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第七幕 祭りの楽しみ方は人それぞれ ⑤

〈リキエル視点〉


 此度の再誕祭において、目玉企画として催された武闘大会。


 優勝者に褒美として用意されたのが、リキエルへの謁見とともに、彼が可能な範囲で『願いを叶える権利』であった。


 あきらかに前世の影響を受けている、

 世界樹からの提案である。


 とはいえ。


 激闘と幸運の末に、見事それを勝ち取った少女が、そうした権利として望んだのが、半魔人から魔人への転生であることに、企画者であるリキエルは困惑を隠せない。


 いかに彼女がかつて、魔王の協力を得ることで、人族から半魔人へと転じた者たちの末裔であるとしても。


 前例があるため、そうした行為に抵抗が少ないことに、一定の理解を示せるものの。


 それでもリキエルは、彼女に直接確認をした。


「……モーエッタは、本当に、魔人に転生したいのかい?」


「はい、その通りでございます」


 恍惚とした表情を浮かべて。

 

 リキエルからの問いに、

 モーエッタは迷わず首肯する。

 

「身の程を超えた願いだとは理解しておりますが、それでもわたしは、己のこの気持ちを偽ることができないのです。どうかわたしめに、永遠に、リキエル様に仕える喜びを与えてくださいませ……っ!」


「……おっもお……」


 一点の曇りもない、狂気すら感じさせるクソデカ感情に、リキエルは素で引いた。


「リキエル、様……?」


「……い、いやいや、その気持ちは有難いんだけどね!? でもキミ、わかってる? 本当に理解してる?」


 この願いを申し出た時点で。


 一番最初にそれを耳にしたアンジェから、

 すでに伝えられているはずであるが。


 念のため、リキエルは繰り返し、モーエッタに確認を取る。


「いいかい、同じ変化系統に属する魔法でも、〈存在進化(ランクアップ)〉と〈輪廻転生(ループエンド)〉では、魂にかかる負荷が桁違いなんだ。そして転生先に魔人という器を選ぶなら、当然だけどキミの魂は、保存しておいた魔人の魔晶石に注入されることになる。その結果どんな変質が起こるかわかったもんじゃない。最悪、キミという自我の消失すら有り得るんだよ?」


 人族が人間としての在り方を保ったまま、魔族の方向に進む〈存在進化(ランクアップ)〉は、半魔人までが限界だとされている。


 それ以上を望むなら、人としての在り方を捨てて、逸脱しなければならない。


 さらにはリキエルが転生先として世界樹を選んだ際に、対象となる『器』が実際に必要だったように。


 モーエッタが魔人への転生を望むなら、魔人の肉体という『器』が必要であり。


 魔生樹から量産される魔獣と異なり、創造神によって造り出された魔人には、特別な魔晶石が必要だった。


 そして幸か不幸か。


 この魔樹迷宮にはかつて己の魂と引き換えに魔王の命令に殉じた魔人たちの、魔晶石が保管されている。


 新たな魔人の『器』を造り出すことは可能だ。


 とはいえここで問題になるのは、魔人の肉体に少女の魂を転生させたとしても、魔王が大切に保管していた根源(オリジン)魔晶石には多少ながら、前世の記憶(データ)がこびりついていることである。


 生前の魔人の残滓とも呼べるそれを、完全に取り除くことは不可能だ。


 そのため魔人の残留思念とモーエッタの魂が混じり合って、どのような結果を生み出すのかは、優秀な演算能力を有する〈守護天使(アンジェ)〉ですら、見通すことができないのである。


「ただでさえ魂に負荷を与える魔法に加えて、自前の魔晶石を使って転生したニーズとは、そもそもの前提条件が違うんだ。転生が無事に成功するなんて保証はできない。仮に転生できたとしても、そのときのキミは、今のキミでない可能性だってあると思う。そうしたリスクのことを、本当にキミは、理解できているのかい?」


「はい、すでにアンジェ様から聞き及んでおります。それでもわたくしはこの身体を、心を、魂を、リキエル様に捧げてお役に立ちたいのです!」


「……っ!」


 だから重いってえ。


 そんなクソデカ感情を背負わさないでくれよ、と。


 折れれぬ少女の狂信に、助けを求める世界樹であるが、視線を向けられた女たちは無情にも首を横に振った。


「……無駄ですよ、リキエル。彼女の決意は本物です。たとえ貴方といえど、覆すことはできないでしょう」


「それに地上人どもの手が迫っている以上、重要な戦力である魔人の補充は、できるに越したことはないからのう。その資金石になってくれるというのじゃから、こちらにとってのメリットはある」


「……でもっ、だからと言ってさあ! せっかく助かった命を、粗末に扱っていいってハナシじゃないだろ!?」


「粗末になど扱っておりません! リキエル様に与えてもらったこの生を軽々に扱うことなど、できるはずがありません!」


 だから有効に消費してくれと。

 

 存分に使い潰してくれと、少女は心から訴えてくる。


 その気持ちこそが重荷なのだといいう、リキエルの本心は届かない。

 

「わたしはどのような形であれ、貴方様のお役に、立ちたいのです……っ」


 最後は祈るようにして。


 両手を身体の正面で組んだまま、膝をつき、深々と頭を垂れるモーエッタ。


「……あとは貴方が、決めることですよ、リキエル。貴方が選択してきた行為の結果には、相応の責任を負わなければなりません」


「主様よ、これもまた、畏敬を集める王の務めじゃ。よくよく考えて、せめて自分の納得のいく、答えを出されよ」


 などと、女たちは口々に言うものの。


(こんなのもう、結論は出ちゃっているじゃないか……っ!)


 少女自身の願い。

 迫る帝国からの使者。

 世界樹としての権能と立場。


 それら全ての圧力に、ちっぽけなリキエルとしての個人の意見などで、抗いきれるはずもない。


(けっきょく、こうなっちゃうか。『仕方がない』なあ……)


 ならばせめて、責任を持って。


 覚悟を決めて。


「……わかったよ、モーエッタ。キミを僕の魔人に、転生させてみよう」


「……っ!」


 告げられた青年の決断に、少女は込み上げる透明な雫で、頬を濡らしたのだった。


     ⚫︎


〈リキエル視点〉


 それから数ヶ月後。


「あははは、ざ〜こ♡ ざ〜こ♡ その程度でパーパにケンカを売るとか、アタマ悪過ぎるんですけど〜? えいえい、死んじゃえ! こんなメスガキに、惨めにプチッとぶっ殺されちゃえ♡ パーパに歯向かう人間どもは、このモーエッタちゃんがぜ〜んぶ挽肉にしてあげちゃうぞ〜♡ 喜べクズ肉ども〜♡」


 帝国騎士たちを嬉々として虐殺する魔人の姿に、リキエルは頭を抱えたのだった。


「どうして、こうなった……っ!?」


 

【作者の呟き】


 メスガキ魔人、爆誕っ!

 

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>「どうして、こうなった……っ!?」 リキエルと思いがひとつになった瞬間であった…
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