「弱音」と「強がり」
「ふぅー」
終わった終わった
今日も一日お疲れ様 俺
すべてのお客さんを送り出し
夜空を見上げ
そっと溜息をつく
「ん...?」
月が出てないな
今日は新月か
そんな事を考えていると
俺は前回の新月の時を思い出していた
あの時の恐怖心は
最後のほうはもう無くなってはいたものの
今思い返せば恐ろしい限りだ
気付いたら現れて
気付いたら消えていて
今思い出しても唯々ゾッとする
「あぁ...変なこと思い出しちまったな...」
そう呟きながら店に戻り
いつもの日課の準備をする
そう
このおつかれさんの瓶ビールである
これだけはいくら営業中にお客さんに呑ませてもらっても
まったくの別腹だ
いつも通りの
四人掛けのテーブル
まさに定位置ってやつだ
慣れた手つきでビールを注ぎ
一口で飲み干す
「ふぅーうめぇなやっぱり」
そんなことを一人で呟きながら
店のテレビのチャンネルを変えていく
「なんもやってねーな」
なんてまたぶつぶつ言いながらだ
そりゃそうさ
片付け終わって深夜2;00
おもしろい番組は大体もう終わってる
仕方なくテーブルに置いた携帯を眺めながら
残りのビールをグラスに注ぎ
口に運ぶ
と同時に
「ぶぅううううー----!!!!」
まさにあれだよ
あの「毒霧」だ
おいおいマジかよ
なんてこった
また壁がおいしそうに俺のビールを呑んでやがる
「あの...どちらさんで?」
今度はあのノンちゃん似の彼女ではなく
男性だ
男性というよりも男の子?
成人はしてないだろうなってぐらいのね
もう二度目だから慣れたよ
まぁ怖いけど
「...えっと」
男の子は言葉に詰まっている
また名無しの権瓶さんかい?
まあいい
それも慣れた
「どうしたんだい?こんな時間に」
「...えっと...押された?」
自分でも腑に落ちていない顔でその子は言った
押された?
えっ?
何そのシステム??
押されたら俺の前に現れるんかーい!!!
なんやねんそれ!!!
まぁいいや
「おしぼりいる?大丈夫?」
「いえ。大丈夫です」
「飲み物は?」
「あっ呑めないので」
「だよね」
もう二回目ですから慣れたもんですわ
慣れたくもねーけど...
「で...君押されたっていうけど誰に?どこで?」
「...どちらもわかりません」
...
なんだよそれ!!
全然見えてこねーし!!
怖さしか増さねーよ!!
「わからんの?」
「はい...」
一瞬間が空いたが
彼はこう続けた
「でもあなたは観て?ます...感じて?ます...」
と自分でも考えながら彼が言う
えっ何言ってんだこいつ
怖さがどんどん増すんですけど!!
もぉなんなん!!
勝手に観んな!!!
感じんな!!!
「えっどこから感じてんの?」
「えっ...わからないです」
ですよねー!!
その答えビンビンにフラグ立ってたわ
あえて聞いたけど
マジで最近なんなん?
どうしたんだ俺?
そんな事を考えていると
彼がこうつぶやいた
「あの...いつも泣いてる人いません?」
「はい??」
怖い怖い怖い
何その質問!!
あほなんかこいつ??
「よくあなたに色々愚痴った末に泣いてる人」
「ん??」
心当たりはある
それもすごく
瞬時にアカネの顔が頭をよぎる
「その人です!!」
「は??なにが!!!」
怖いよぉ
怖すぎるよぉ
アカネの顔が頭よぎった瞬間その人です!!
ってなんだよそれ怖すぎんだろ
「その人っていつも何を、あんなに愚痴ってるんですか?」
「いやいやそんな事急に聞かれても、彼女のプライベートだし、ペラペラと言えんよ」
って何を俺は冷静に話してんだ?
「てかちょっとまって!なんでアカネの事頭よぎっただけでわかったの?」
「あっイメージが観えたので」
「えっ??じゃ俺が考えてることもわかるの?」
「いやそこまでは...あくまでも映像のイメージだけで」
なんやねんそれ!!!!
お前はエスパーか!!!!