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第五幕 世界樹育成計画 ②

〈リキエル視点〉


 十年以上も魔樹迷宮(ダンジョン)の最深部で人知れず、

 リキエルが魔王と戦っている間もずっと。


 アンジェは彼の本体である世界樹が現在使用できる機能を最大限に活用して、迷宮内の情報収集に当たっていた。

 

 そうして現在の魔樹迷宮の状況と、住人たちが置かれている境遇を知ったとき。


 リキエルが彼らの境遇に胸を痛めていた一方で……


 アンジェはというと、宿主とは違う着眼点を見出していた。


 汚染魔晶石を使った、意図的な『凶魔の生産』である。


【そもそも理樹。なぜ汚染魔晶石が凶魔を産み出すのか、魔力汚染とはなんなのかを、理解していますか?】


 この『凶魔量産計画』を開始するにあたって。


 そのような問いかけをしてきた〈守護天使(アンジェ)〉に、リキエルは首を横に降った。


「たしかにそう言われると、ちゃんと答えられないね。なんとなく、悪いものが悪い影響を与えてるんだってことは、わかってるんだけど」


【そうでしょう、そうでしょうとも】

 

 実際に姿が見えなくても、長年の付き合いだ。


 彼女が浮かべている表情など容易に想像がつく。


 案の定、アンジェ先生は上機嫌な様子で、授業を開始した。


【では改めて説明しましょう。いいですか、理樹? 以前にも軽く触れましたが、この世界における最小単位とは魔素であり、これは私たちが魂から発する波長……『魂力』を加えることで、様々な性質の魔力に変化します】


 そうして肉体という『器』のなかで。


 魂力の影響を受けて自身の魂に近い波長となった魔力を体内魔力(オド)と呼び。


 器の外側にあるそうでない魔力を体外魔力(マナ)と呼ぶ。


 さらに外部から取り入れた体外魔力(マナ)体内魔力(オド)を混ぜて練り上げることで、魔法や魔技などに用いる精錬魔力(ソール)に変換することが、この世界における魔法の基礎なのだと、リキエルは説明を受けていた。


【そして魂力によって属性を得た魔素を、わかりやすく正反対の二属性、(いん)魔素と(よう)魔素とでも定義しましょうか】


「お、陰陽道か。わかりやすくていいね!」


【えっへん。私はダメな生徒にも気を配れる、優れた先生ですので】


「うん、知ってた」


 不出来な生徒扱いされても、すんなりと受け入れられる程度には、すっかり飼い慣らされている世界樹である。


【では理樹、貴方の前世における知識のまま、この陰と陽の魔素のざっくりとした印象を言ってみてください】


「えっと、陽は明るくて綺麗な感じで、陰は暗くて汚れてるイメージかな?」

 

【ええ、概ねそれで、正解です。もう少し詳しく説明するなら、この陽魔素からなる魔力は『正』の性質を有しており、回復魔法や身体強化、土地の回復や結界の構築といった、何かを創造するために必要な魔力となります。対して陰魔素からなる魔力は『負』の性質を有しており、攻撃魔法や減衰魔法、対象の腐食や呪詛といった、何かを破壊するための魔力となります】


「ほへ〜。なるへそ」

 

【一見して正反対の用途に用いられている魔力ですが、その根幹は同一であり、全ては本質の裏側と表側でしかありません。ゆえに一方に偏った魔力を打ち消す、中和する、通常値に戻す場合には、対となる魔素をぶつけて陰陽を相殺するのが、一般的な手段ですね】

 

 そして体外から、有害とも表現できる、陰魔素を取り込むことで。


 己という器のなかで、魂力を消費して陽魔素に変換した体内魔力(オド)を混ぜ合わせることで、属性中和を図っているのが、半魔人における巫女たちのような存在なのだと、アンジェは告げる。


【ですがそうした体内に陰魔素を取り込む方法ですと、体外で魔素中和を図るよりも効率はいいのですが、そのぶん魂力の消費によって、発生源である魂魄そのものが疲弊してしまいます。それでもまだ、魂力の自然回復量が陰魔素の体内含有量を上回っているあいだはいいのですが、その比率が逆転したとき、魂魄そのものが陰魔素に侵食されて、その結果は器へと反映されます】


「……えっと、具体的には?」


【肉体の老化や腐敗、衰弱や壊死といった症状が、わかりやすいものですね。そうして器の状態が損なわれれば、当然ながら内側に保管される、魔力の質も悪くなります。そうなってしまえばあとは泥沼式に症状は悪化していき、精神が病んで、最終的には器の崩壊、すなわち『死』へと到達することは、容易に想像できますね?】


「……」


 本来であればそうならないよう、浄化を生業とする者たちは魂魄の安定が保てる程度の陰魔素しか取り扱わないのだが、この魔樹迷宮においては、地上人から転送されてくる汚染魔晶石が、それを許してくれない。


 凶魔の発生を防ぐため。


 ひいては迷宮の崩壊を回避するために。


 迷宮に住まう魔人や半魔人たちは、四百年ほど前から地上人が汚染魔晶石を転送してくるようになってからというもの、今日(こんにち)に至るまで、我が身を削った浄化作業を行なっているのだ。


【理性ある人族であれば、そうした己の状態を理解して、対策をとることも可能なのですが……知能が低い魔獣ですと、そうはいきません。己を構成する魔素の陰属性が高い場合、精神に変調を起こした魔獣は、本能的な恐怖を回避するために、外部から陽属性の魔素……つまりは他の生物の血肉を喰らい取り入れることで、己の状態を安定化させようとするのです】


「……ああ、なるほど。それがこの話の、メインなんだね?」


【その通りです】


 斯様にして。


 陽魔素欠乏状態に陥った魔獣の飢餓を、人は『凶魔』化と呼ぶのだった。

 


【作者の呟き】


 得意分野になると饒舌に語り出すドヤ顔天使さん、可愛くないですか?

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