第6話 模擬戦
アリーシャさんの合図と同時にワーシくんが火玉を放ってきた。
(え?)
俺は軽く避けた。すると驚いた表情をしながら言ってくる。
「は? なんで避けられるんだよ」
「いや、そう言われても......」
だって遅いんだもん。ミシェルが試験の時、放った風切の早さなら危なかった。だけど、今回放たれた火玉は、ミシェルの使った魔法より数段遅かった。
それに付け加え、威力もそこまで強くない。俺やミシェルが魔法を使った時は、岩を崩せるほどの威力が出ていた。でも今回使われた火玉は、精々軽いやけどをするレベルで、思っていたほどの威力では無かった。
その後も、火玉や水玉などを使われたが、どれも遅くて難なく避けることができた。そんな攻防を数分間続けていると、ワーシくんの息が切れてきていた。
「はぁ...。はぁ...。お前どんないかさま使ったんだよ」
「いや、だから何もしてないって」
そう、今のところ何もしていない。ワーシくんが攻撃してくる時、色々と考えていたのでこちらから攻撃をしなかった。その時、ティアに頭の中で囁かれる。
{早く倒しちゃいなよ}
{そうだね}
ティアの言う通り、このままやっても埒が明かない。俺も魔法を使わなくちゃみんな認めてくれないし。そう思い、ワーシくんが放った火玉と被せて俺も火玉を放ち、衝突させる。
するとワーシくんの火玉がかき消されて、ワーシくんに目掛けて火玉が向かって行った。
その時、先生が仲裁してきて、俺の火玉がかき消される。
「勝者リアム」
その瞬間、クラスメイト達が呆然としながらこちらを見てきた。俺が戻るときもまだ、ワーシくんは膝を崩して地面に座り込んでいた。
{ティア、そんなに威力が強かったかな?}
{違うわよ。この世界の魔法が遅れているだけ}
{え? それってどう言う意味?}
{それは、今後実感していくから}
今後実感して行くって言われてもな......。俺たちの試合が終わった後、続々と試合が始まっていき、ミシェルの番になった。
案の定、ミシェルにも罵声の声が上がっていたけど、対戦相手を一発で蹴散らせて周りのクラスメイト達を黙らせた。そしてミシェルがこちらに寄ってきて話しかけられる。
「お互い戦えたらいいね!」
「俺は戦いたくないけどね」
すると、俺を凝視しながら言われた。
「なんでよ!」
「だって、友達と戦いたいと思わないもん」
「私はそう思わない。だって友達ってお互いが高め合う存在でもあるでしょ?」
「......」
ミシェルに言われた通りでもある。友達だからといってお互いを高め合わないとは限らない。それに加えて、俺とミシェルの実力はそこまで変わらない。だからこそ、戦ってお互いに成長していきたいのだと思う。
「まあいいや! もし戦うことになったらよろしくね!」
「うん」
その後も無難に勝ち上がって、全勝組4人が残った。俺とミシェル、そして銀髪の女性と高身長の男性。
俺は高身長の男性と、ミシェルは銀髪の女性と戦うことになった。俺と高身長の男性の試合は、今まで通りすぐに終わった。
そして、ミシェルの試合が始まった。今までの試合を見てきて、ミシェルの圧勝だろうと思ったがそうではなかった。銀髪の女性はうまく初級魔法を使って、ミシェルの気を散乱させつつ攻撃を仕掛けていた。
それもどの属性が苦手という印象が見られなかった。するとティアが話しかけてきた。
{あの子強いわね。多分ミシェルちゃんは負けるわよ}
{え? なんで?}
{ミシェルちゃんがどれだけ魔法の威力が強くても、使い方が分かっていないから。それに比べて戦っている人は最低限、魔法の使い方をわかっている}
(そうなんだ)
俺もまだ魔法の使い方に関しては、よくわかっていない。だけど、ミシェルと銀髪の女性とでは魔法の使い方が明らかに違うのはわかる。
数分が経って、ティアの言う通り銀髪の女性が勝った。
「勝者エル!」
そう宣言されてこの試合が終わった。そして、エルさんが俺のもとに近づいてきて、言われる。
「リアムくんだっけ? 私はあなたにも負けない」
そう言ってこの場から去って行った。その後、ミシェルがこちらに戻ってくる。
「ごめん。負けちゃった」
「お疲れ様。しょうがないよ」
「それにしてもリアムと戦いたかったな。でもこの試合で自分がどれだけ未熟かわかったよ。本当にここにこれてよかった」
そして、一時間ほどの休憩を入れて俺とエルさんの試合が始まった。
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