行って帰るだけ
若草色の葉を携えた木の枝が静かに揺れる
揺れた隙間から射し込む光に照らされながら
木漏れ日が揺れるなんて上手く言ったもんだな
なんて目を細める
気付いたら吹き抜けていく風に
首をすぼめることも少なくなって
寒さに身を屈めて歩くこともなくなってきて
あまりに穏やかな朝は
僕らしくもなく
背筋を伸ばしたりなんかしたりしてる
特に希望が見えた訳じゃない
手応えを感じた訳でもない
だからなにかに期待をかけている
そんな訳でもないんだけど
それでも
綺麗だと思うものは
やっぱり綺麗に見えて
こんな自分でも
世界の全てがくすんで見えているんじゃないんだと
なぜだか胸を撫で下ろして
ここから少し歩いた先にある
いつも通り過ぎるだけの公園
植え込みに咲いた名前も知らない花
それを見て愛で合う相手もいなければ
目もくれず馬鹿話に興じられる仲間もいない
ただ今年も咲けたんだねと
心の中で語りかけ駅へと向かうだけ
僕はこれからどこへ行くんだろう
僕はあれからどこかへ行けたのかな
そんなの誰かに尋ねることじゃないんだろうけど
ここを超えればきっとの、ここを
どうにか超えてきたその先で
今もまだここを超えればって
もがいてばかりいる
満たされた気持ちになんて
これまでなれた覚えがないな
特筆して語れるほど不幸でもなかったくせに
そう言ってしまえること自体が
満たされているって証明になるのかも
なんて一人で理屈を捏ねたりもして
今日も同じ道を行って帰るだけ
今日も同じ道を独り行って帰るだけ
輪郭を失って
温くなってきた夜の風
笑い声の漏れる家の横を過ぎて
明かりの点いていない部屋へ帰るだけ
それでも