を荒げた。


「いったいいつの間に湧いたのだ!?」

「聖女様に近づくな! 不敬であるぞ!」

「貴様もさっさと戦線に加われ!」

「その間に、我らが戦況を立て直す!」


「うるせえ馬鹿ども! この後に及んでまだ刃向かおうとしている時点で、テメエらの目は節穴なんだよ! おいらたちは勝手にやるから、指図すんな! 死にたいなら勝手に死ね!」


「きゃははは、オジサーンっ! 良いこと言うじゃーんっ! そうそう、無能な虫ケラは生きてるだけで害悪なんだから、とっととくたばりなよお♡ それが世界のためだって♡ きゃははっ♡」


 最早なりふり構っていられないと判断したのか。


 声を荒げたリッドが雇い主に反旗を翻し、魔人の少女が煽るが、そのやり取りを冷ややかに静観していた青年が口を開く。


「まあまあ、皆さん、落ち着いてくださいよ。さっきも言いましたが僕はこれでも、いちおうは、皆さんのお話を伺いに来たんです。要件はたぶん、転移魔法阻害の件ですよね? あれはこちらの独断でやったことですので、そちらの言い分にも耳は貸しますよ?」


「そ、そうだ!」

「やはり貴様らが、禍影石の転移を拒んでいたのか!」

「なんたる恥知らず!」

「勇者様のお慈悲を忘れたのか!?」

「恩義を果たせ!」

「それが貴様らが生かされた意味であろうが!」


 青年の発言によって、

 自分たちに理があるとでも思ったのか。


 途端に貴族たちが息を吹き返して、樹面から覗くリキエルの口元を困惑に染める。


「……えっとお……ちょっと、意味がわかんないですね。誰かもう少し噛み砕いて、説明していただけます? できればこちらの事情を斟酌していただける程度に、理解力のある人がいると嬉しいのですが……」


「……は、はい……では、私が……」


「聖女様!?」

「いったい何を仰られているのですか!?」

「相手は危険な魔族ですぞ! お下がりください!」


「うるせえ馬鹿野郎ども! 聖女様がテメエらの尻拭いをなさろうとしてんだろうがい、邪魔すんなよボケカス!」


 樹面の青年に請われ、自ら名乗り出たエルナカーナに、群がろうとした騎士たちをリッドが一喝した。


「な……貴様、無礼であるぞ!」

「冒険者の分際で、我らにそのような物言いを……っ!」

「無礼打ちだ! 覚悟はできているのであろうな!?」


「へいへい、それは全部、ここを乗り切ってからのハナシでしょうが! いいから退いた退いた! 本当に邪魔なんだよ、アンタら!」


「き、貴様あああああっ!」


「――馬鹿がッ!」


 激昂して刃を向けた騎士を、リッドが突き出した細剣が、鎧の隙間を縫うようにして貫く。


「なっ……き、ざまあ……っ!」


「……こっちも必死なんだ。いい加減に察しておくれよ、騎士様がた」


 血を吐き出した騎士がその場に崩れ落ちると、リッドを囲もうとしていた他の騎士たちが、後退していった。


 すかさず冒険者たちが雪崩れ込んできて、聖女の道を確保する。


(……やっぱりこの人……ふつうに、強い人だった……)


 少なくともその力量は、見栄ばかりが肥大化した帝国騎士よりも信頼できる。


 彼らがこちら側についてくれているあいだに、話を進めてしまおう。


 本物の護衛のように立ち振る舞うリッドたちに守られて、エルナカーナはリキエルの前に進み出た。


「……はじめ、まして。……私は勇聖教から遣わされた聖女で、エルナカーナと申します。……リキエル様におかれましては、どうぞ、お見知り置きを」


「うんうん、ご丁寧にどうも、エルナカーナさん。それじゃあ早速で悪いんだけど、ちょっと情報の擦り合わせをさせてもらえるかな? お察しだろうけど、こっちは地上の情勢に疎くてね。なんか齟齬を感じるから、まずはそちらの言い分を正確に聞かせて欲しいんだ」


「……わかり、ました。……それと、ご不明な点がございましたら……その都度確認していただけると、私も可能な限り、お答えいたします」


「おお、それは助かるよ! ありがとう、エルナカーナさん!」


「……恐縮です」


 なんだろう。


 あれほどの恐怖を覚えていたのに。


 話してみると、意外と、物分かりの良い御仁のように思えてしまう。


 少なくとも、まるでこちらの意見を聴いていない帝国貴族や騎士たちよりは、会話をしていて負荷(ストレス)を感じない。


 僅かな会話からでも、目の前の青年からは、確かな理性を感じられた。


(……もしかして……悪い、人たちじゃない……?)


 帝国に残されていた希少な文献においても、魔人とは、歯向かう者には容赦しない一方で、抗おうとする者には寛容な態度を見せることがあると、記されていた。


 こちらが真摯な態度をとる限りは、無碍に扱われることはなさそうだ。


 か細いが、生還の芽が出てきた。


 聖女は気を引き締める。


「そ、それではこの場はひとまず、聖女様に預けるとして、我らは一旦地上に戻らせてもらいますぞ!」

「お、おお、その通りだな! ここで我らが、剣を振るう必要はなかろうて!」

「おい冒険者ども、退くぞ! 道を案内しろ!」


「……はあ!? おまっ、何言ってんだいアンタら!? それでも、帝国軍の端くれですかい!?」


「っていうか、お前らみたいなカスを、わざわざ見逃すわけがないだろ? 常識でものを考えて喋れよ。……モーエッタ」


「はあ〜い、パーパっ♡  うっざいヒトオスどもは眠っちゃえ〜っ♡」


 魔人の少女が左手をくびれに当ててしなを作り、二本指を伸ばした右手を目の横に添える。


「「「 ……ッ!!? 」」」


 すると、その動きに釣られて視線を向けた騎士たちが、バタバタとその場に崩れ落ちた。


 なんらかの精神魔法を受けたのだろう。


 落馬した者もいるが、彼らはピクリとも動かない。


(……悪い人じゃなくても……怖い人なのは、忘れちゃダメだね……)


 改めて気を強く締め付けつつ。


 聖女は青年との対談に、望むのであった。


 

【作者の呟き】


 メスガキ無双が止まらない……っ!


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