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第八幕 世界樹に喧嘩を売るだけの簡単なお仕事です ⑤

〈エルナカーナ視点〉


「……おい、なんだこのクソガキは?」

「奇妙な仮面を被りやがって……けしからん身体のメスガキだな!」

「隣の男はなんだ? あの気持ちの悪い仮面は、奴らの風習なのか?」

「これが魔族……だと……っ!?」

「……ふむふむ。なるほどこれは……捉えて入念に、研究する必要がありそうだな!」


 などなどと。


 障壁魔法の内側にいるため、周囲の魔素変化に気付いていない騎士たちは、呑気なことを言っているが。


(……っ!!!)


 結界の術者であるエルナカーナや、見た目よりも優秀らしい冒険者たちなどは、目の前に突如として現れた人物たちの異様さに気付き、息を呑んでいた。


(……な、なに……あの人たち……あれが、魔人っ!?)


 一見する限りは、独特な民族衣装に身を包む、青年と少女である。


 しかし奇妙な木彫りの仮面で顔の上半分を隠し、膨大な魔力を湛える樹槍を手にする青年の周囲は、景色が歪むほどに魔素濃度が上昇していた。


 逞しい肉体に刻まれた魔法印が発光すると、すぐにそれらは収まったが、人型に見える青年が世界を変えるほどの力を有している事実に変わりはない。


 一方で青年と同様の樹面を被っている少女はというと、こちらはもはや、異形を隠すつもりすらない。


 只人(ヒューム)精人(アルヴ)獣人(ライカン)鬼人(オーガン)……それら代表的な人族のどれにも分類できない、蝙蝠じみた翼と、長い鱗尾を有する、桃艶髪(ピンクブロンド)二股長髪(ツインテール)にした褐色肌のロリ魔乳メスガキ美少女という、あらゆる意味で主張が激しすぎる存在である。


 おそらくその正体は、魔人。


 身体の異形部位から推察するに、文献で語られる夢魔人(サキュバス)竜魔人(ドラゴニュート)あたりといったところだろうか。


 そんな少女を堂々と腕に絡めているのだから、当然あちらの青年も、何かしらの魔人なのだろう。


 百五十年以上にもなる人生で初めて遭遇した魔人と、彼らの放つ想像以上の圧力に、自然と生唾を飲み込んでしまうエルナカーナである。


「おい、そこの男。貴様よもや、魔人か!?」

「なるほど、いちおうは我らを出迎えようとした心意気は認めてやるが、その小娘の無礼な物言いは、到底見逃せぬなあ……」

「今なら我らが直々に、高貴なる作法を教えてやるがどうだ? ん?」


 だというのに。


 帝都周辺でろくに、魔獣狩りすら行ってこなかったのだろう。


 彼我の実力差すら見抜けずに。


 見た目と装備で組み易しと思ったのか。


 騎士を引き連れた貴族らが大仰に、結界越しに、青年たちに高圧的な態度で物言いをする。


(……いやあああああああっ!)


 あまりの空気の読めなさに内心で絶叫して硬直(フリーズ)してしまう聖女であるが、彼女が復帰するよりも早くに、見かねた冒険者たちの一部が動き出した。


「ま、まあまあ、皆様、落ち着いてください。ここはひとまず、下賎な冒険者であるおいらたちに、斯様な雑務を預けてはいただけませんかねえ?」


 そのように申し出たのは、冒険者たちの中でも一目置かれているらしい、リッドと呼ばれる只人(ヒューマ)の男性である。


 低頭しながら騎士たちの前に滑り込んだ冒険者は、すぐに背後の青年に顔を向けた。


「それで……えっと、貴方様のお名前は? おいらはリッドっていう、ケチな冒険者なんですが……っていうかそもそそも、おいらたちの言葉って、通じていますかい?」


「……うん、大丈夫。ちゃんと理解できているよ。リッドさん。僕の名前はリキエル・ユグドラシル。いちおうこの魔樹迷宮の管理者? みたいなことをしているから、よろしくね」


「あーしはパーパの可愛い愛玩動物、モーエッタだよ! よろしくね、比較的マトモそうなヒトオスさんっ!」


「え、ええ、是非とも、よろしくお願いいたしやす……」


 額に大量の脂汗を浮かべながら。

 

 引き攣った笑みで頭を下げるリッドの後方で、下手に知識があるぶん、エルナカーナは混乱の極みに叩き落とされていた。


(……えっ? なに、迷宮の管理者とか、そんなの聞いたことないよ!? 文献にもそんな存在、一行も書いてなかったじゃん! 魔樹迷宮の守護者は魔王じゃないの!? でもあの人の口ぶりからそれはちょっと違うっぽいし……それにあっちの子は愛玩動物とか名乗ってるし……えええ、どういうことっ!?)


 極度の緊張状態にあるためか。


 普段とは比較にならないほど饒舌に、

 聖女の頭脳が回転する。


 やがて導き出された結論とは……

 

(……やっぱり、魔樹迷宮には、私の知らないことがたくさんあるんだ……っ! ……きっと帝国の禁固図書館よりもずっと詳細な、世界の真実が、ここには眠っているのですね……っ!)


 ならば是非とも。


 あちらが友好的であるうちに。


 この歴史的な対談(ファーストコンタクト)は、必ず成功させなければいけない。


 それが帝国から派遣された自分たちの、役目であるはずだ。


「……ほう、モーエッタというのか。なかなか味わい深い名前ではないか」

「それにお前……えっと、リキエム、だったか? まあいい、貴様がこの迷宮に住み着く魔族どもの長ということか?」

「いったいどれほどの集団なのかは知らぬが、まあトップが直々に出張ってきたことに免じて、先の無礼は水に流してやろう」

「それで、村はどこだ? 当然、歓待の準備はしてあるのだろうな?」

「我らは長旅で疲れているのだ、早く案内しろ」


 ……そのはずなのに。


(……えっ? ……この人たち、バカなの? ……わかっていたけど、想像よりもずっと、おバカさんだったのかな……?)


 状況をまるで鑑みていない騎士たちの暴言に、聖女は目眩を覚えた。


「……ねえパーパ。もう、いいでしょ? やっちゃう? やっちゃおうよっ♡」


「ちょ、ちょっと待ってくだせえ、モーエッタさん! それに皆様もそんな焦らずに、ひとまずは双方の意見を一通り聞くところから始めましょうよ!? ねっ? ねえっ!?」


「……だったら一応、告げておくけどさあ」


 思ったよりも、冷静に。


 思った以上に、冷淡に。


 本心から、目の前の人間たちに興味を抱けないとでもいうように、正体不明の青年は淡々と語る。


「僕たちはここに、キミたちと話し合うために来ているけど……それは別に、こちらが側が望んでいることじゃないからね? だからあんまり不愉快な発言を続けられたり、敵意を見せるようであれば、相応の対応を取るから、そのつもりでよろしく」


「……っ!」


 ほんの一瞬。

 

 青年の被る樹面の隙間から。


 黒曜石の瞳に貫かれて、比喩ではなく、聖女の鼓動が停止した。


(……なん……って、馬鹿げた、魔力なの……っ!?)


 おそらくは無意識レベルで視線に乗せられた、極微小な魔力に射抜かれただけで、エルナカーナは推し量るすることすら叶わない、絶望的な彼我の力量差を思い知らされた。


 勝てる、勝てないの話ではない。


 争うこと自体が間違いで。


 抗うことなど許されない。


 大人と子供とさえ呼べない、巨人と蟻ほどの、絶望的に絶対的な絶壁が、そこには聳え立っていた。


「……はあ? なんだ貴様、その無礼な物言いは!」

「如何に我らが寛大とはいえ、限度があるぞ!?」

「けしからん! そこに直れ、剣の錆としてくれる!」


「えっ!? ちょ、馬鹿なんですか、アンタら!? なんでこの御方を前にして、そんな強気でいられるんですかい!? 死にたいの!?」


「貴族に対して馬鹿とは何事か、冒険者風情が!」

「無礼であるぞ!」

「貴様こそ死にたいのか!?」


「……すいません、リッドさん」


 貴族たちと違って現状を弁えている冒険者が慌てるが。


 そんな彼に、リキエルと名乗る青年は結界越しに苦笑して。

 

「勝手ですけどこのままじゃ埒が空きそうにないので、こちらで少し『選別』させてもらいます……モーエッタ。話にならない羽虫は邪魔だから、やっちゃっていいよ」


「わーいっ♡」


 次の瞬間……パチュン、と。


 湿った音ともに、最前列にいた騎士たちの頭が、まとめて吹き飛んだのだった。 


 

【作者の呟き】


〈次回予告〉悲報、メスガキにわからされる帝国軍!

 

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― 新着の感想 ―
リッドさぁん、上がアホだと大変ですね (ToT)
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