間幕 ⑤
【注意】この辺りから本編と間幕との時間軸が前後しておりまして、最終的には合流するのですが、それまでわかりにくい部分があればご容赦ください。
その前提で、あまりにも理解不能な部分があれば、ご指摘などいただけるありがたいです。
〈ユグド視点〉
五年間の在籍期間を経て、晴れて帝国が運営する学舎を卒業することができたユグドは、そのまま帝国軍に就いて、十六歳にして歩兵としての初陣を飾ることとなった。
「って言ってもまあ、俺たちは数合わせのお飾りみたいなもんだけどな」
「そうそう、どうせいいところは全部、お高い聖浄魔道具を用意した貴族様に持っていかれるんだろーぜ」
「っていうか支給された聖浄魔道具、酷くね? こんなんじゃ魔獣すらまともに狩れねえよ」
「そりゃテメエの腕がヘボいだけだ。そんなんじゃ魔人はおろか半魔人すら、運よく見つけてもとっ捕まえらんねーぜ?」
「ん、半魔人? なんだそりゃ?」
「なんでも例の先行部隊の生き残りが、魔人と一緒に暴れる人族を見かけたっていうんだよ」
「そうそう、それな」
「むかし迷宮封印時に内部に取り残された人族が、魔人どもに飼い慣らされて〈存在進化〉したんじゃないかってハナシだぜ?」
「んでもってそいつらは、帝国法の人族に該当しないから、とっ捕まえたら無条件で奴隷にしていいんだってよ!」
「ああ、だから貴族連中なんかは息巻いてんのか」
「俺も若くて可愛い女の奴隷欲し〜っ!」
帝都から戦場とされる魔樹迷宮に進軍して、
すでに三ヶ月ほどが経過している。
およそ千年前に勇者たちによって封印され、何らかの方法で近年それを破ったとされる魔族らが、かつて王族たちと交わした契約を反故にして立て籠っているという神代魔樹迷宮は、もう目と鼻の先である。
にも関わらず、不遜なる魔族に天罰を下すべく集った帝国軍に、緊張の色はなかった。
何せ目的地に近づくにつれ、続々と有力貴族や地方領主の増援が加わってくるのだ。
必然的に軍全体の行軍速度は遅くなるものの、今やその数は五万を超えるまでに膨れ上がっている。
対する魔族は、その従僕である魔獣を除けば、戦力として数えられる人数は三千に満たないだろうという、帝国軍部の試算であった。
それら魔獣にしても、魔素濃度の関係で産み出せる数は限られているだろうし、強い魔族ほど、上層や地上での活動には制限がかかるというのが、有識者からの見解である。
どうやら迷宮の中では奇襲という形で、二百名からなる先行部隊を壊滅させたようだが、しかし彼らは所詮、先触れに過ぎない。
本腰を入れた帝国軍には歴戦の将も混じっており、長年に渡り他国と鎬を削ってきた勇将の率いる正規軍であれば、長年迷宮に籠り続けてきた少数民族の鎮圧など、瞬く間に片付いてしまうだろう。
圧倒的人数。
圧倒的装備。
圧倒的武力。
これら全能感に包まれた帝国軍が、多少緊張感を欠いていても、仕方がないというものだろう。
(……ったく、こんな闘いじゃ、戦功もろくに挙げられないだろうな)
隊列を成して従軍するユグドなどは、結果のわかりきっている戦いに、苛立ちすら覚えていた。
「おいおい、ユグドくん? なあーにそんな、不機嫌ヅラ晒してんだよ?」
「溜まってんのか? だから前に寄った街で、我慢せず娼婦と遊べばよかったのによお」
「ああー、ダメっすよ先輩。こいつ、彼女いるんで」
「衛生兵なんですけど、めっちゃ可愛くて、めっちゃ怖いんだべ。浮気がバレたら殺されちまうべよ」
「ぶはははは! そりゃ傑作だ!」
「おい新人! 魔族よりも先に彼女ちゃんに殺されるんじゃねーぞ!」
よほど暇なのだろう。
容赦なく個人情報を拡散させる学舎時代からの悪友と、それに悪ノリする先輩兵士らに揉まれて、ユグドの顔は険しくなるばかりだ。
「じゃ、じゃあ何か? もしかしておまえ、この戦いが終わったら、一人前になったってことでその彼女ちゃんに告白でもするつもりなのかよ!? ええっ!?」
「……だったら、悪いっすか」
「ヒューっ!」
「おいおいこいつは、盛り上がってきたじゃねえか!」
「こりゃ何としても、うちの部隊で一旗あげなきゃなんねえな!」
「任せろ新人、先輩たちの頼もしい背中、拝ませてやるよ!」
「だから結婚式には呼んでくれよな!」
「もちろん、たっぷりと祝い酒を用意してな!」
「軍隊で鍛えられた肝臓の力、見せてやるぜ!」
そのように先輩方に絡まれならがらも、
帝国軍は着実に進軍して。
ついには世界最古の魔樹迷宮に、蓋するようにして建てられた、迷宮都市へと到着する。
「よし、では命令あるまで、都市に入りきらぬ兵はこの場にして待機だ! 野営の準備をせよ!」
迷宮内への侵攻を翌日以降に控えて。
兵士たちが寝床を確保するために、迷宮都市を囲うようにして野営の準備を始めた……
そんな時である。
『……魔樹迷宮の前に居並ぶ、人族に告げる!』
ボゴリと、なんの前触れもなく。
地面から、見たこともない奇妙な樹が生えてきて。
人面相じみた樹洞から、厳しい男の声を吐き出した。
「おいおい、何だよこりゃ!?」
「し、知らねえよ!? 魔族の魔法か!?」
「ここは地上だぞ!?」
「アイツらまさか、上に出てきてるのか!?」
予想外の魔族の先手に、動揺を隠せない帝国兵たち。
「お、おい、どうする、ユグド!?」
「とりあえずセンパイたちは、武器を持って集まれって言ってるべよ!?」
「……そうだな。戦闘準備はしとくか」
ユグドも困惑する悪友たちと意見を交わすが、本音を言えば、すぐにでもアイリスの元へ駆け付けたかった。
だが軍事行動中の兵士に、そのような身勝手は許されない。
けっきょくユグドは仲間たちとともに、所属する部隊の戦列に加わることを選んだ。
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このときの選択を、ユグドは一生後悔することになる。
【作者の呟き】
学園を卒業して帝国軍に就職したユグドくんが、悪友やアイリスちゃんと一緒に、魔樹迷宮の鎮圧任務に参加します。




