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第六幕 魔王様は待ち焦がれる ⑤

〈リキエル視点〉


「まったく……魔人(しもべ)魔人(しもべ)なら、魔王(あるじ)魔王(あるじ)です。貴方がたは創造神から竜属性の他に、粘着(ストーカー)属性でも付与されているのですか?」


 人形の如く精緻極まる美貌に無表情を浮かべて。


 淡々と、毒を吐くのは。


 白地に金糸と銀糸が編み込まれた、簡素でありながら気品が漂う純白の衣装に身を包む、金髪碧眼の美女であった。


 黄金を溶かしたような金髪の頭頂には天使の輪が浮かび、大きく切れ目(スリット)の入った背中からは、純白の翼が左右に広がっている。


 豊かな双丘と臀部に反して、腰元は中身の存在を疑うほどにくびれており、スラリとのびた長い手足には、芸術品のようですらあった。


 異性であれ同性であれ。


 目を惹かれずにはいられない暴力的な魅力を宿した美女の名を、〈守護天使(アンジェ)〉と言う。


 リキエルが魔王討伐という目標(ノルマ)を達成したため、余った素材で自らの分体を作成した、天使が宿る憑依体である。


「な、なんじゃとう!? 如何に我が盟友といえど、その侮辱は聞き捨てならぬぞ! 妾はちゃんと、主様の承認を得ておるわい!」


「あ、いちおう粘着質な自覚はあるんだね」


「俺は魔王さ……ニーズ様の御身を、慮っているだけだ!」


「また湧いたか粘着蝿! がおおおおおっ!」


「うがあああああっ!?」


 当然のように現れた魔人を、流れるように焼いて、火達磨と化したそれに目もくれずに幼女と美女が睨み合う。


「返しなさい、ニーズ。(これ)は私の所有物です。無断借用は許しませんよ」


「良いではないか、アンジェ! うぬは常に、主様(の魂)と繋がっておるのじゃろう!? それができない妾はせめて、主様と肉体で繋がっておりたいのじゃ! いわば身体だけの関係なのじゃ!」


「う〜ん、ニーズ、その発言はアウトだ。ちゃんと主語を明確に説明してくれたまえ」


「具体的には首輪をつけて、乱暴に引き摺り回して欲しいのじゃ!」


「キミはいったい僕をどこに連れて行きたいの? 刑務所? 物理的に殺されたから、社会的に殺したいの?」


 たとえ異世界であっても、幼女に首輪をつけて引き摺り回す鬼畜はアウト判定だと信じる、異世界人である。


「あとアンジェ、お願いだから関節極めてる右腕を離して? もしくはニーズが首から降りて? 二人とも僕が苦しそうなの、見えてないの? 馬鹿なの? 本当に僕を殺したいの?」


「仕方ありません、恋は盲目と言いますからね」


「それ本当に見えなくなるわけじゃないから! なんでも恋って言えば許されると思うなよ!」


「じゃから妾を! 無視して二人でイチャつくな! 泣くぞ!? 妾また泣いちゃうぞ!? びえええええんっ!」


「うるさあああああい! 耳元で泣き喚く幼女とか、リアル音響兵器なんですけど!」


「貴様あああああ! だから魔王さ……ニーズ様を悲しませるなと、何度言えば――」


「ふっ!」


「がおっ! がおっ! がおおおおおっ!」


「――うぎゃあああああっ!?」


 香ばしい匂いを撒き散らしながら突撃してきた赤髪の魔人を、アンジェが手にする樹杖を用いた魔法で空高く打ち上げて。


 宙に舞った的を目掛けて、ニーズが口から火炎弾を連続射出する。


 ドオオオンと、洞穴の天蓋に、汚い花火が咲いた。


「……それでアンジェ、キミが呼びに来たってことは、もう決勝戦は終わったの?」


 そうした魔樹迷宮の日常風景を一瞥した後で。


 何事もなかったかのようにリキエルが尋ねると、アンジェもまた、無表情で顎を引く。


「ええ、大会はひとまず閉幕して、優勝者も決まったのですが……少しばかり、それについて相談がありまして。本人を待たせているため、詳細は移動しながらお話をしたいのですが、よろしいですか?」


「ほいほい、じゃあとりあえず転移樹(ワープツリー)を繋げるよ」


 アンジェの提案を了承して。


 リキエルが手にする樹槍の先端を地面に突き刺すと、若木が芽吹き、見る間にそれは二メートルほどの樹に育って、パックリと幹が裂けることで人が通れる大きさの巨大樹洞(うろ)を作り出す。


 樹に開いた大穴の向こうは霊脈で繋がった別の樹洞へと繋がっており、リキエルの子樹が繁殖した支配領域で使用することができる、魔樹を用いた転移門(ワープゲート)であった。


 本来であれば、伐採した魔生樹を手間暇かけて加工することで、高価な魔道具に仕上げる人族においては一般的であるが。


 親樹であるリキエルならば、子樹をそのような工程をすっ飛ばして直接、魔道具へと造り変えることが可能である。


 これこそが、世界樹であるリキエルだけが用いることのできる、神樹魔法の一端であった。

  

「ん」


「はいはい、エスコートしますよ、お姫様」


「んっ! んんっ!」


「いやだから、僕の腕は二つしかないからね? 木の枝みたいに簡単に、ニョキニョキ増やせないからね?」


 正確には分体に追加外装(オプション)として付け足しても、操作に慣れるまで練習が必要なのだ。


 当然のように腕を差し出してきた美女の腕を取ると、首にしがみついていた幼女が対抗するように竜尾をバタつかせる。


 魔樹を操作するため樹槍を手放せないリキエルとしては一方しか相手をできないのだが、お互いに譲る気配のない両者はけっきょく、ニーズを片腕で抱き抱える青年の腕に、美女が自らの腕を通すことで、お互い納得したらしい。


 だったら最初からそうしてくれよと内心で独りごちる世界樹であるが、これらも不器用な天使と魔王なりの、交流(コミュニケーション)なのだろう。


 賢明なる世界樹は、藪を突いてこれ以上、黒竜や天使の機嫌を損ねることを回避したのだった。



【作者の呟き】


 ちょっとわかりづらいので細く説明をば。


 百年前……リキエルが異世界に転移、世界樹へと転生。ニーズがそれを発見。


 七十年前……ニーズがアンジェとの交信に成功。


 五十年前……リキエルの自我が目覚める。彼の認識においては、ニーズとの交流はここからスタート。


 三十年前……世界樹の機能を徐々に使いこなせるようになってきたリキエルが、魔樹による階層移動を用いて、モーエッタを始めとする半魔人たちとの交流を始める。


 十年前……半魔人らの協力を得て大量の凶魔素材を獲得したリキエルが、ついに魔王を討伐。新たな世界樹となる。


 現在……今ここ。リキエルが異世界転生しておよそ百年。神代魔樹迷宮が勇者に封印されておおよそ千年くらいです。

 

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