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第七幕 祭りの楽しみ方は人それぞれ ②

〈リキエル視点〉


 リキエルが空に放った樹槍が、落下地点にいた人間を貫いて地面に縫い付けると、周囲にいた半魔人たちから悲鳴が上がった。


「リ、リキエル様が、ご乱心!?」

「おお……世界樹様が、お怒りであられる……っ!」

「どうか私めの粗末な身体で、その怒りをお鎮めください……っ!」


「はいはい、皆さんどいてどいてー。ごめんね、驚かせちゃったねー。僕たちのお祭りに『害虫』が紛れ込んでたからさあ、ついカッなっちゃっただけなんだよー……でも後悔はしていない! あとそこの可愛らしいお嬢さん、そんなに我が身を粗末に扱っちゃダメだからね?」


 困惑する男性や、怯えて膝を折る老人、自らを人身御供にと進み出る少女などを掻き分けて、リキエルは自らが射抜いた人物の元へと到着する。


「おい……いつまで死んだフリしてるんだよ、害虫。とっとと起きろ」

 

「ダメですよ、リキエル。害虫はしぶといのですから、ちゃんとトドメを刺さなくては」

 

「がおっ! がおっ! がおっ!」

 

「……うおおおお、あっぶなああああいっ!」


 額に青筋を浮かべるリキエルに続き、樹杖を構えたアンジェが魔力の刃を放ち、ニーズが火球を吐き出したところで、大地に横たわっていた人物が慌てて飛び起きた。


 胸元を貫いていた樹槍を投げ捨てて、容赦ない追撃から、悲鳴をあげて逃げ回る。


「……ひいっ、ひいっ、ひいっ」


「ひっ!」「きゃあ!」「うええええんっ!」


 恥や外聞などまるで気にせず、周囲にいた老婆を、少女を、幼女を、小賢しく人壁として立ち回るその姿は、見るものを大いに苛立たせた。


「……シッ!」


 とはいえ、魔王すら討伐してみせた青年からすれば、動きを先読みすることなど容易い。


 回収した樹槍を今度は、人影の足元を貫くようにして投擲する。


「ぎゃああああ!」


 両足を串刺しにされた人物は無様に転倒し、すぐさま馬乗りとなったリキエルによって、その顔を覆っていた木彫りの面を取り外された。


「……よう、邪神。久しぶりだな」


「は、はろ〜、リッキー……? お元気そうだね……?」


「……」


 卑屈な笑みを浮かべる道化男に、

 リキエルは無言で拳を叩き込む。


「ぶべらっ!?」


「……あれ? おかしいな? いったいいつから僕たちはそんな、フレンドリーな仲になったんだっけ?」


「リキエル、虫の羽音に意味を求めても無意味です。ただ不快なだけなので、鳴き止むまで叩き潰すのが正解です」


「この! この! 妾たちの民を、盾にしおって! くたばれ害虫!」


「なんだこの蛮族ども!? 神に対して信仰心はないの!?」


「あるわけないだろ、邪神」


 身動きを封じられれたまま、リキエルたちから殴る、蹴る、踏まれる、引っ掻かれるといった暴行を受けた男の顔は瞬く間に腫れ上がり、血だらけとなった。


 周囲の半魔人たちがドン引きするなか、勇敢にも声をかけてきたのは、この広場を取り仕切る族長筋の男である。


「あ、あの……リキエル様、その者はいったい、何者なのですか? 見たところ、人間のようですが……」


「ああ、こいつが例の、邪神だよ。正確にはその分体だけど、この野郎、こっそりと僕たちの祭りに紛れ混んでやがった……っ!」


 新たな世界樹に代替わりすることで。


 リキエルの支配下に置かれたこの魔樹迷宮には、あちこちに情報収集目的の監視樹(レコードツリー)がばら蒔かれている。


 普段は迷宮の治安維持に役立てている魔樹であるが、本日はそれに、奇妙な転移魔法による魔力干渉を察知したのだ。


 封印解除の折に、世界樹の権限で地上からの転移を禁止している迷宮に、外部から干渉できる存在など、限られている。


 痕跡を辿っていると案の定、樹面で顔を隠して祭りを謳歌する、忌々しい邪神を発見したのだった。


「なんと……それでは此奴が、件の邪神ですか!」

「この無能神!」

「我らの世界樹に仇なす悪神め!」

「貴様の悪辣な怠惰のせいで、我らがどれほど苦しめられたことかっ!」


「ぎゃああああこの半魔人ども、神に対する殺意が高すぎるうううう!」


 リキエルたちと入れ替わるようにして。


 群がってきた半魔人たちが、口々に憤りながら先ほど以上の暴行を加える。


 その様子を後方腕組みで眺めていた青年たちに、芋虫のように身を縮めて身を守ろうとする道化男が叫んだ。


「ちょ、ちょっと待って、リッキー! ボクの話を聞いておくれよ!」


「黙れ害虫。せめて人間様に対する口の利き方を覚えてから出直してこい」


「リキエル様! 世界樹様! どうかお願いしますから、この哀れな神に弁明の機会を!」


「ねえ、なんで咄嗟にそんな卑屈な言葉が出てくるの? もしかして慣れてるの? 神としてのプライドはないの? ねえ?」


「……ぐうっ、おねがい、いだじま゛ずう゛……っ!」


「……はあ、仕方ないな。みんなちょっと、手を止めて。いちおう話を聞いてみよう」


 リキエルの言葉によって、渋々ながら半魔人たちが矛を収めることで、ようやく道化男は身を起こすことができた。


「はあ、はあ、なんだよこの野蛮人ども……神の怒りが怖くないのか? 天罰を下すぞ?」


「見栄を張るなよ、邪神。信仰心皆無なお前にそんな力がないことぐらい、お見通しなんだよ」


 でなければもっと直接的な方法で、リキエルがまだ力を持っていない状態のときに仕掛けていたはずだというのが、神々の生態に詳しい〈守護天使(アンジェ)〉の見解である。


 現に本日もああして、リキエルの目を欺こうとしていたこと。


 またあのような暴行を受けながらも、生成にそれなりの費用(コスト)がかかる分体を切り捨て(パージ)しない様子からも、彼女の推測が正しかったと裏付けできる。


 今の邪神には、壊されても復活(コンティニュー)可能な分体を地上に遣わすことぐらいしか、世界に干渉する術がないのだ。


「……で、無能で無様で無価値なゴミカス下級神様が、いったい僕に、何の御用で?」


「い、いやだなあ、リッキー、ボクとキミの仲じゃないか? ん、もしかして何か誤解してる? 不幸なすれ違いとか起きてない? 大丈夫大丈夫、人は話せばわかる。神様だって分かり合えるよ、きっと!」


 四方八方から鋭い視線に晒されながらも、にっこりと胡散臭い笑顔を浮かべる道化男に、美女が慄いた。


「こ、このゴミクズ無能神……どういうツラの厚さをしていれば、こんな台詞を堂々と口にできるのですか……?」


「主様、この悪神に慈悲など無用じゃ。まずはそのペラペラとよく回る不快な二枚舌を、引っこ抜いてやりましょうぞ!」


「ヘイヘイ、リッキー! この暴力幼女を止めて! 目が本気だから!」


 ビキビキと両手を竜化させるニーズに対して、リキエルが眉根を寄せる。

 

「こらニーズ。そんなばっちいもの、触ったらめっ、でしょ!」


「さすがリッキー! マイベストフレンド!」


「薄汚い口を塞ぐなら……ほら、あれを使いなさい」


「うむ、わかったのじゃ。主様はまっこと、お優しいのう……」


「いや、優しくない! そんな大岩で口封じを示唆する人間を、ボクは優しいなんて絶対に認めないぞ!」


 ニーズが両手で拾い上げた、子どもの頭ほどもある岩石を見つめて、涙目で泣き喚く道化男である。


 アンジェが不思議そうに首を傾げた。


「……おや? 何か、勘違いしていませんか?」


「……っ! そ、そうだよねえ! 知性ある生物がそんな、野蛮な真似しないよねえ!?」


「塞ぐのではありません、砕くのですよ?」


「もうヤダこの暴力天使いいいいいっ!」


 止まることを知らない殺意が、

 道化男を全方向から包囲する。


「……はあ」


 本心ではこのまま道化男を処刑したい気持ちを抑えつつ、リキエルは執行人たちを押し留めて、口を開く。

 

「……で、ホントにいったい、何なんだよ? 何が目的なの? 僕たちに恨まれてることぐらい、分かりきってただろ? それでもこうしてノコノコと間抜け面を晒してくれたんだ、それだけ大事な要件があるなら、さっさと言えよ」


「……? いや別に、楽しそうな祭りをしてたから、顔くらい出すでしょ? 普通?」


 道化男は本日一番の、澄んだ瞳をしていた。


「うわ〜……何その、真性パリピ感。相容れないわ〜。ということで、やっちゃって、ニーズ!」


「よしきた、主様! まずは前歯からじゃ! それが身動きできぬよう、皆で取り押さえるのじゃ!」


 大岩をずっと両手で抱えていた幼女が号令をかけると、周囲の半魔人たちが躊躇うことなく道化男の顔を掴み、上を向かせて固定。


 顎と頬肉を引っ張って、歯茎を剥き出しにする。


「は、はっへはっへ! ひょうひゃん、ひょうひゃんひゃっへえ!」


「……次、ふざけたこと抜かしたら、容赦なく前歯全部圧し折るからな? ちゃんと覚悟して言葉を選べよ? いいな?」


 頭上に大岩を振り上げたニーズを片手で制して、再度リキエルが問いかけると、道化男はガクガクと頭を振りながら喋り出す。


「い、いやね、いま地上が……正確にはここに汚染魔晶石を送りつけてきていたファスティア帝国が、かなーりマズいことになってるんだけど、知ってる? 知ってるよね?」


「え? 知らない」


「いやいや、そこは知っとけよ。仮にも世界樹だろ? 世界情勢の把握は、管理者の基本だぜ?」 


「……ニーズさん、岩を」


「任せよアンジェ!」

 

「なってるんですよ! マジで! のっぴきならないぐらいに!」


 美女と幼女の冷たい視線は、邪神に効果バツグンだ。


「それで?」


「だから近々、その原因を調査するために、帝国から調査団だか使節団だかが派遣されてくるんだけどさあ……」


 道化男は、じつに清々しい笑みを浮かべて。

 

「……そいつら全員、返り討ちにしちゃわない?」


「……」


「んでせっかくならそのまま、ユー、帝国も滅ぼしちゃいなヨ! そうすれば魔族も積年の恨みを晴らせてスッキリ。キミは支配領域を拡大できてホクホク。ボクも人間たちが窮地に陥ることで、信仰を獲得できるチャンスをゲットできるわけだから、みんなが得をする、ステキな提案じゃない!? これ! ね、天才じゃね!? ボクって天才過ぎない!? えええ、どうしよう、ボク、自分の有能さが怖い……っ!」


「……ロキシル」


「ん? なんだい、マイベストフレンド?」


「僕はまだ……キミのことを、見誤っていたよ」


 途中から話を黙って聴いていたリキエルが笑みを浮かべると、道化男もつられて笑みを浮かべる。


「まあまあ、それは仕方ないよ! 人間程度の小さな視点で、神の偉大さを推し量るのは難しいからね!」


「僕はまだまだ……キミを、過大評価していたようだ……」


「……へ?」


 ただし目の奥が笑っていない。


 完全にキマっていた。


「ちゃんと言葉にしないと伝わらないようだから、はっきり言ってやるけど、どうして僕が、お前の手足となって、大量虐殺してまでわざわざ人間たちの恨みを買わなきゃなんないんだよ? 馬鹿なの? 死ねば? いやホント、死んでくれよ、頼むから。それができないなら黙れ。その腐った口を閉じろ。これ以上意味不明なことを言って、僕を苛つかせないでおくれよ……」


「っ!? ま、待って待ってよリッキー! そんなぶっといの、ボクのお口には入らなあああああおろろろろぼはあっ!」


 真顔になったリキエルは、これ以上邪神に不快な妄言を吐き出させないため、樹槍の先端を深々と口の奥に突き入れたのだった。


  

【作者の呟き】


 伝わるかどうか分かりませんが、フルメタルなほうの錬金術アニメにおいて、ヘイトを溜め続けた嫉妬さんが激おこ大佐にボッコボコにされるシーンが、作者は大好きでした。

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