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第三幕 異世界転移ってこんなだっけ? ③

〈理樹視点〉


「はい、じゃあというわけでリッキーにはこれからボクの世界に転移して、人間たちを滅ぼしてもらいます!」


 あまりに唐突に。


 なんの脈絡もなく。


 異世界の自称神様は、そんな言葉を口にした。


 理樹が二十四年を過ごした世界から〈(ゲート)〉を潜って虚無の空間へと移動し、そこからさらに〈(ゲート)〉を使って異世界へと転移した、直後のことである。


「……はい?」


 どういう仕組みなのかは知らないが、いつの間にか、先ほどまで消失していた前世の肉体が復活していた。


 ただしその胸元には複雑な魔法陣のような紋様が刻まれており、身体は一糸纏わない、完全無欠の裸族である。


 小さな理樹が股下で心許なくプラプラと揺れるが、ここはまだ、あの虚無なる世界の延長のようなので、誰もいない空間にそれを咎めるものはいなかった。


 そんなことよりも。


「えっと……ロキシル、さん? 今なんて?」


「『さん』じゃなくて『様』な? 人間」


 自分の世界に戻った瞬間に威圧をかけて(マウントをとって)くる小物神に、理樹は再度、問いかける。


「あー……じゃあ、ロキシル、様? は、さっきなんと仰いましたか? 僕には『人間を滅ぼせ』って聞こえたんですけど?」


「そうだよー、キミはボクの使徒。神様の都合上、管理世界に直接神罰を下せないボクに代わって、信仰心を忘れた不忠な人間たちをブチ殺して回るのが、異世界転移したキミの役割なのさ〜♪」


「いやいやそんなの、聞いてないんですけど!?」


「聞いてなくても役割だからね。神様と契約してこうして異世界転移した以上は、やることやってもらわないと……ねえ?」


 想像以上にブラックな異世界労働だった。


 今更ながらに、自分の楽観を後悔し始めた理樹である。


【……本性を表しましたね、下級神】


「ん? んん? なんのことだい天使ちゃん……じゃないか、今は『権能』、ボクの世界でいう『ギフト』ちゃんだね!」


【貴方が設定した世界の詳細など、どうでもいいのです。それよりも、先ほどの発言は一体どういう了見ですか? 転移者に自らの世界を滅ぼせとか、それでも貴方、世界の管理を任された神の端くれですか?】


「神様だからこそだよ、小生意気なギフトちゃん」


 思念伝達だけで憤るアンジェに対して、

 あくまでロキシルは飄々と、

 軽薄に笑う。


「ぶっちゃけさあ……ボクの世界の人間って、もう手遅れなんだよね。世界樹(ユグドラシル)のある神代魔樹迷宮エンシェントダンジョンを封印されてからというもの、神が与えたもうた試練をそっちのけで、自分たちの欲求を満たすことだけに腐心しちゃってさ。向上心とか完全にゼロ。神であるボクに対する信仰もほとんどなくなっちゃってるくらいに、この世界は終わってるんだよ」


【あ、貴方……そんなに手遅れになるまで、どうして世界を放置していたのです!? 信仰心がそこまで枯渇する前なら、奇跡や分体を駆使して、人族を正しき道へ誘導することができたでしょうに!?】


「えー、何それ、めんどい」


【……あ゛?】


「そ、それにい! ボクだって色々と、忙しかったんだよ! なにせ下級神だからね! 使える手駒が限られててさあ、そのなかでなんとか遣り繰りはしていたんだけど、いやあ、人族の進歩ってヤバいね! あれがバズるって、いうのかな? たった百年くらい目を離している間に、気がつけば魔族ごと魔樹迷宮が封印されちゃってるんだもん! てへぺろ」


【……つまり貴方が百年ほど職務を放棄していた間に、世界を管理する世界樹と、その守護者である魔族たちが、住処である魔樹迷宮ごと封印されて、進化のための脅威が取り除かれた人族が、もはや神の手に負えないほどの隆盛を誇っていると?】


「イエスイエス! その通りい!」


【そしてもはや軌道修正が不可能である現在の人族に見切りをつけた貴方は、一度それらを滅して文明をリセットすることで、再度彼らに貴方への信仰心を植え付けようと、そういう魂胆ですか?】


「だねだね! ゲームにはリセットボタンがあるけど、ボクの世界には搭載していなかったから、面倒だけど仕方ないよね!」


【ふざけないでください!】


 ビリビリと、何もない空間を怒声が震わせた。


 反射的に両耳を庇う男たちの間に、

 姿のない美女の声が響き渡る。


【貴方のその、短絡極まる稚拙な思考も大概ですが……それを何故、理樹が実行しなければならないのですか!? 貴方の世界の不祥事でしょう!? 貴方の世界の手駒で解決しなさいな!】


「それができたら苦労しないよ。さっきも言ったけど、ボクってさあ、今の世界じゃあ信仰心が足りなさすぎて、奇跡も権能もほぼほぼ使用できない状況なワケ。精々が、大した能力も持たない分体をひとつだけ、下界に派遣できる程度かな? でもそんなんで世界を変えろとか、無理ゲーじゃない?」


【であれば、貴方に仕える天使はどうしたのですか!? それに転移者や転生者だって、そもそも我らが上位神(あるじ)に泣き付かずとも、貴方は創造神から彼らを招く権限を、与えられていたはずです!】


「あー、その権限はもう、使いきっちゃった。っていうか魔樹迷宮の封印も、それに繋がる文明の発展も、ぜんぶそいつらの仕業なんだよね。アイツらマジで有能。たった百年足らずで文明レベルを千年近く押し上げるとか、やっぱり異世界人は、用法要領を守らないとダメだね。反省反省っ!」


【ま、まさか貴方……面倒だからといって、彼らをひとつの時代に、まとめて収束させたのですか!? そんなの、文明の過剰促進(アウトブレイク)が起きて当然の状況じゃないですか!?】


「う、うるさいなあ! ボクの世界なんだから、与えられた権利をどう行使しようと、ボクの勝手だろ!」


【……ッ! それで、天使は? 貴方の天使は、どうしたのです? 先ほどから一向に姿というか気配を感じませんが、まさか――】


「――あははっ! いや〜、それがね? 魔樹迷宮が封印されて、流石にボクもちょっと焦っちゃってさあ……神から与えられた試練を自ら遠ざけるとは、不届千万! ってな感じで、天使に天罰を命じたんだけど……そのときはまだ、現役の異世界人がたくさんいてさあ。全員、返り討ちに遭っちゃった! ぴえんだよ!」


【この……クズ悪神……ッ!】


「で、でもでも、そのおかげでそのときにいた異世界人はほとんど始末できたし、それ以降の九百年で異世界人は誕生していないから、今の世界に異世界人はほとんど残っていないはずだよ!? であれば、転移したてのピチピチ異世界人であるリッキーなら、無双プレイとかヨユーだって! ねっ! リッキーだって異世界チートで俺ツエエエとか、したいでしょ!? ねっ!?」


 そんな、軽薄過ぎる邪神の問いに。


「……いや、嫌に決まってるでしょう、そんな馬鹿みたいな役割」


 当然のことながら。


 最新となる異世界人は、真顔で首を横に振るのであった。


【作者の呟き】


 ロキシルさん、管理する扱いが雑すぎて、世界崩壊の危機!


 起死回生の一手として、異世界人に世界の崩壊(リセット)を押し付けようとするも、優秀な天使に邪魔されて、扱いが下級神から邪神へとランクダウン!


 インガオーホー!

 

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ロキシルェ…チェーンソー持ってきていいですか…?
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