夢と現実
「私、幼い頃から小説家になりたかったんです。なれないなんて、わかりきっていました。
でも、夢みるくらいいいじゃないですか。許されるじゃないですか。いけないことでも、なんでもでもないじゃないですか。
あるとき、友人に話したんです。
小説家になりたいって
その友達は、応援してくれたんですよ。
口先ではね。嬉しかったです。
私も幼かったので、真に受けたんですよね。
でもね、少ししてから、たまたま、偶然、本当にうっかり、聞いちゃったんですよ。
なれっこないって私の夢を嘲笑う彼女と、その取り巻き達を。
運が悪かったんだなって、今なら思えます。
でもそれは、今だからです。その時の私は、とっても悔しかったけど、妙に納得しちゃったんですよね。
心の奥では私もそう思ってたんだと思います。
だからですかね、諦めがついたのは。
それからは、まともな大人になるって夢を掲げて今まで生きてきたんです。
でも、なんでですかね。
今になって、こう。もどってきちゃったんですよ。
その時の私の熱意のようなものが。
本当は、諦めきれてなんてなかったんだなぁって
そう、思いますよ。
だから今こうやって小説を書いているんです。」
私のインタビューはそう締めくくられていた。
淡々と答えたインタビュー、真剣に語った。
今思えばおかしなところだらけ。思い出話をしたからか。
幼い頃の私はお花屋さんになりたかったし、友達に夢を語った覚えもない。
小説家をやっていると、よくある事だ。作り話と現実が混じってしまう。
だが久しぶりにやらかしたな。
一息つくために、冷蔵庫をあける。
その瞬間、ズシリとなにかが私に寄りかかる。
なるほど、これは現実だったか。
重たいそれを押し戻して、シンクに向かう。
洗い場には、真っ赤な水が流れていった。