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短編⑴ 星とキス

作者: 鴻上 慧

誤字脱字や変な文章あったらすみません、それっぽいニュアンスで読み取って下さい。

私達の住むこの地球は昔、それはそれは綺麗な星だった。そう、綺麗だったのは昔の話である。その昔、大気汚染やゴミ問題、地球温暖化を始め、様々な環境問題が騒がれていた。その騒がれていた時期に目を向け、もっと重視すれば、まだ何か違ったのかもしれない。

それら問題を放棄した結果、22世紀末、地球は遂に5分と肺が持たない汚染の星になってしまった。もっと科学が進歩していれば、他の星への移住も出来ただろうが、今の科学では限界があった。住む場所失った人類は穴を掘り、地下に都市を作った。最新技術で作っただけあり、ほぼ不自由のない近未来の都市を作り上げた。しかし、最新技術とは言え地中である事には変わりなく、外よりは断然良いが若干空気が悪く、簡易マスクを付けて生活しなければならない。最初の頃はマスクを面倒に思ったり、邪魔に感じだものの、慣れとは怖いものでマスク生活が当たり前となった今は何も感じなくなった。マスクを気にしなくなった人類にとって地下の都市は十分なくらいに贅沢で不自由のない場所だった。地下での生活を満喫し、気がつけば地下から出るという目標が綺麗さっぱり消えた。そうして外に出なくなった人類をモグラと言い、モグラの思考で育った子孫の事をモグラの子と呼ぶようになった。

そして僕もモグラの子だ。ただ、僕は他の子とは違い、モグラの思想の元で育てられてきて、正真正銘モグラの子であるにも関わらず、外の世界へ憧れを密かに抱いていた。きっかけは図書館の1番奥、閲覧禁止の棚にあったとある一冊の古い本を見つけた事だった。その本にはこう書かれていた。


“外の世界の天井には、この世で1番綺麗な宝石が無限に散りばめられている“


“天井はどんな物を使っても高くて届かない。故に宝石も触る事すらできない“


“天井の宝石は地下の宝石と比べ物にならない程綺麗“


地下で生まれ地下で育った僕には、天井に手が届かないという言葉の意味が理解できなかった。理解というか、想像すら出来なかった。想像出来ないのは当たり前で、生まれてこの方、高すぎて手の届かない天井なんて見た事が無かった。ただ、天井の宝石がそこまで綺麗というなら是非見てみたいものだ。そしてここだけの話、もうひとつ、この本に書いてあったことで確かめたい事もあった。ただそれは、本当しょうもないこと。しょうもないけど、行くついでに確かめてみたい。

その本を読んだ日から僕は学校にも行かず、部屋に閉じこもり研究に励んだ。外の空気でも対応出来る物を作るのに丸4年費やした。僕の貴重な青春時代を全て、研究に捧げた。

そして遂に、目的の物が完成した。

長い研究に疲れ一休みしていると、ピンポーンとベルが鳴った。ドアを開けると幼なじみのナナが立っていた。

「あ、やっと出た。何年振りかしら」

ナナから振られた質問の答えを言うべくカレンダーを見る。カレンダーは研究を始めた年の月から止まっていた。

「4年振りかな。家から出ていないから確証は無いけど」

4年という言葉を聞いたナナはため息を付く。

「一体4年も何してたの。ソラが居ない間に私は高校を卒業したわよ」

「そう聞くと4年という言葉の重みを感じる」

ナナは今更?と言いたそうな目をして僕を見つめた。なんかすみません。

「それで、一体4年間何してたの」

この話をナナにするか一瞬躊躇ったが、幼なじみで昔からの付き合いだし、なんやかんや理解してくれそうな気がした。

「僕は今日、遂にとある物を完成させた。外の世界に行く為の道具だ」

到底女性から出るべきでない低い声で、は?とナナは言葉を漏らす。幼なじみの僕だから分かる、これはマジのやつだ。

「意味分からないわ。外に行くメリットなんて無いでしょ。それは小学校で習ったわ。ソラだって小学校はちゃんと行ってるんだし、無謀なことくらい分かるでしょ」

ナナは怒ってるようで、いつもより若干早口になっていた。

そんなナナに1冊の本を差し出す。それは僕が外に出たいと思ったきっかけの本。

「閲覧禁止、持ち出し禁止って書いてあるじゃない。これどうしたの」

「誰も読まないから貰ってきた」

ナナに貰ってきた?と聞き返され直ぐに訂正した。

「ぬ、盗んできました。すみません。でも」

そう言いながら天井の話のページを開いた。何よ、と言いながらナナは黙って読んだ。

「これ本当?ハッタリじゃないの」

「嘘やフィクションなら閲覧禁止や持ち出し禁止にはしないでしょ。多分、モグラの子らに知られたくない話だから禁止にしたんだと僕は思う」

ナナは僕の本を閉じて目線を僕の顔へ上げた。

「仮にこれが事実だとしても行けるわけないわ。仮に4年の研究で外で動けるものを作ったとしても、外への生き方が分からなければ意味無い。無謀よ」

ナナは思いつく理由を端から並べては、僕を止めようとした。多分、危ない所に行かせたくないという幼なじみとしてのナナの優しさなんだと思う。そう伝わってくる。

本来、僕達モグラの子は地下から出る必要性が無いため、外への生き方を知らない。外へ行く専用の道やゲートぽいものは街には存在しない。あるとしても街の外。街の外を虱潰しに探した所で一体何年、何十年かかるのやら。そもそも、この国にそのゲートはあるのかすら分からない。分からないのが当たり前である。

「でも僕は知っている。外へ行けるゲートはJp28区にあると思う」

各国それぞれ1箇所、電気を作るための装置を設けた場所、いわゆる発電所がある。僕達の国の発電所はJp28区と呼ばれるエリアにある。

「なんでそこにあると思うの?」

ナナは眉間に皺を寄せて険しい顔をしていた。真剣に考えているんだろう。

「よく考えてみろ、外の光が十分に刺さないこの地下で光エネルギーによる電気をどうやって作る。多分外の世界で十分に集めたエネルギーを地下の発電所に送っているのだろう。そのエネルギーを送る道が必ずその近くにあるはずだ。外に通じるゲードとかね」

「まあ理論上そうかもしれないけど、道に見張りがいるかもしれない。見つかるかもしれないじゃない」

ナナは警備隊にバレたらと考えて怖がってるようで声が若干震えていた。

「見張りは居ないよ。モグラの子はモグラの思想で育てられて来ているんだから、外に行こうとは普通思わない。だから侵入者なんて存在しない。だからそこまでセキュリティはしっかりしてないと思う」

「じゃあ、外にもし出れたら宝石を取りに行くの?」

「いや、持ち帰ってバレたら困るから見るだけ。見るだけなら時間かからないだろ」

僕はそう言いながら、4年費やして作った物をナナの前に置いた。

「なあ、ナナ。僕に着いてきてって言ったらどうする」

「それを聞いてどうするの。本当は私にそうして欲しいのに、そうやって質問形式で聞いてくるの悪い癖よ。昔から変わらないソラの悪い癖」

さすが幼なじみ、僕と言う人間がどんな人間なのか怖いくらい理解してる。図星過ぎて、ぐうの音も出なかった。

「僕は大気に対応するマスクだと結局地下と変わらないと思っている。マスクという縛り自体を無くしたい。だから僕は大気から人を守る帳の、膜のような物を作った。僕はモグラの子達がマスクを取って自由に移動できる世界にしたい」

続けて膜の使い方も話した。

「これは見た目は手のひらに乗るエコバッグにしか見えないが、布を広げて中にあるボタンを押すと、布に付いているカプセルが」

真剣に説明している中、話を遮るようにナナは言葉を被せてきた。

「言いたい事は分かるわ。ただ、本当の理由は別にあるでしょ。そんな気がする。何が目的なのかハッキリ言って。私を連れていきたい理由は?」

さすがナナ。僕が1番叶えたい夢を隠してるのはお見通しのようだ。ただ、1番やりたい事は先程言ったしょうもない事で、そのしょうもない理由を正直に話す訳には行かない。何かそれっぽい理由が無いか頭をフル回転させる。

「え、えっと。空気の膜を張るのに1人じゃ無理なんだ。最低2人居ないと無理だから、着いて来て欲しい」

僕の作った空気膜は半径1メートルで小さく、1人で膜を張ろうと思えば張れるように改良済だが、それは内緒。

どうするか迷うナナの手をギュッと僕の手で包んだ。追い打ちをわざと掛けた。すると少し顔を赤らめたナナが僕にギリギリ聞こえる位の小さな声でボソッと、分かったわ、と言った。その照れる姿はどうしようもないくらい可愛いかった。

4年会っていない間にナナはすっかり見た目が大人のお姉さんになっていた。しかし、中身は昔のままだった。少しツンデレで赤面症のナナが僕は昔から好きだ。ナナがナナである事に嬉しさを感じた。

そうしてナナと共にJp28区へ行くことになる。



* * *


外へのゲートがあると予想したJp28区は電車で10時間、徒歩2時間もかかった。基本どの施設もあまり歩かないように、交通機関から降りてすぐの場所にある。逆を言えば、それだけ交通機関が細かく張り巡らされている。ただJp28区は一般人が行く目的の無い場所故に、徒歩で移動するのに苦労した。時々ナナは弱音を吐いては帰りたいと騒いでいたが、それは口だけで、僕のことが心配で付いて来てくれた。

そして目標のJp28区に着く。28区の入口は想像より遥かに簡易的だった。電子線が付いるだけの網でできていた。畑と変わらないクオリティの電子線に対し、流石に酷いとツッコミを入れた。だが、こんな簡易的で原始的なセキュリティでも事件が起きないという事はそれだけ人類は外に興味が無いのだろう。改めてモグラの子という言葉を実感した。電子線を避ける布を使いながら区内へと入る。

そこには400mトラックのある大型スポーツ施設の10個分程の、推定横4から5キロに及ぶ大きな発電所があった。大きすぎて端が見えなかった。国の電気を作る唯一の施設だからこその規模である。そして、その施設の後ろに太いトンネルを確認した。多分あのトンネルがゲートだろう。潜入するにあたり、施設に正面から入ったら何かしらの警備に見つかったり、施設が広すぎて迷う可能性がある為、外から回り込み、なるべくトンネルに近い窓から入る。施設が大きすぎて外から回り込むだけでも疲れた。特に4年振りに歩く僕の足はそれはもう、貧弱もやしだった。なんなら骨と皮膚だけの足。そんな足で歩くもんだから足がずっと悲鳴を上げていた。明日どころか1週間は確実に筋肉痛だろう。それも体験したことのないレベルの筋肉痛。考えただけでも憂鬱だ。最初はドアから入ろうと思ったが、開けようとするとキータイプの鍵だったりで面倒くさそうだからドアは却下。次にトンネルから1番近い窓を探した。侵入口を窓にした理由は、窓はガラスでできていることが多く、その窓に手が入る大きさの穴さえ開ければ、手を入れ手動で鍵が開けれるようになっている気がしたからだ。こう、中からは簡単な鍵タイプな気がした。窓を割り、手を突っ込むと、引っ掛けるタイプの鍵だった。予想は的中、意図も簡単に開いた。ここでセキュリティの低さを、言うまでもないか。

中に入ると奥にトンネルらしき影があった。足音を立てないように近づく。トンネルからは無数の線が機械に伸びていた。この線の中を光エネルギーから得て作られた電気が通ってるのだろう。その線の横に人ひとり分くらいの細い道がトンネルの中に続いていた。道の横に注意書きで


“この先外に通ずる“


“軍用マクス着用せよ“


“必ず2人以上で行動せよ“


“上を見るべからず“


と書かれていた。

文言3つの理由は分かる。2人以上というのも、何かあった時用だろう。ただ、最後の上を見てはならないという文言だけは意味が分からなかった。

「ねぇ、注意書きがあるってことは外に行く人もいるってことだよね。どういう目的なのかな」

ナナは眉間に皺を寄せて難しい顔で聞いてきた。

「外の光を集める機械の調節や交換だろ。僕達人類の科学はまだ永遠に動かせる機械は作れてないからね」

なるほど、とナナは素直に納得した。

僕はナナに頑丈なマスクを渡した。

「外に出たら急いで膜を張るよ。張るまではこのマスクを外しちゃダメだからね」

「分かったわ」

地下用マスクから外用の頑丈なマスクに変え、長い長いトンネルを歩いた。ただでさえ歩いたのにここでも歩くのか。こう、エスカレーター見たいな物があると思ってた。

5分ほど歩くと手動のドアが見えてきた。これを開ければ外に出れるのか。僕はそのドアに手をかけて引いた。引いた、と言ったが本当の事を言うと引いたが動かなかった。汚染された空気が入らないようにそのドアは重く、簡単には動かせない重さで作られていた。本来、一人で来ていたならミッション失敗していたが、僕にはナナがいる。ナナの方をチラッと見た。

「何よ、私は女の子よ。期待しないで」

ツンツンしながらもドアを引くのを手伝ってくれた。ナナが加わった瞬間、すんなりドアは開いた。すんなり。

「これ、1人でもギリギリ開けれそうな重さだね」

何が言いたい、と僕が言うとナナはニヤッとした。

「貧弱ってこと」

僕が気にしてることをストレートに言ってきた。もう少しオブラートにして欲しかった。

そうしてドアをくぐった。

昼前に家を出たが、ここに着くのにかなり時間を使ったようで外に出ると夕日が差していた。ナナに指示を出して急いで幕を張る。実験の時は一人で張るのに5分かかったが、2人でやったもんだから1分で張れた。ボタンを押して中の空気を清浄した。マスク外して良いレベル、セットが完成するまで5分かからなかった。それに対しナナが言う。

「ねぇ、これ絶対一人で出来たよね。簡単じゃない。私を連れて来た意味は?」

ナナが騒ぎ始めた。

「もうちょっと待ってて。あと少しで分かるだろうから」

頼むナナ、もう少しだけ付き合ってくれ。

呆れてナナは座り込んだ。

「もういいわ、ここまで来ちゃったし。それで、天井の宝石ってどれ?」

ナナに言われて本を開く。本の通りだと、この僕たち照らす眩しい丸いものが沈んだ時、いわゆる日没後に出るという。

「その、日没後とやらはあとどれ位?」

「多分あと2時間かな」

そう言うとナナはため息をついて持ってきた携帯をポチポチし始めた。

「私疲れたから寝るね。2時間後に起こして。念のためアラームかけるけど、起こしてね。」

圧を感じた。はい、と言うとナナは持ってきた毛布に包まり、一瞬で夢の中へと落ちていった。ナナの寝顔を見るのは案外初めてかもしれない。可愛いな、と思いながら見つめていると僕も少しずつ眠くなってきた。無理もない、僕だって疲れている。気がつけば僕も夢の中だった。

ナナのアラームでハッと目が覚めた。普通に2時間寝てしまった。2時間も寝てしまったことにパニックになり、辺りを見回す。見回す中で無意識に上を見あげた。

そこには見た事の無い綺麗な点が散らばっていた。僕はこれをなんというか知らないが、綺麗さ的に多分天井の宝石というのだろう。モグラの子である僕はこの綺麗さを表現する言葉がみつからなかった。ただ純粋に、こんなに綺麗なものがあるのかと感動した。地下で生活していると、地中に埋まった宝石がゴロゴロと出てくる。いつしか地中にあった宝石の価値は下がり、宝石と呼ばれるに値しないレベルにまで落ちていった。今となっては石ころのような扱いだ。だから昔には考えられないだろうが、今では市場で安く手に入る。僕の知ってる宝石はその程度。だから天井の宝石も、それの上位互換位にしか思ってなかった。いい意味で想定外だ。これはナナを急いで起こさないと。ナナにも見せてやりたい。

「ナナ!起きるんだ!」

アラームを止めて2度寝しているナナをアラームを超える大きな声で起こす。

「何〜、宝石あったの?」

むにゃむにゃして、まだ夢と現実の狭間にいるナナの頬をパチンと叩いた。ナナは痛いと言いながら目を開ける。ナナは毛布に包まりながら仰向けで寝ていたので、目を開けたら目の前に天井の宝石が広がっていた。

「え、凄い。え、これが天井の宝石なの」

「そうさ!これが僕が求めていた物だ」

その綺麗さにナナは涙を浮かべていた。

「綺麗、綺麗すぎる。こんなの見てしまったら帰りたくないわね」

そのナナのセリフに、トンネルの入口にあった文言を思い出す。“上を見るべからず“、これはこの天井の宝石見た者が帰りたくないと思ってしまう事、こんなにも綺麗ならもう一度これを見たいと中毒になる人が出る事を恐れて書いた文言なのだと気づく。

「ナナ、来てよかった?」

そう聞きながらナナの方を見る。うん、と頷くきながらナナは涙を拭こうとマスクを外した。

「ここはマスクの要らない空間だからそのまま外していていいよ」

それを聞いてナナは改めてマスクを外した。マスクを外したナナの顔はこの天井の宝石と互角な程に綺麗だった。僕はそう思った。僕にはそう見えた。

「ナナ、君の顔は天井の宝石のように綺麗だよ」

ロマンチストが言うキザなセリフがポロッと出てしまったが、ナナは引くことなく、素直に受け取ってくれた。

「ありがとう。それは嬉しいわ」

僕は照れているナナを見て、居てもたってもいられなくなり、ある要望を出した。

「ナナ、目をつぶって」

「何をするの?」

「いいから目をつぶって」

何かまた実験をすると思い込んで素直に目をつぶるナナに、少しの申し訳なさを秘めながらナナの唇に僕の唇を重ねた。その、行動に驚いてナナは僕を突き飛ばす。

「な、何よこれ」

「キスって言うらしい。本に書いてある」

マスクが当たり前の地下生活でキスをする人は減った。マスクを外すのを恐れ、マスクを外さない生活が当たり前に。そして世代を超える毎にキスという言葉、行為が消えて行った。この本を読んだ時にしょうもない文出あると共に、1番惹かれ文章がある。それは天井の宝石ではなく、「好きな人とのキスは人を幸せにする」という文章だった。ナナとキスがしたい、だなんてしょうもない理由がこの調査のメインだなんて言えるわけが無かった。でも、この為だけに4年費やした。確かにこの天井の宝石もいいが、それは僕にとって偽装の目標に過ぎなかった。

「ごめん、聞く前にキスして。嫌だった?」

そう聞くとナナは何かボソボソと話した。何?と聞き返すと少しだけ声のボリュームを上げてくれた。

「不思議な感覚すぎて何が何だか。ただ、その、嫌じゃない」

可愛い。可愛すぎだ。

「嫌じゃないってことは、僕の事好き?」

「そうやって大事な時に質問形式よね」

はは、と笑うとナナはコクリと頷く。ナナは笑って油断している僕に小さな、小さな声で耳打ちをしてきた。

「ずっと待ってたんだよ」

この恋はてっきり僕の片思いだとばかり思っていたが、両思いだった。そんな事も知らず、僕はナナを長い間1人にしていた。

「4年も待たせてごめんね」

その言葉を聞いたナナは目に貯めていた涙を一気に流した。僕はナナとキスがしたくて研究に励んだが本末転倒だった。ナナに寂しい思いをさせていた。それが嫌なくらいに伝わってくる。声を出して泣くナナの涙を優しく拭って手を頬に添える。

「さっきは無断でしちゃったからさ、今度はちゃんと聞くよ。ナナ、キスしていい?」

「いいよ」

ナナ、僕も好きだよ。そう伝えてまた、唇を重ねた。本の通りだった。今、この瞬間が人生で1番幸せだ。幸せな時間すぎて我を忘れ、ナナが止めるまで僕は何度も何度もキスをした。

だがこれで目標も達成したし、帰る時間だ。

ここだけの話、こんな素晴らしい世界から地下へ戻るのは名残惜しすぎる。帰りたくない。あと、キスもまたしたい。

「ナナに誓うよ。僕は君と僕のために、ここで生活できるようにしてみせる」

この空気膜をもっと改良して大きく範囲を広げ且つ、安全に運用できるようになればまたこの地に戻ってくることができるかもしれない。

それを聞いたナナは満面の笑みを見せた。ただ、ナナはふと何かを思い出したようでその笑顔は本当に一瞬だった。

「ねぇ、天井の宝石って本当はなんて言うの?物の例えのような言葉のような気がするんだけど」

そう、天井の宝石は地下で生まれ育った人類が地下にある言葉しか喋れなくなった中でなんとかそれっぽく表現しようとした言葉であり、本来の名称ではなかった。比喩のようなものに過ぎなかった。ただ、本の中には名称がしっかり書いてあった。天井の宝石またの名をー。

「これはね、星って言うんだよ」

そう教えるとナナはニカッとしたいい笑顔でこう言った。

「星とキス、最高ね」


お互いゾッコンです。幸せそうですね。

今度の研究は4年とは行かず何十年もかかってしまうようですが、前とは違い、ナナはソラの横でサポートが出来ます。ソラとずっと一緒にいれます。研究漬けの毎日ですがナナは幸せそうです。

もう一度あの感動の為に、ナナの為にソラは頑張るのです。

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