無垢な少女
今日は栗色の髪を二つ結びにしてみました。
首をかしげてお澄まし顔をしてみます。鏡に映る二つの毛束は流れるように揺れました。
「みぃちゃんはもう自分で出来るんだよ!すごいでしょ!」
「…………………」
だれも答えません。
だれもいませんでした。みぃちゃんは少しだけ少しだけ寂しくなりました。
すると鏡の中のみぃちゃんが「今日のみぃちゃんとってもとーってもかわいいね!」と言いました
みぃちゃんは嬉しくなって頭をゆらゆら揺らしました。
鏡の中のみぃちゃんも一緒にゆらゆら揺れました。
ゆらゆらゆらゆらゆらゆら。
ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆら。
みぃちゃんも、鏡の中のみぃちゃんも、にこにこ笑顔です。
しばらくしてママがみぃちゃんを呼びました。
「学校に行く時間ですよ」
みぃちゃんは「はぁい」と返事をして急いで階段を降ります。
けれど途中で階段が「痛い!!」と怒りました。
みぃちゃんは「もう!それが仕事でしょ!」と言いたかったのですが、いつもパパにどしどし踏まれてかわいそうなのでゆっくりそっと降りてあげました。
「みぃちゃんはいい子だね」そういわれると、みぃちゃんは嬉しくなってくすくす笑いました。
出かける前はポケットをぽんぽんと叩いて、ティッシュとハンカチが入っていることを確認します。
ぽふぽふ
きちんと入っています。
そしてもう一度玄関にある鏡を見てにっこり笑って笑顔のチェック。
真っ白な歯と茶色がかったパッチリおめめ。
今日もばっちりなみぃちゃんは玄関を開けて外に出ます。
ひとつ、小さな風が吹き抜けます。
春の匂いがしました。
学校に行く道の両脇には家がたくさん並んでいます。
どの家も大きくて、押しつぶされそうでした。
見回すと、家がこっちを見ていました。
みぃちゃんをたくさんの家がジィっと見ています。
「……………………。」
ただ黙ってみぃちゃんが歩いていくのを見ています。
「なんで見るの?」
「……………………。」
みぃちゃんは怖くなって走り出しました。
たくさん走って走って走って走って走って走って走って走って走って…。
足を交互に出します。
右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右…。
学校が近付いてきました。
足を交互に出します。
みぎひだりみぎひだりみぎひだりみぎひだりみぎひだりみぎひだりひだりみぎ…?
顔をあげると目の前に学校がありました。
学校は大きな口を開けて子どもをたくさん飲み込んでいました。
学校は怖い目でみぃちゃんを見下しました。
「………………。」
その時先生が話しかけてきました。
「みぃちゃんおはよう」
先生は笑顔を張り付けたような顔で見下ろしてきました。
「ん?どうしたの?」
そういって赤い手を伸ばしてみぃちゃんを捕まえようとしました。
みぃちゃんは耐えられなくなって逃げ出しました。
足を交互に出します。
みぎひだりみぎひだりみぎひだりみぎひだりみぎひだりみぎひだりミギヒダリミヒダリミギヒダギヒダリミギヒミギリヒダヒダリミギヒミリギミギミギミギミギミギミギミギミギミギミギミギミギミギ…………?
足をどうやって動かすのかわからなくなってしまいました。
困りました。