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第八幕 世界樹に喧嘩を売るだけの簡単なお仕事です ③

〈冒険者視点〉


(ああ、イヤだイヤだ、イヤだねえ。なんでオイラが馬鹿貴族どもの、護衛をしなきゃなんねえんだよ……)


 地下に向かって伸びる洞穴型であるにも関わらず、馬を使って移動できるほどに広大な空間を有する神代魔樹迷宮エンシェントダンジョンの、十二階層にて。


 十階層ごとに変化するという階層領域(ダンジョンフィールド)が、視界の開けた上階層の〈平原領域(グラスフィールド)〉から、大岩が散乱して遮蔽物となる下階層の〈荒原領域(ブッシュフィールド)〉へと移り変わっていくなかで。


 冒険者ギルドによる強制依頼(クエスト)に参加させられた只人(ヒューム)の冒険者、リッドは、騎馬に跨ったまま自分たちの後に続く帝国軍に、心中でげんなりと舌を出す。


(だいたいこのボンクラどもは、本当に状況が分かってるのかねえ? 今の魔樹迷宮は、以前とは勝手が違うって言ってんのによお!)


 三十路を迎え、冒険者としての成熟期に達しつつあるリッドであるが、彼が冒険者としての活動を始めたこの十年ほどで、魔樹迷宮を取り巻く環境はゆっくりと、しかし着実に変化していた。


 千年前に封印されたという迷宮深部から、魔樹迷宮のあちこちに芽吹く魔性樹によって、際限なく産み出され続ける魔獣たち。


 この迷宮都市の重要な収入源であったそれらが、年を重ねるごとに凶暴さを減じていき……代わりに、高度な知性を有しているかのように、巧妙な立ち回りを見せるものが現れ始めたのだ。


 待ち伏せ、擬態、群れでの狩りに、各々の特性を活かした搦め手といった、冒険者たちがそれまであやかってきた定石(セオリー)が通用しない魔獣たちの増加が、それに頼り切っていた冒険者たちの足元をすくった。


 魔獣とは本能に従った単調な攻撃しかしてこない愚かな生物であり、凶暴ではあるものの、対策さえ講じていれば安全に狩ることができると信じ切っていた熟練の冒険者であるほど、その経験則が仇となって、この変化に気づくまでに大きな被害を出してしまったのだ。


 加えて、そうした魔獣の変化とは無関係でないであろう、魔樹迷宮の転移機能不全もまた、冒険者たちにとっては逆風だった。


 魔樹迷宮の封印から千年に渡り、隆盛を誇ってきたファスティア帝国。


 帝国繁栄の根幹を成すのが、命を賭して迷宮を封印したという勇者たちが残した叡智であり、その最たるものが、彼ら残した研究から五百年ほど前に生み出されたという、画期的な分離魔法である。


 この魔法技術が発見されるまでは、魔法とは、魔素に己の魔力などを加えることで、その性質を変化させて属性化させたものを、目的に応じて生成し、操ることを指していた。


 とはいえそれには『魔力の変換』という余分な工程が組み込まれており、過程そのものにも『変換に必要な魔力』を消費するため、それらを魔法として十全に扱えるようになるまでには、相応の年月と、一定の才能が必要とされてきた。


 それらの常識を覆したのが、変換以前の魔素そのものをあらかじめ『聖浄』魔素と『禍影』魔素に分離させる、分離魔法であった。


 魔法体系としては変化魔法に分類さえるそれは、簡単に言ってしまえば、魔素を二つの属性に分離させるというもの。


 変換ではなく、分離。


 魔生樹や天聖樹のように、一つのものが反転するのではなく、一つのものを二つに分けるという考え方。


 魂力という圧力を掛ければ正と負、どちらの属性にも転じる魔素であるならば、あらかじめそれらを分離させることで、正に特化した『聖浄』魔力と、負に特化した『禍影』魔力を、同じ数だけ作り出せるというのが、この分離魔法の基礎理論である。


 そのように抽出した、安全で安定した聖浄魔力を封入する魔晶石……『聖浄石』を用いることで、人々は強力な魔道具を、所持者の力量を超えて容易に扱えるようになった。


 また、そうした聖浄石は人々を魔獣の脅威から遠ざけるだけでなく、土地の開墾や回復、作物の豊穣化や、天候の操作、小さなところでは暮らしに必要な光や水、熱源の供給といった、様々な場面で用いられている。


 一方で、聖浄魔力を抽出する過程で発生する廃棄物、禍影魔力を封入した『禍影石』は、当初は兵器として使用されていたらしいが、聖浄魔力のように容易には扱えず、どころか暴発して周囲を巻き込む可能性すらある、危険物である。


 当然のことながらそれらは、人々が魔獣という脅威を払拭して争いを必要としなくなるうちに、処理が追いつかなくなって、最終的には封印された魔樹迷宮に転送されるようになったという。


 なにせ転送先の迷宮に住まうのは、千年前の迷宮攻略時に、勇者たちの威光に平伏して、迷宮に封印されるかたちで、命を見逃された魔族どもである。


 彼らにはその恩義に報いる、意志があった。


 ゆえにその後、勇者の末裔である王族たちによる交渉によって、魔樹迷宮に巣食う魔族らは、人族が転送する禍影石を処理する役目を与えられた。


 方法までは知らないが、もとより人族の敵として邪神から生み出された、魔に属する者どもである。


 上手いこと波長が合ったのだろう。


 実際に十年前までは、それらしい問題は起きていなかった。


 それなのに……


(……禍影石の処分ができなくなっちまった今、帝国は聖浄石の生産を控えてやがる。それでも貴族や市民はそれまで通りに聖浄石を使いたがるから、その皺寄せが、あっちの生活に直接関係ない冒険者(あっし)らに回ってきてんのに、貴族サマは相変わらず高そうな聖浄魔道具で身を固めて、羨ましいご身分でございますなあ!)


 聖浄石を動力に用いた聖浄魔道具の普及によって、原材料である魔晶石を供給する冒険者には一定の需要があるものの、望んでその職に就こうとする者は少ない。

 

 それこそ冒険者という職業がもっとも脚光を浴びていたという千年前と比べては、段違いに規模が縮小されて、現在では騎士のなり損ないや冒険者崩れたちが行き着く先、石拾いとさえ揶揄される、日陰者である。


 当然ながらそこに供給される聖浄石の優先度は低く、ようやく市場に流れてきても、現在は値段が高沸しているために、以前のような感覚で購入することは難しい。


 追い打ちをかけるように主要な収入源であった魔晶石そのものも、使用目的であった聖浄石の製造が控えられてために、帝国ではすでに値崩れが起きていた。


 魔獣討伐難易度の上昇。


 高位冒険者の減少。


 聖浄石の値上がりによる、聖浄魔道具の補充困難と、損耗率の増加。


 そうした負の連鎖が新人冒険者たちの気概を折り、育成を困難にして、結果として冒険者全体の数が減ることで、残った者たちへの負担が増すという、悪循環が発生していた。


 本来であればリッドなども、高位と呼ばれる冒険者の力量には届いていない。


 それでも人材不足のため、今回のような無茶な命令を振れる人員を確保するために、冒険者ギルドが実績を水増ししているに過ぎないのだ。


 端的に言ってこのままでは、

 冒険者業界に先はない。


 末期だとわかってはいても、これまでそうした生き方以外に学んでこなかった者たちは、その枠組みから解脱することができないでいる。


 リッドもそうした人間の一人だった。


(でもまあ今回の交渉で、魔族が本来の役割を思い出してくれりゃあ、少なくともオイラたちの代で食いっぱぐれることはなくなるんだけどねえ)


 先にことはさておくとして。


 今はとにかく、目先の生活を安定させることが第一だ。


 身の丈を思い知っている凡人には所詮、その程度のことしかできないのだと割り切って。


 気に入らなくても。


 多少危険でも。


 帝国からの交渉人を、なんとか魔族の元に届けなければならないのだと、リッドは士気の上がらない冒険者たちを率いて迷宮探索を進めていく。


「おいお前たち、下層の入り口はまだなのか!?」

「いったいいつまで我らを、このような陰気な場所に閉じ込めるつもりだ!?」

「聖女さま、もうしばしの辛抱でございます」

「無能どもは当てになりませんが、我ら帝国騎士が必ずや、御身をお守りしますので、ご安心をば!」


 自分たちを矢面に立たせておきながら。


 騎乗したまま安全な場所から文句だけを言い放ってくる騎士や貴族たちを適当にあしらいつつ、リッドたち冒険者は周囲を警戒。


 索敵しつつ、慎重に、迷宮の深部へと潜っていく。


(……でもできることならあのブタどもに、天罰が降りますように)


 こっそりと胸元に下げた首飾りを取り出して、

 彼が信じる神に祈りを捧げながら。


 信徒の証明であるそれに、リッドは口付けを捧げるのであった。


【作者の呟き】


 あくまで拙作のファンタジーな世界観におけるガバ設定なので、正論パンチはご容赦を。

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