第63話 ウチのダンジョンは、SDGsです
「おーい、増田―!」
「イエッサー」
「別に呼ばなくても常に俺に憑りついてるんだっけか。あのさ。踊る宝石を無力化したんだけど、アイツって何かに活用できないかな?」
こそこそ逃げ出そうとした踊る宝石は、サファイア君が投網で捕まえてあります。
「ほほう。レア・モンスターゲットですな」
「むむ。ポケットに仕舞えるサイズじゃなくて良かった」
「ウチのダンジョンに放り込んでおけば、数日で馴染むと思いますが」
拾ってきた野良犬みたいな言い方だね。似たようなもんだけどさ。
「言うなれば、増田のところで飼えるってわけだ。何の役にたつかなあ」
「あれですよ。良い土地に埋めておけば、宝石が採れるようになりますよ?」
「何それ、サイバイ〇ンみたいに畑で育つわけ?」
「元々宝石ですからね。地中で育つのは自然なことです」
そう言っちゃうとそうだけど、モンスターだからね。
「どれくらいで宝石が採れるの?」
「収穫期は2ヵ月から3ヵ月後ですね。親石を傷つけないように掘るのがコツですよ」
親石って……芋みたいだね。
「でも宝石の自家栽培が出来るのは良いね。我が家の経営にまた柱ができるじゃないか」
「単価の高さでは群を抜くニャ」
「ついては、ボス。ボスのスキルでテイムしてもらえると、後がやり易いんですが」
「ああ、一応野良モンスターだから、手懐ける必要があるのね。良いですよ。やりましょう!」
俺は網の中でもぞもぞしている踊る宝石の前に立った。
「いざ、テイム!」
ピッカーンと光はしなかったが、踊る宝石は衝撃を受けたように一瞬跳び上がった。
とげとげしい感じが無くなって、おとなしくなった気がする。
体を覆う水性ペイントはまだ乾いていないので、俺は俺ダンからお湯を持ち出し、ジャバジャバと上からかけてやった。粗方塗料を落としたところで、踊る宝石がこれで十分だと伝えてきた。
テイミングの効果で、何となく意思が伝わるのだ。
まだ宝石の一部を塗料が覆っている部分があるが、どこダンで隠居生活をするのには問題がないという。
土いじりの生活をしていればそのうち落ちるだろうと。
土いじりって言うか、土に埋められるんだけどね。土の中にいるのに塗料がどうのこうのと言っても仕方がない。
すると、踊る宝石が踊った。
嬉しそうに。楽しそうに。土に帰れる歓びを、くるり、きらりと体で表わした。
キラ、キラ、キラ。
体が発するきらめきが、宙に散って像を結んだ。結んだ像は凝り固まって、小さな宝石となり地に落ちた。
「ありゃあ、早速石をドロップしたね」
「うニャ。まぎれもなく宝石ニャ。これぞ、良い拾い物をしたという奴ニャ」
「早速済まんね。踊る宝石だから、『ダンシング・ジュエル』だろう? 略して『ダンジュ』、命名『団十郎』だな」
俺が名付けを行うと、団十郎の体が一際眩しく輝いた。ところどころに残っていた水性ペイントが分解されて消えて行く。
光が消えると一回り大きくなった団十郎がそこにいた。
「ふむ。大きさが増した上に、透明度と輝きが段違いに良くなったニャ。宝石として国宝級の品質ニャ」
「へえ。宝石には興味がないから良く知らんが、確かに見たことがないくらい綺麗だな」
「世間に知られたら、この宝石1つのために戦争が置きそうニャ」
止めて。そう言う物騒なお話は。人目には触れさせられないね。
厳重に秘匿いたしましょう。
「じゃあ、早速だけど。増田―。この子、お前んところで埋めて上げて」
「畏まりました。良い土を選んでやりましょう」
キラーン。キラキラーン。
光るたびに宝石をまき散らしながら、団十郎は俺ダンの入り口に消えて行った。
「これで良しと。3層目の初戦としては収穫があったんじゃない? 俺の戦い方にも目途が付いたし」
「卑怯さ具合が板に付いていたニャ」
「それは結構、結構」
冷やかされたってこたえないね。無事これ名馬と知らないか?
「よし! 我が方に被害はないね。先へ進もう」
移動手段にどこダンと俺ダンの2つを併せ持つ俺たちは、自分の足で歩く必要もないのだが、健康維持と雰囲気づくりのためにあえて歩いて先に進んだ。
健康維持が必要なのは俺1人のことであるが。
「ゴーレム、マッドハンド、踊る宝石。この3種については有効な対抗手段が確立できたな」
「何気に高圧洗浄機の効果が半端ニャイニャ」
洗剤はともかく水性ペイントを入れたのはメーカー保証範囲を超えている。故障の原因になるので良い子は真似しないでね。
ウチの場合? 使い捨てても問題ないからね。壊れたものはダンジョンの栄養として吸収されます。
SDGsですよ。「捨てたらダンジョンがごみを吸い取るっス」。
「俺ダンも外から入って来たものを吸収できるのかな?」
「はい、ボス。ダンジョンである以上、有機物、無機物を吸収し、栄養とすることができます」
「それはごみ問題に解決策を提案したことになるんじゃないの?」
核廃棄物でもウチに持って来れば吸収再利用ができちゃうということか。
CO2ビジネスが成り立ちそうだね。
「あれ? ちょっと待てよ?」
俺は歩くのを止めて、坑道の真ん中で立ち止まった。
「どこダンの出入り口は最大直径200メートルだよね」
「はい、ボス」
「しかして、このダンジョンの坑道や部屋は精々数十メートルのサイズだ」
「それがどうしたニャ?」
どうしたも、こうしたも、アリスさん。革命的な事実ですぞ。
「モンスターに出会ったら、どこダンに飲み込んじゃえば良くないスか?」
「あ」
「ニャ」
モンスターは「ここダン」から「どこダン」に移動するだけ。それだけだが、言わばプロスポーツ選手の移籍みたいなもんだ。
今日から君はウチのチーム所属ねってことで、「敵」が「味方」に変わっちゃう。
将棋の駒みたいにね。
「それこそ究極のリサイクルでしょ?」
「まったくニャ」
「思ってもみませんでした」
何だよ。戦う必要なんてなかったじゃん。
終わり、終わり。いちいちバトルなんかやってられないよ。サクッとパクっと飲み込んじゃいましょう。
「せっかくだから宝箱だけ残しておいてね。何が入っているか楽しみだから」
あまりにも単純なことで考えてもみなかった。
俺達は無人の野を行くがごとく、敵ダンジョンを駆け下りて行くのだった。
実際無人になっちまったけどね。
お宝は、何やらきれいな宝剣が一振りと、状態異常除けの指輪が1つ、レアアイテムとしてゴーレム・コアが1つ手に入った。
宝剣は束頭に宝石がはめ込まれた美麗なものだが、魔法的効果はないとのこと。増田卓士が鑑定してくれた。
フルネームで呼ぶと本当に鑑定士っぽい感じだね。
状態異常除けの指輪は今日遭遇した踊る宝石やゴースト系のモンスター、それに魔眼持ちのモンスターがやってくる各種状態異常攻撃を弾いてくれるそうだ。それはありがたい。
こんな物はダンジョン攻略する人間にしか価値がないので、俺がありがたく装着しよう。
残るはゴーレム・コアだが、これはどうしようか?
「やっぱり、岩に埋め込むとゴーレムが作れるって奴?」
「はい。そのコアです」
うーん。ウチにはストーン5がいるからなあ。というか、いくらでも増産できるし。
「こいつは売りに出そうか?」
「好事家が大金はたいて買ってくれそうニャ」
そりゃそうか。他では絶対に入手不可能だもんな。
この世界の文明レベルではロボットの開発には100年以上掛かるだろう。下手すりゃ300年かも?
今すぐに、命令通りに動くゴーレムが手に入ったら、労働力としても貴重なはずだ。
細かい作業はできないけどね。ウチでやらせてるみたいにカートを引かせたら最高ですよ。
「それじゃ、ゴーレム・コアはゴンゾーラ商会に買い取ってもらおう」
「宝石とゴーレム・コア、宝剣まであるニャ。今回のダンジョンはウハウハニャ」
ウハウハとはまた表現が古いね。鉱山系ダンジョンは「穴場」かもね。坑道だけに。




