第56話 エンペラー・皇帝ペンギンの逆襲!
水辺エリアの手前にはまともな遮蔽物が存在しない。アリス達が接近すれば早々に敵は気づき、迎撃態勢に入るはずだ。
だったら、先制攻撃あるのみである。敵が無防備なうちに、一撃でも入れておく。
初撃で敵兵力を削ることができれば、それだけ後の戦いをこちらの有利に運べるはずである。
「初撃はトーメーによる迫撃砲ニャ。砲撃開始と同時に、攻撃隊は混乱に乗じて一気に敵陣に突入するニャ」
「了解! 砲撃停止はアリスさんの指示を待つ。連絡遮断した場合はこちらの判断で行動する」
アリス率いる攻撃隊は、空軍、海軍の展開と分かれて前進を開始した。
ちなみにスラ1の「海軍」であるが、湖までは例のロケット・モードからのパラカイト・スタイルで空を滑空していくことになった。
海軍というより海兵隊の登場シーンだね。もちろんステルスモード発動で、スラ1は限りなく透明に近いブルーになってます。
空軍チームは問題なし。制空権を争うような相手はいない。気持ちいいだろうねえ、大空を独り占めって。いつか飛行魔法を習得したいもんですな。
「全軍配備完了! 只今を以て交戦開始するニャ! 全軍前進!」
「よっしゃ、ほんじゃ行きますかね? ファイアー・イン・ザ・ホール!」
俺は迫撃砲の砲身に砲弾を放り込んだ。砲弾といっても流線形ボディに尾翼の付いた、ミサイル形状であるが。
ドーンと轟音と煙を上げて、砲弾は天高く飛び上がった。
ヒーという高い音が上空から響き渡る。何事かと魔物が空を見上げている間に、俺は次弾を発射させる。
自分で狙う必要が無いので、気楽なものだ。事故さえ起こさなければ良いのだから。
俺とシルバーウルフは塹壕に身を潜めている。迫撃砲は塹壕内の地面に固定されており、敵からは発射地点が見えない位置取りをしてある。
こちらからも敵陣は見えないが、砲撃照準はアリスさんが決めてくれるので、こっちでは頭を下げて砲弾を投げ込むだけで良い。
不幸な事故に巻き込まれないために、俺は不格好なヘルメットを被って頭を守っている。事故を想定しないのは阿呆な死にたがりだけだ。
塹壕に積まれた弾薬箱から、俺は砲弾を取り出して砲口に落とす。慌てず、確実に。
シュドーン!
轟音と共に砲弾が飛び、超曲射軌道で敵陣に落下していく。オレは塹壕の底に座り込んでVRモニターに移る敵陣映像をトビー君視点のライブ映像で見下ろしていた。
俺の迫撃砲は敵軍後方に狙いを定めて撃ち出されていた。一方ストーン5が務める陸軍攻撃チーム前衛は、敵の前衛目掛けて液体窒素弾と催涙弾をミックスして撃ち込んでいた。行動不能に陥れながら敵をせん滅しようといういやらしい作戦であった。
敵前衛が魔法や石礫で反撃しようとすれば、アロー君のレールガンがなぎ倒す。とどめはトビーの超音波砲だ。音響兵器で行動能力を奪っておいて超音波砲で仕留めるという情け容赦のない戦法で敵の狙撃手やガンナーを中心に打ち倒していた。
やっぱりトビー君は範囲攻撃ではなくて、対個人戦で強みが光るタイプだね。
あのスピードと火力は相手にとって脅威でしょう。しかも上空から来られたら逃げ場がないよ。
よほど堅い甲羅でも付いていない限り、モンスターも耐えられないんじゃないか。
敵軍の砲撃担当ガンナーはコドモ・ドラゴンだそうだ。ドラゴンの姿形をしているが小型で、ドラゴンの子供に間違えられたところからコドモ・ドラゴンと命名されたという。
要らんわ! そんな由来話。ドラゴンにふさわしくロング・ブレスとショート・ブレスという火炎攻撃を得意としている。遠距離に使えるのはショート・ブレスの方だ。魔法で言うと「火球」に相当する。
だが、直線的な砲撃しかできないため、前衛のストーン5が盾で受け止めればその後ろが被害を受けることは無い。
一方狙撃担当は意外にも、巨体のコニシキ・ヘビであった。巨体に備わる大きな胃袋の中には消化を助けるための「胃石」が大量に蓄積されている。この胃石を勢いよく吐き出すというのが、コニシキ・ヘビの遠距離攻撃手段である。
こちらは前衛の頭越しに曲射をして後方の兵員を狙うことができる。炸薬など当然装填されていないので、曲射では極端に殺傷力が落ちるのであるが、怪我くらいはする。鬱陶しいので、トビー君にお願いして優先的にコニシキ・ヘビを排除してもらっている。
的が大きいうえに、外皮が柔らかいので良い的である。あれだけ大きいと多少穴を開けても、大量の蛇皮が取れそうだ。
こっちの世界に蛇皮の需要ってあるかな?
『作戦本部より伝達。敵の砲撃および狙撃の沈黙を確認。全軍直ちに総進撃せよ! 全軍直ちに総進撃せよ!』
おっ。アリスさんからの進軍命令だ。ここから接近戦になるなら、迫撃砲もお役御免だね。
『アリスさん、迫撃砲は砲撃中止ですか?』
『最後に、敵将のエンペラー・皇帝ペンギンに1発かましておくニャ。名前からして暑いのは苦手ニャはず。ナパーム装填の砲弾を撃ち込むべしニャ』
『了解しやしたっと。ナパームはこれだな。ファイヤー・イン・ザ・ホール!』
俺はナパーム入りの砲弾を砲口から放り込んだ。
シュコーン。
砲弾は空へ、空へと一気に登って行った。その時だ。
敵の首魁エンペラー・皇帝ペンギンが動いた。迫り来る死の匂いを察知したのか、上空をきっと睨むと息を思いっきり吸い込み、アイス・ブレスを吐き出した。
轟轟と吐き出されたブレスは、巨大な氷柱となり、ミサイルのように上空目掛けて駆け上った。慌てて射線から遠ざかるトビー君カメラは、巨大氷柱がナパーム弾を迎撃する瞬間を捉えた。
上空であえなく粉砕されたナパーム弾は発火することもなく中身をまき散らして地上に落ちた。
「うん? 氷柱が降って来る?」
ナパーム弾を粉砕した後も、巨大氷柱は健在だった。曲射軌道をなぞり終えて、頂点から垂直に落下してくるところだった。
「えっ? あれってオレ達の真上?」
トビー君視点の映像には氷柱の真下にオレ達の陣地が映っている。驚いて上空を見上げると、真っ青な空を背景にきらきら輝く氷の塊がオレ達目掛けて落ちてくるところだった。
『トーメー! 逃げるニャ!』
「いけねえ! ビリー・ジーン、逃げるぞっ!」
塹壕の中をオレ達は死に物狂いで走り出した。何とか直撃を避けなければ……。
まるでスローモーション映像に閉じ込められたようなもどかしさの中、俺は全速力で走った。
突然、足元から地面が消え、俺は塹壕の壁に叩きつけられた。巨大氷柱が地面に激突した瞬間であった。
鎖骨とあばらを何本か折られ、痛みにあえぎながら俺は上半身を地面から起こした。
「氷津波だ……」
砕けた巨大氷柱の破片が津波となって塹壕の中を押し寄せて来た。銃弾のようなスピードで迫って来る白い嵐を見て、俺は逃げ場がないことを悟った。
『トーメー!』
「ワオン!」
俺の目の前にビリーとジーンが、四肢を踏まえて立っていた。彼らの運動能力であれば塹壕の壁を飛び越えて、あるいは生き延びることができたかもしれないのに。
にわか主人の俺のために命を捨てて盾になろうとしている。
それを見た瞬間、俺の中で「時間」が止まった。
それは死の直前に見る走馬灯のような現象だったのか? 押し寄せる氷の塊、通路を満たす白い欠片、その一粒一粒が見えた。
世界が止まって見えたその瞬間、俺は世界から切り離された。いや、自ら自分自身を世界から切り離した。
足元に直径3メートルの黒い影が広がる。それが何か、俺にはわかる。
「ビリー・ジーン!」
俺は2頭を両腕に抱えると、「その穴」に落ちて行った。




