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疲れている日の話

※R15※ 糖度200%注意…結婚後のとある一日

※2話連続更新




 人間、誰だって疲れる日はある。

 どれだけ若くても、鍛えていても、メンタルがオルハリコン製だとしても、疲れる日はあるのだ。


 勿論それは、夫であるクライブにも当てはまる。


 クライブは近頃は国際交流会が迫っているので城内の警備が警戒態勢にあり、なかなか家に帰らない日も多くなっていた。

 今夜は遅くなったけれど、久しぶりに帰ってきたところである。

 寝室で出迎えたクライブの顔には隠しきれない疲労が見えた。城では気を張り詰めているから疲れなど見せないだろうけど、息が吐ける自宅に戻ってきたからか、顔からはいつもの余裕ある笑みが消えていた。

 それでも、私の姿を見たら少し頬を緩ませたけど。

 伸びてきた手が私の腰に周る。


「少しだけ」


 低い声が言って、私の肩に額を落とす。思ったよりずしりとした重みと、クライブの体温がじわりと肌に伝わってくる。

 私の体温も、きっとクライブに伝わっている。

 しばらくその態勢でいたけど、まるで充電池にでもなった気分。

 しかし、果たしてこれで癒やされているのか不安になってくる。疲れている旦那様を労うために、もっとサービスすべきかもしれない。


(こういう時は……そう、確か前世では男の人は「触ってみる?」って言われると元気になると言ってた!)


 どこを、とは言わないが……。

 いや、そんなに単純なわけないよね?

 試したことはないけど、さすがにそれはあまりにも男性に対して失礼ではない? そこまでちょろくはないでしょう。

 でもクライブはまだ私を離さない。こんなに疲れているなら試してみる価値はあるかもしれない。私たちは夫婦なのだから、それぐらいは……!


「お……」


 口にしかけて、しかし気づいたことがある。


(私の慎み深いこれじゃ、触るかと言えるほどの肉が……)


 寄せて上げて、ようやく私の手のひらに掴めるくらい。私の手で、それである。


「クライブ、手を見せてください」

「手ですか?」


 肩に額を押し付けたままだったクライブがゆっくり顔を起こした。片方の手が腰から離れ、顔の横まで上げてみせた私の手に重なる。

 指先が擦れあって、続けて掌を重ね合わせる。

 こうしてみると、大きさの違いが改めてわかる。

 私の手は女性の中では大きい方だけど、クライブと比べてみると指の太さも、掌の大きさもふたまわりくらい違う。

 乾いてかさついた掌の硬さは剣を握る人の手だ。私の好きな手。


 いや、それは今はともかく。

 ダメだ。このサイズの掌に私の胸を押しつけたところで余る。ガバガバだ。つらい。

 触ってみる?作戦は中止しよう。下手に口にしても、逆に気を遣わせてしまいそう。

 ならば他にはどうしたら良いのだろう。焦ると碌なことを思い出さない。昔読んだ少年漫画では、ヒロインの胸に主人公の顔がぶつかる、というシーンがよくあったことを思いついてしまう。

 少年漫画でよく見かけたくらいだから、きっと男性の好きなシチュエーションなんだと思う。

 思い出したからには、挑戦すべき?

 ぐっと息を飲み、掌に触れていた手を離してクライブの頬へと伸ばす。もう片方の手も伸ばして、両頬を包み込んだ。覚悟を決めるためにじっとクライブの緑の瞳を見つめる。

 このまま、ぐっと胸に顔を引き寄せれば……


(胸に当たる前に、鼻が肋骨に当たるんじゃ)


 少年漫画のヒロインたちは、包容力溢れる寛大な胸囲であった。

 対して、私の遠慮がちな胸には残念ながら谷間はない。ただの谷だ。

 いや、さすがにそこまでではないけど。大変なだらかな丘陵地帯と言っていい。牛とか放牧しても良さそうな起伏の緩さである。顔を押し付けたところで、柔らかさより、まず骨の硬さを自慢している感じになるのではないだろうか。

 それで癒やされるかと言えば、答えは否だ。


 クライブの頬を両手で挟んだまま、答えを見失って固まってしまう。

 クライブは私の行動に驚いているのか、まじまじと私の顔を見下ろしている。普段は私からペタペタと触ることがないので、動揺されている気配を感じる。

 癒すつもりが、考える前に思いつきで動いてしまったから挙動不審なことこの上なかった。

 とりあえず、この状態をなんとか誤魔化さなくては。疲れている夫をただベタベタと触っただけの人に成り下がる前に!


 挟んだ頬をちょっと引き寄せて、自分の踵を地面から離す。

 背伸びした分、一気に縮んだ距離。

 吐息が触れそうなほどに。それより更に、直に熱に触れ合うほどの零距離に。

 ちゅ、と唇が触れた。

 思いのほか可愛いリップ音が響く。

 とりあえずキスしてみちゃったけど、これが私に出来る精一杯!

 自分でやっておきながら、恥ずかしくて顔がじわじわと熱を帯びていく。クライブを目をまん丸く瞠って私を見つめ返していた。

 やっぱりこれぐらいじゃ癒やされなかった!?

 だよね、今度から胸にあんぱんでも仕込んでから再挑戦させてほしい……って。


「ぎゃっ!?」


 弁解するより早く、自分の足が地面から浮いた。気づいた時には体はクライブに抱え上げられている。いきなり何事なの!?

 見下ろした先には、私を抱き上げて幸せそうに笑うクライブがいた。


「あまりにも可愛いことをされるから、元気になってしまいました」

「それは……よかったです」


 えっ。これでよかったの!?

 私の覚悟は一体……と思ったけど、クライブがとても嬉しそうに見えたので。

 これはこれで結果オーライ、だったのかもしれない?




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