間幕 ④
〈ユグド視点〉
「あー、もう、ほんっと、信じらんない! なんですぐ、そうやってケンカするの!? 話し合いで解決できないの!? 馬鹿なの!? それが女の子を待たせてまで、することなの!?」
「あーもー、うっせえなあ。いいじゃねえか、けっきょくあいつらも手を引いたんだし。それに待たせるもなにも、こっちは補習受けてたんだから、仕方ねえだろ?」
「だったら少しでも早く来なさいよ! それが子分の役目でしょうが!」
「子分って、お前……いったい何年前の話を擦り続けてんだよ。いい加減、期限切れだろ? それ」
「『男に二言はない!』『負けたほうが一生、勝ったほうの子分だからな!』ってイキってたのは、どこのどなたでしたっけ〜?」
「……」
「おい、返事は?」
「……うす。この、アイリスさんの従順な下僕です」
「うむ、よろしい」
満足気に腕を組み。
金髪を風に靡かせる少女の横に並んで。
学舎から許可を取って外出したユグドは、雑踏が溢れる帝国の下街を、さりげなく少女を庇うようにして移動していた。
「ああ、それとユグドくん」
「なんだよアイリス。まだ何か、文句でも?」
「んー、文句というか……アドバイス? その、たぶんわざと気崩している制服、前から思ってたけどダサいよ?」
「……ぐふっ!」
「いやなんかさあ、ちょっと悪ぶってる男子って、たしかに女子から人気があるけど、私はそういうの、いいかな〜って。ぶっちゃけ、だらしない男ってキライだし」
「べ、べべべ、べつに、お前の趣味なんざどうでもいいんだよ! ヨケーなお世話だ!」
「ん? そう。だったらいいけど。だったら次からの買い物は、並んで恥ずかしくない人にお願いするだけだし」
「……」
明日からはちゃんと制服を着用しようと、心に決めるユグドであった。
「それにしてもさあ、ユグドくんはもっと、真剣に将来のこと考えた方がいいよ? さっきキミたちが絡んでいたのって、魔術科のザックくんでしょ?」
「……あいつのこと、知ってんのかよ?」
「だってそこそこ有名じゃん、ザックくん。少数精鋭の魔術科で、いっつも学年トップの成績だし、このままいけば配属された部隊とかで、上司になる可能性もフツーにあるわけじゃん? おまけに下級とはいえ貴族の出身で、顔もよく見たらほどほどにイケメン。優良物件だって、狙ってる子多いんだよ?」
「はっ。べつに女子の評判なんて、どーでもいいんだよ!」
「ちなみにユグドくんは三馬鹿の筆頭として、悪い意味で有名。三人集まると、なんか臭そうだって」
「……なに、さっきからお前、なんでチョイチョイ刺してくるの? オレなにか、怒らせるようなことしましたか?」
とりあえず悪友たちには今後、清潔感のある格好をさせようと、心に固く誓うユグドであった。
「べっつにー……あああと、はい、これ」
「んだよ、これ」
「さあ? 私はキミに渡してくれって頼まれただけだから、中身までは知らないけど。っていうか興味、ありませんけど」
どうやらこれが、わざわざ買い出しの付き添いを命じた少女の本命であり。
彼女が不機嫌な理由でもあるようだった。
「……あー、まあ、その、なんだ? いちおう、受け取った方がいいのか、これ?」
「知らないけど、受け取った方がいいんじゃない? その後どうするのか、私に聞かれても困りますけど?」
「ああ、じゃあ受け取るけど……たぶん、この手紙をくれた子には、悲しい思いをさせちまうことになるぜ?」
「ふ、ふーん、そうなんだ……」
「だってオレもう、好きなヤツいるし」
「ほ、ほほう、それはまた、ぶっちゃけたねえ………………同学年?」
「そっ。あと金髪で碧眼で人のことを容赦なく子分扱いしてこき使う、衛生科とは思えない性悪な女だよ」
「そ、それはまた……ユグドくん、女の趣味悪いねえ。モテるのに」
「おう、オレもそう思う」
「あ、モテるのは否定しないんだ。ナルシストだ〜」
「茶化すなよ」
「あ、はい……」
「……」
「……」
それからしばらく、無言のまま。
夕暮れに染まりつつある街並みを、
二人並んで歩く。
「……はいいらっしゃいいらっしゃい、待望の、聖浄石が入荷だよ!」
「いやいや、高い! 高すぎるわ!」
「足元見んなや、ボッタ屋が!」
「あ、このパイ焼き包み美味しい!」
「うわ、ホントだ! 私もひとつ買お〜っと」
「また護衛代をケチった行商が、街の外で襲われたってよ」
「最近そういう話が多いな。間引きの兵士たちはいったい何してるんだよ?」
「は〜いそこのオニーサンたち、ちょっと遊んでいかな〜い?」
「うっせえブスども! こちとら負けて気が立ってんだ! 鏡見てから出直して来い!」
「ふざけんなブサイク! てめえみたいな素寒貧、こっちが願い下げだよ!」
間も無く夜を迎える帝都には、
様々な喧騒が溢れ返っていた。
それら周囲の雑音を聞き流して歩いていると、ポツリと、傍らの少女が呟く。
「なんだか最近……物騒な話が、多いね。あのウワサ、本当なのかな?」
「あああの、魔族どもが居着く魔樹迷宮で、反乱が起きたとかいう?」
それは近年、巷に流布している噂話であった。
そのせいで治安が荒れ、流通が滞って、いるとかいないとか。
「内容までは詳しく知らないけど、とにかく勇者様に封印されてた魔樹迷宮で、なんか問題があって、そのせいでいろんな問題が起きてるんだって、みんな言ってるじゃない?」
「だとしても、カンケーねえよ。そういう大事は、王様とかの偉い人がなんとかしてくれるだろ。オレたち平民に何ができるってんだ?」
「……なんか、大人になっちゃったねー。ちょっと前なら『最強兵士の俺様が魔族にお仕置きしてやるぜ!』ぐらいなことは、言ってくれたと思うんだけど」
「……オレも、成長したんだよ。自分の身の丈ぐらいは、わかってるってーの」
三年ほど学舎で過ごして。
様々な才能を目の当たりにして。
いまだ自分の才は疑っていないが、それでも自分がいかに小さな世界に生きていたのかは、十分に思い知った。
かつて勇者に憧れた少年は、もういない。
代わりに。
「オレはオレが、守れるものを、守りたいものを、精一杯守るよ」
身の丈を知った少年は。
「……もちろん、お前のこともな」
「……うん、お願いします」
その日、生まれて初めての恋人ができたのだった。
【作者の呟き】
ユグドくんに彼女ができました。
一方で帝国には、不穏が立ち込めています。




