中等部お花いっぱいリーダーって何?
本日二話目です。
企画に掲載したのは、ここまでです。
入学式には父と母が来ました。
式後に父は、叔母の家に寄ると言ってすぐにいなくなりました。
「まあ、あの夫としては、想定範囲の行動ね」
母は苦笑いしながら、新しい裁縫道具と焼き菓子を渡してくれました。
母が帰って行き、私は寮に入ります。
寮は男子と女子に別れ、高位貴族ほど上の階の部屋になるそうです。
私は一階の玄関側の部屋でした。
学園のクラス編成は、一年生は入学時の成績順によって決められていました。
驚いたことに私は、一番成績の良いクラスです。
周囲は高位貴族の方ばかり。
貴族社会のルールを守って、なるべく目立たぬよう失礼のないように過ごします。
入学式から一ヶ月の間、クラスで浮かないように、ボッチにならないように気をつけました。
おかげで、寮生の女子で同じ爵位のミーファと仲良くなれました。
やはり最初に、ミーファに焼き菓子を差し上げたのが、良かったみたいです。
少し学校生活に慣れた頃です。
その日の昼休みに私は、中庭を歩いていました。
今日はミーファが授業の用意をする当番日なので、一人で学内の散策です。
円形の池を囲むように並んだ花壇には、色とりどりの花が咲いています。
特に領地でよく見た、たくさんの黄色い花につい引き寄せられました。
懐かしいな。
黄色い花を見ていると、思わずウルっとなります。
あら。これって、ホームシックというものかしら……。
「クリザンティ、好き?」
花壇の縁で花を眺めていると、声をかけられました。
振り向くと、頭に大きなタオルを巻いた、私より頭一つ以上背の高い男性が立っています。
男性は膝まである、黒い長靴を履いています。
学校の庭師の方でしょうか。
あるいは理科の先生?
「クリザンティって言うのですね、黄色の花。地元でよく見た花なので、懐かしくて……」
「へえ、地元って、何処?」
「ドロート子爵領です。わた、わたくし、フローナ・ドロートと申します」
淑女の礼を取る私に、庭師のような方は、慌てて頭のタオルを取りました。
「ああ、これはご丁寧に。僕は高等部のアルバスト。校内の美化を任されている者だよ」
タオルを取ったアルバストという方は、陽に焼けた顔に真っ白な歯をしています。
肩よりも長い銀色の髪を、後ろで一つに縛っています。
くっきりとした碧い瞳は、眩しそうに細くなっていました。
控えめに言って、美形です。
「ドロート子爵領っていうと、プラウディ領の近くかな?」
「はい。よくご存じで」
「ああ、そこ出身の友だちいるから」
「それって、もしかして、ウルス……様でしょうか?」
「そうそう」
なんと。世間は、いや貴族社会は狭いこと。
ウルス兄さま、いえ、ウルス様のお友だちでしたか。
「去年ウルスから種もらってね、蒔いたら、こんなにもたくさん、咲くようになったんだ」
嬉しそうに花を語るアルバスト様につられて、私もついニコニコしてしまいます。
敵を作らないための防衛笑顔。これも淑女の嗜みでしょう。
ふと、真顔のアルバスト様がこちらを見ます。
「ねえ、君、フローナ嬢。花って好き?」
「はい」
「土いじり、出来る? 虫とか大丈夫?」
「ええ、領地では、農作業手伝ってましたし、虫とかカエルとか、ミミズあたりは大丈夫です」
私とて、苦手な生き物が、いないわけではないのですが。
「じゃあ、決まり! 君を『中等部お花いっぱいリーダー』に任命する!」
はい?
◇◇
こうして、高等部の先輩に抜擢され、私は週に何度か、花壇の手入れに駆り出されるようになりました。
あとから、アルバスト先輩は公爵子息と知り、一瞬蒼ざめました。しかも彼のお父上様は宰相です。何か私が粗相をしたら、田舎の子爵家など、泡よりも儚く消えていきます。
「校内は身分とか、全然関係ないから。君のことをフローって呼ぶから、僕のことは『アル』って呼んでね」
ムリです、先輩。
周囲の高位貴族と思しき、女生徒の目が怖いです。
それはそうですよね。女子が憧れる身分と外見。
両方お持ちの方って、それほどいませんもの。
アルバスト・イルバ様は、第一王子アリスミー殿下の側近で、生徒会の副会長だとか。
「もうすぐ夏が来るけど、フローはどんな花を咲かせたい?」
私が花壇の土を入れ替えていると、アルバスト先輩がふらっと来ました。
「白い花。たくさんの白い花、見たいです」
夏の領地で咲くのは、真っ白な花と、早朝だけに咲く、紫色の花です。
群生する白い花を夏に見ると、私はほっとするのです。
あら、やっぱり、ホームシックかしら。
アルバスト先輩は顎に手を当て、ちょっとだけ考えて言いました。
「そうか。では、新しく植える白い花の選択、フローに任せよう!」
丸投げですか。
そうですか。
仕方ないので、勝手に好きな花を植えますよ。あとで文句、言わないでくださいね。
よく領地に咲いている、マトリカという白い花に決めました。
甘い香りがするし、花を乾燥させると、お茶として飲むこともできるスグレモノ。
マトリカのお茶は、眠れない時に飲むと良いそうです。
母に種を送ってもらいましょう。
そんなこんなで、週に何回かのはずだった花壇の手入れを、私は毎日するようになりました。
アルバスト先輩と話す機会が増えると、あからさまに陰口を、たたかれるようになりました。
どろんこ底辺令嬢。
花を使って男に言い寄る田舎娘。
ある程度予想していたことではありましたが、中等部一年生の低位貴族女子には、それはキツイ噂だったのです。
お読みくださいまして、ありがとうございます!!
誤字報告、感想、ブックマーク、イイね、★評価、すべてに感謝申し上げます。