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【第2話】女神との出会い

 意識が途切れてからどれほど時間が経っただろうか。感覚がはっきりしない。


「目を覚ましなさい……迷える魂よ……」


 ふと、包み込まれるような声で目が覚めた。

 白くぼやけた人型が見える。丸みを帯びているから女性だろうか。


「安心してください……貴方はこれから転生の儀を経て、新しい生となるのです……」


 新しい生……それは、一体どういうことなのだろうか?


「そうですね……貴方は生前、人間として産まれ、立派に子孫を遺し、たくさんの善行を重ねていますね……」


 そうなのか……?私は立派だったのか……?


「えぇ、ここ最近の魂の中でも非常に優秀で有益で、世界を良い方に導く存在でした……」


 世界を良い方に……いや……私はそんな立派な存在ではない……なんとなくそう感じる……!


「え?」


 そうだ……私は……俺は……自分の命を救ってくれた恩人に対して何も報いることができなかった、弱い存在だ……!


「あれれ?おかしいわね……魂って生前の記憶は完全に消去されて、流れ作業で次の転生先に流すだけのはずじゃ」


 生前……記憶……転生……


「そうだ!思い出した!俺は伝心!渡辺 伝心だ!」


 そう叫ぶと、先ほどまでぼやけた視界が急に晴れた。

 周囲を見回したが、なんとも妙な真っ黒い空間に小さな光の粒が漂っているような空間にいるらしい。かつて妻や息子、孫たちと行ったプラネタリウムに一番近いような部屋だ。


「えぇー!どうしよう!完全に生前の認識を取り戻しちゃったわ!?」


 先ほどまで白い人型に見えていた存在をはっきりと見ることができる。陶器と見間違うほど白い肌に神聖な印象を受ける白い衣。輝く白……いや、銀?の、長髪の女性。先ほどまでの威厳ある言葉づかいはどこへやら、何やら慌ててるようだった。

 あまりに狼狽しているため、どうもよろしくないことが起きているようだが、あいにく俺には皆目見当もつかない。とにかく、目の前の女性に話しかけることにした。


「すまない。この状況をうまく飲み込めていないんだが、ここは何処だ?貴方はどういった存在なんだ?」


「あ……あっはい!わたしは魂総管理委員の女神、ヘルミオネです!ここは転生の場と呼ばれています!」


「転生の場?転生というと、輪廻転生とかの転生か?」


「そうです!その転生です!……って、いやいや、転生対象の魂とおしゃべりなんて、私完全にド天然じゃない……!」


 そう言うと頭をブンブン振りながら抱えて悶え始める自称女神のヘルミオネ……いや本当かもしれないが。あんまりショックを受けてそうだが、状況整理のためにも引き続き話してみる。


「それで、なんでそんなにうろたえているんだ?さっきから魂とかなんとか言ってるのも気になるが、俺は人間なんだからそりゃ話くらいするだろう」


「この転生の場に召喚された魂はふつう生前の記憶は全て失った状態になってるはずなんですぅ!記憶を全て消して、魂に刻まれた情報を読み取って適切な器に送るだけの仕事なのに……どうして記憶を覚えてるんですか!?」


「いやそんなこと俺に言われても……思い出してしまったものはしょうがないだろうに。それより、魂ってことは、俺は死んだのか?」


「え、えぇ、はい、ここに召喚されたということは、貴方は何らかの事象で生命活動を終えたということになります。貴方だけじゃなく、この全宇宙の魂は宿っている器での活動を終えると記憶を消され、ここで魂の検品……ゴホン、検査を行い、状態に合わせて次の転生先に送ることになっています」


「ふぅむ。なるほどつまり、ここで次の転生先を選択される場所ってことなのか……なんとも信じがたいが……そうだ、俺の死因はやっぱり寿命なのか?」


「そうですね。88歳、心筋梗塞で永眠。人間としては上等な終わり方ではないでしょうか」


 上等……?命の恩人を見つけることもできなかったこの俺が……?

 その物言いに納得できなかった俺は思わず声を荒げた。


「そんなわけあるか!俺はあの人に……あの戦車に乗っていた人に何もすることができないままおっ死んだんだぞ!頼む!今すぐにでも戻してくれ!」


「無理ですよ!もうあなたの生前の身体は火葬されましたし、そもそも戻っても身体が魂に耐えられなくて入ってもすぐ追い出されてしまいます!」


「そんなっ……俺はどうやって償えば…………!?」


 衝撃の事実に思わず落胆してしまったが、直後、あることを思いついた。


「待てよ、全ての魂がここに通ったってことは、アンタ、俺が若いころに助けてくれたあの人を知っているな!?頼む!その人が転生したところに俺も転生させてくれ!」


「えぇーーー!無理無理!無理ですっ!そんな勝手な理由で転生先の変更はできません!というか魂が転生先を指定するってこと自体が前代未聞です!」


「でもアンタは転生先を選べる立場なんだろう!?頼む!一生のお願いだ!」


「いやその一生を終わらせた後なんですって!そもそも、仮に転生先を選んだとしても、人間の枠がもう無いかもしれないんですよ!やっても意味がないですって!」


「意味があるかは俺が決める!あの時の恩を返さないとおちおち天道様の下を歩くこともできないんだ!」


「そもそもお天道様がない星に転生するかもしれないんですから別に歩けなくってもいいじゃないですか!大体、そんな大昔にここに来た人のデータなんて残ってるかも怪しいですよぉ!」


 お?今データが残ってるかもって言ったか?


「怪しいってことは、調べる手段があるんだな!よし!今すぐ調べてくれ!俺も調べる!」


「いやぁぁぁぁ!ヤブヘビぃぃぃぃ!なんでこの魂こんなに圧が強いんですかぁぁぁぁ!そこまで言うなら調べるだけ調べますけどぉ!」


「おぉ!話せば分かるじゃないか!どれ早速……」


「魂には閲覧権限ないので見せられません!あんまり勝手なこと言うとテキトーな先に送っちゃいますからね!」


 そういうと、空間からやたらと分厚い本を取り出して調べ出してくれた。なんだ、神様とは言ってたけど結構融通してくれるんだな。

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