第67話 町中華に行こう!
「温泉旅行に行くぞ」
「どうしてボスはいつも予告なしに行動するんスか?」
「旨い酒と旨いものを飲み食いさせるぞ。もちろん休暇だから仕事は無し」
「すぐに支度するッス!」
10日の旅行だと言ったら着替えだの非常食だの野営道具だのを山ほど担いできやがった。
着替えだけ残して他の物は全部おいて来させた。
こんな調子だとお前らの支度の方が移動時間より長くなるよ?
着替えも俺ダンで調達できるけど、パンツのはき方とか指導するのは嫌なので自前の服を持参させた。
もちろん俺の分は、元の部屋にある。不思議なことに、爺服じゃなくて今のオレ用の服に変わっている。
それもまた俺のイメージがそうさせているらしい。ダンジョンて不思議なものですね。
てゆうか、この拠点に瞬間移動で取りに来られるんだけどね。それじゃ旅行気分が損なわれちゃう。
「それではトーメー商会社員旅行に出発いたします。ガイド役トーメーの後について1人ずつご搭乗願います」
俺は壁に入り口を開いて俺ダンに移動した。BJの後ろからBB団のメンバーも付いて来る。
「えっ? ボス、ここは?」
「これが我が社の交通手段です」
6人を引き連れて来たのは近所のラーメン屋だ。慰安旅行ですからね。飲みながらワイワイ移動しようじゃないか。
俺のイメージで、「いつ客が来ても良い状態にスタンバイが整った店」になっている。
大鍋にグラグラ湯が沸いているし、ラーメンスープもたっぷりできている。調味料に調理器具、もちろん新鮮な食材も揃っている状態だ。
てゆうか、俺ここでバイトしたことがあるから店の勝手はわかってるのよね。
きょろきょろするBB団をテーブルにつかせて、先ずはビールサーバーの使い方を教えてやった。お通しに枝豆山盛り出してやるから、そいつで生ビール飲んでろ。
もちろん俺も生ビールをやりながら調理しますよ。
中華屋はスピードが命。肉野菜炒めに中華焼きそば、餃子にエビチリ、八宝菜に酢豚まで出してやったよ。
あ、腹は空けとけよ? 締めにラーメン出すからな。
「ボス、滅茶苦茶旨そうな匂いなんスけど食えないッス」
「何だと? 何が気に入らないんだ」
「こんな木の棒で飯食ったことないっス」
おっと、あっちの世界にお箸文化は無かったか? 安心しなさい。蓮華、スプーン、それにフォークもあるから。町中華舐めんなよ?
「うわぁー。旨いっす。食ったことない味ですけど、めっちゃ旨いっす!」
「わははは。食うべし。飲むべし。他に客はいない! 歌っても踊っても良いぞ」
なぜ俺がこんなに気前が良いかと言うと、|後片付けの心配が要らない《・・・・・・・・・・・・》からだ。店を出る、また入る。これだけであら不思議? きれいさっぱり元通りになる。イメージって偉大だ。
「さて、酒も料理も行き渡ったな? それじゃあ、スペシャルなショウの始まりだ!」
「あの、ボス。旅行に行くって聞いたんスけど。いつ出発するんスか?」
「はい、ブラウニー君が良い質問をしました! みなさん、拍手! 良いですか? 当社は既に旅行に出発し、移動中です」
そう言われても、中華屋で飲み食いしているだけだからねえ。からくりを知らない連中には信じられないでしょう。
そこで、これからスペシャル・ショウをお目にかけようというわけだ。
「論より証拠。これから『外』の景色を見せるので、その目でご覧くださーい」
そう言うと、おれは店の壁4面、天井、そして床を透明にして外部の空間が見えるようにしてやった。なぜ6面かって? だって、当社はただ今……。
「うわああああ。空の上だああああああああっ!」
酒の酔いはどこへやら、BB団のメンバーはブラウニー以下全員パニックを起こした。
「はーい。皆さん、落ち着いて下さい。ここは安全ですよ。確かに外は空ですが、ここは空じゃないので」
あら? BB団には今の説明じゃよくわからなかったみたいだね。みんな目をぎゅっと閉じてテーブルの足にしがみついている。
下の景色が見えた方が良いと思って、床を透明にしたのが良くなかった?
「あー、あまり喜ばれないようなのでスペシャル・ショウは終了しました。もう空は見えないので目を開けても大丈夫ですよ」
ブラウニーたちが恐る恐る片目を開けると、6面の壁はすべて元通りになっていた。
「悪い、悪い。刺激が強すぎたみたいだな。目的地到着まで1時間10分くらいあるので、ゆっくり飲んで楽しんで頂戴」
そう言われても、当機が空の上だということを知ってしまったのでどうにも落ち着かない様子の連中だった。3杯目の生ビールを空けた頃にはみんな忘れちまったけどね。
単純な奴らで助かるわ。
「ボスゥ、乾杯しましょう!」
「何度目だよ、おい。はい、カンパーイ」
「何ですか? ノリが悪いよ、ノリがぁ。ヒック」
ブラウニー君はいささか酒癖が悪いですね。締めのラーメンにハバネロパウダー入れときましょう。
気つけです、気つけね。
「おおー、これは何ていう料理ですか、細長いのが入った汁? ダーメン? 旨いっすねぇー、ゲフッ、ゲフッ」
ダーメンはお前だっちゅうの。つゆ迄残さず頂きなさい。もったいないおばけが出ちゃいますよ?
やいのやいの言ってるうちに俺達は目的地、「秘湯ゲップの湯」に到着した。
◆◆◆
ブラウニーたちに騒がれるとうるさいので、俺は店の外に出て地面を透明化した。ちょちょいと小さな境界を開いて棒の先っちょを突き出してみる。
『アリスさん、地上のナノマシンと交信できますか、どうぞ』
『こちらアリスにゃん、通信回線成立。位置情報を確認したニャ。VRマップに表示』
『オッケー、マップ確認。微速前進で着陸しまーす』
俺ダンは異空間にあるので、地中・海中・空中どこでも移動できるのよね。今回は折角だから絶景を楽しもうと空中散歩にしてみたんだけど、ブラウニーたちに不評だったんで眺望は諦めた。
全面マジックミラーはちょっとやり過ぎだったね。
場所がはっきりわかるのに「秘境の湯」と呼ばれるにはわけがある。
その一帯がとてつもない高台にあるのだ。周りの森林地帯との高低差2000メートル。断崖絶壁に囲まれたゲップ高地の中にある。
逆によくぞそんな場所に足を踏み入れたものだと思う。垂直に2キロも登ろうと思うかね?
俺達は上空からサクッと着地した。とはいうものの正確な温泉の位置は地図にも載っていない。ゲップ高地の中を探し回らなければならないわけだ。
しかし、ご安心あれ。俺には俺ダンがある!
高地の中央から渦巻き状に外縁に向かって捜索して行けば、どこかで温泉をキャッチできるはずだ。
これを原始林の中徒歩でやろうとしたら、大変な苦労をするだろうが俺ダンなら座ってお茶を飲みながらすいすい進める。
捜索開始10分後、俺は湖のほとりに温泉地帯を発見した。
「着いたぞー。先ずは偵察だな。全員武装して上陸だ!」
何しろ秘境だからな。何が出て来るかわからない。
俺はコンバットスーツにヘルメット、ゴーグル着用の完全装備でアサルト銃を担いで地上に出た。
ほろ酔いのBB団とアリスさんが続いて来る。BJは既に俺の横にいる。すんすん空気の匂いを嗅いでるね。
ここは少し開けた湖のほとりだ。見通しが効くので、いきなり襲われることはない。
「アリスさん、安全確認をお願いします」
「了解ニャ。レーダー、ソナー感無し。半径500メートル以内には大型動物はいないニャ」
「良し。一旦警戒解除しよう。警戒網維持はアリスさんでお願いします」
「任せるニャ。人間と違って見落としはあり得ないニャ」
元来マルチタスキングなアリスさんは警戒任務に最適だ。居眠りなんか絶対しない。
俺はBB団と一緒になって、折り畳み椅子だの防水シートだのと野営地作りを開始した。
こんなことをしなくても俺ダンの中でくつろげるんだけど、それじゃ旅の情緒が出ない。
ある程度の不自由も旅の思い出になるもんだ。
「拠点はこれで良し。それで肝心の温泉は、あそこかな?」
ちょいと離れた岩陰からほわほわと湯気が上がっている。一応警戒しながら回り込んでみると、岩に囲まれた一帯が天然の露天風呂風になっていた。20人くらいは入れる大浴場サイズだね。
「アリスさん、湯温の計測をお願いしまーす!」
「ボクを温度計代わりにするニャ」
文句を言いながらもアリスさんは尻尾の先をボチャンとお湯に入れてくれた。
「ふむ。48度ニャ。適温じゃニャいか?」
「それじゃ熱湯風呂でしょ? やりませんよ? 押すな、押すなとか」
役どころとしてはBB団のお仕事なんだけど、またハラスメントになっちゃうからね。尻ハラの慰安に来て、風呂ハラを追加しちゃいかんでしょう?
さて、どうやって温度を下げようかな。水を入れたら良さそうだよね。運ぶのは大変だから俺ダンから水を引こうか……。




