第三章 「玉手箱を開く時」 1
ポリポリ、ポリポリ。
すっかり蚊に刺されてしまった腕をカキカキ、田舎道を歩く。午前中はそれほどでもなかったのだが、電車を降りてから痒みがひどくなった。
ポリポリ、ポリポリ。
富田を先頭に、隣同士にナナコとクルミが続く。俺はその尻を見ながらしんがりを務める。今日は二人ともパンツルックで実に動きやすそうだ。
ローカル線を乗り継いで目的地へ到着したのは、お昼過ぎだった。昨日姿を現した奴が何らかのアプローチをしてくると思っていたのだが、それっぽい奴らの影もなく無事にここまで来ることが出来た。
出発した駅は、海水浴場の最寄りということもあり、それなりに人出はあったのだが、目的地へと近づくにつれ、だんだんとひと気はなくなっていった。仕掛けるなら絶好のチャンスだと思ったが、昨日の今日で、奴らも警戒しているのだろうか?
改札を出た富田が、「ここからは歩きになります」と船頭をかってでた。
ここが、富田家にとっての終着駅というやつか。
駅は当然のように無人。駅前にはタクシーの列もなければ、コンビニもない。あるのは、かなり年季の入った個人商店だけだった。どうやらバスが走っているらしく時刻表を見てみるが、半日に一本と言う、まさに『ザ・田舎』といった感じだ。
富田が向かったのは整備された道路とは逆の、とりあえず道だと認識出来るような砂利道だった。
ポリポリ、ポリポリ。
それにしても、海沿いから見える景色はまさに絶景だ。と言っても、見えるのは海だけなのだが……。
本日は晴天なり。と叫びたいくらい天気がいい。のんびり歩きとはいえ、道がやや登りになっているのか体力を奪われる。Tシャツの背中にじっとりと汗がにじむ。反面、かなりべた付くが、吹き抜けていく潮風が気持ちいい。
どこまで、どれくらい歩くかは富田と、クルミしか知らない。まぁ、子供のクルミが歩けた距離なので、そこまで果てしない旅路にはならないと思うが、一応さぐりをいれておくか。
「いや~。結構歩いたね」と言いながら、速足でクルミの隣に並ぶ。
「蚊、は大丈夫だった?」
「か? ですか?」
話が唐突だったのか、クルミは首をかしげる。
「蚊に刺されなかった? 昨日の夜」
俺は赤くなった腕を見せる。
「ああ。蚊、ですね。ええ。私は大丈夫でしたよ」
「そ、そう……」
何だか妙な雰囲気だ。半分寝ぼけていたとは言え、うわ若き男女が二人で並んで手を握っていたのだ。何も起きないわけがなく……。




