第55話 フラグという奴を立ててしまったが、へし折りながら生きていく。
「とにかくBJは逞しくなったろう? 肉体的に以前よりも強くなった。これも俺の影響?」
「そこのところはどうも複雑ですね」
「どういういこと?」
ダン・増田の口振りは歯切れが悪かった。
「おそらくボスがワタクシとモンスターを同時にテイムすることによって、ダン・マス権限を発揮しているのではないかと」
「増田の能力が乗り移っているということ?」
「はい。モンスターの健康管理はダン・マスの業務範囲なので、ダン・マス・マスになったことによりさらに強力な影響力を持つに至ったものと思われます」
何だよ、「マス・マス」って。
「ふーん。そのうち俺もダンジョンを作れるようになったりしてね」
「あながち無くもニャイ話ニャ。その暁にはトーメー王国ダンジョンにして動物を放し飼いにしたら良いニャ」
「それでも良いけどね。でも、俺は別に動物愛護団体じゃないから。懐けば可愛いって言うだけだから」
大小取り交ぜて個人資産を安全に保管できるってところはそそられるね。今後引っ越しや移住を考える時、身一つで移動ができるからね。盗賊に襲われる心配もない。
「そうなったら世界中を旅するなんてのも良いねえ」
「高速鉄道を自分で持っているようなもんだからニャ。行きたい所に行き放題ニャ」
前世では旅行もろくに行けなかったからなあ。生まれ変わったこの世界では、気兼ねなく羽を伸ばしても良いんじゃないか。
「夢は枯野を駆け巡る、か」
「さすがジジイ。芭蕉で夢を語るかニャ」
夢を語るのに年は関係ないからね。僕は若者ですけれども。
「ちなみに戦闘中に後の生活について語るのは、『フラグ』と扱われるニャ」
「フラグねえ。どうせ1回死んでるし。夢も見ないで命のやり取りする奴の方がおかしいんじゃない?」
俺は夢を抱えて生きてやるぞ。前世ではできなかったことだから。
「さて、先へ進もうか。この先もサバンナエリアかな?」
「まだ1時間は平原が続きそうニャ」
水場が途中にあるというので、ストーン5の原子炉冷却水交換とか補給を兼ねて立ち寄ることにした。
水辺の敵に対しては超高圧電流という必殺技があるから怖くないしね。
例によって、水辺にはハニービー軍団が先行して現地調査をしていたが、今回はトビー君にも斥候として哨戒任務に就いてもらうことにした。スピードが違うからね。
5分後早くも報告が届いた。
「水辺エリアには敵主力が配備されているニャ。ワイルドヤマネコ多数。エスプーマ・プーマ10頭。コドモ・ドラゴン10頭。コニシキ・ヘビ5匹。リーダーはエンペラー・皇帝ペンギンニャ」
「うーん。またもやモンスターの名前が迷走しているな。さっきの敵で名前の傾向は大体わかったから、説明は聞かなくて良い気がする」
「知らなくても困ることは無いニャ」
そうは言いつつ、俺は1つだけ確認した。
「コニシキ・ヘビって、やっぱり太ってるの?」
「めっちゃ肥えてるそうニャ」
「やっぱりかー。ロコモコ丼とか、めっちゃ食べそうだもんなあ」
蛇だから丼は食わないだろうけどね。人を食ってるって? そりゃどーも。
「ウチも主力を集めてあるからどんな面子が相手でも驚かないけど、数が多いね」
ワイルドヤマネコの「多数」ってどれくらいよ。仮に20頭だとしたら、全部で……46頭か?
こりゃ戦争だね。
「ふははは。血が騒ぐニャ。地形が変わるほどの飽和攻撃というものを見せてやるニャ」
うわあ、アリスさんのスイッチが入っちゃいましたよ。こうなったら敵が1匹残らず動かなくなるまで止まりませんからね。
こういう嗜虐性は「猫」の外形を取っていることから精神に影響を受けているんじゃない?
AIに精神があるのかという哲学的な問いに発展しそう。
敵の戦力を把握した俺達は、その場で作戦会議に入った。
「総力戦を意識して軍編成を行うニャ」
「お言葉ですがアリスさん、ウチには軍を編成するほどの兵員がおりませんが」
「運用自体は有機的に行い、戦力分散とはならないようにするニャ。それにしても『兵員数』に不足はないニャ」
お、何か含みのある言い方ですな。「兵員数」というからには「兵」の「数」だよね。それが見た目よりたくさんいるということ?
兵の数……、兵の数……。
あ! あいつらか?
「ハニービー軍団がいたね」
「その通り。一部を連れて来ただけニャが、それでも5千匹はいるニャ。制空権はわが軍の物ニャ」
「Krwaaa!」
はい、はい。トビー君も忘れてませんよ。「空の英雄」として空軍を統率してもらいましょう。
「なるほどね。空軍は納得。『陸』は当然主力チームが担当するとして、『海』はどうするのさ? 我が家には水棲動物なんかいませんぞ?」
「ぷるぷる」
「え? 空気が無いのは宇宙も、水の中も同じだって? そう言えばスラ1の場合、体そのものが液体みたいなもんか。水中のステルス性も高いだろうし。海軍統括はスラ1君ね」
残るメンバーではアリスさんとストーン5が水中行動できそうだけど、陸の方で出番がありそうだからなあ。
可哀そうだけど、「海軍」はスラ1一人で担当してくれる? あ、問題ないって?
数が必要な時は「分裂」する? まさに変幻自在ですな。
「陸軍の統括は不肖アリスことボクが担当するニャ。前衛ストーン5に変更はないが、今回は敵兵員数が多いのでちんまり構えていてはらちが明かないニャ。前線は機動的に運動戦を仕掛けつつ、遠隔攻撃で敵陣後衛を叩くニャ」
オーソドックスに言えば長距離砲による砲撃とかミサイル攻撃とかですよね。
「ミサイルと言えばスラ1の得意技だけど、今回は『海軍』担当だもんね。水中から撃ってもらう?」
「んニャ。作戦の要を1カ所に頼るのは何かあった時のじん性を不足させることにつながるニャ」
そうだよね。柔軟性って大切だ。あと冗長性もね。1つ壊れても別の物でカバーできるという状態は「ムダ」ではなく「余裕」なのだ。
「そうなると陸軍砲兵隊は……あ、俺の担当か?」
「そうなるニャ。アサルト銃では直線射撃しかできニャいから、別の武器を用意したニャ」
「あれ、そんな予備兵器、持参してましたっけ?」
「どこでもダンジョンでちょいちょいって地下秘密基地に戻って、取って来たニャ」
あら、便利。奥さん、お弁当を忘れがちなお子様のために一家に一台いかがですこと。
「パッパラー。雰囲気的にお腹の4次元空間から取り出して見せるニャ」
「あの、ポケットはありませんよね? 黒猫だしね、黒い空間からにょーんて取り出すだけだしね」
権利問題の発生を俺が恐れる傍らで、アリスさんは不思議空間から「あこがれの迫撃砲セット」を取り出した。今なら創刊号は490円?
「こっちが弾薬ニャ。砲塔を固定して砲口から砲弾を放り込めば自動的に発射するようになってるニャ。アホでもジジイでも使えるニャ」
「直接的にディスる必要もないと思いますけどね。これ照準とかはどうやって合わせるの?」
「オートフォーカスニャ」
カメラかよっ! どういうこと?
「空軍の哨戒機能と連動しているニャ。空撮した映像とGPS機能により、照準は自動的に攻撃したい目標にフォーカスするニャ」
「へえ。そうしたら俺の仕事は砲口から砲弾を放り込むだけ?」
「時給900円の仕事ニャ。ちなみに危険手当込みの異世界相場ニャ」
そりゃ世知辛いぜ、アリスさん。せっかく憧れの「自営業という名の自由業」に就いたのだから、馬車馬生活はノーセンキュー。
「皆のためですからね。ボランティアで働きますよ。花火職人みたいで格好良さそうだし」
「迫撃砲は極端な曲射で射程距離が短いニャ。敵が同様の遠距離攻撃手段を持っていたら狙い返される危険があるから気を付けるニャ」
気を付けるニャって言われても、どうしたもんかなあ。ナノマシン・バリアを張っておいてもらうくらいしか思い浮かばないよ。塹壕でも掘ってもらうか?
「確かに直線的な攻撃に関しては、塹壕である程度防御できるニャ。ストーン5、深さ1.2メートルの塹壕を設営するニャ」
ロボットパワーと疲れない体のお陰で、オレ1人用の塹壕はものの5分で完成した。
今回も近衛隊としてシルバーウルフのビリー&ジーンを付けてもらった。一緒に頑張ろうな。飴ちゃん食べる? 要らない?




