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第二章 「浦島太郎とウミガメのスープ」 8

「もしかして、憶えていないのか? お前、溺れかけてたんだぞ」

「わたしが、おぼれた?」

 不思議そうにキョロキョロと辺りを見回す。

「ここは、ウミ? そうだ、わたしは……」

 瞬間、瞳孔が開き、瞳に光が戻る。と同時に、みるみる顔が青くなる。

 ここにきて本当に意識を取り戻したのか、俺の海パンの端を掴んで震えている。

 その震えを押さえるように俺はナナコを優しく抱きしめ、もう大丈夫だと何度も繰り返す。

「武蔵が助けてくれたのか?」

「いや、俺じゃないさ。クルミちゃんが華麗な泳ぎでな。救命作業とか、とにかく何もかもが的確で一分の隙もないものだったんだ。さすがは漁師の娘ってところだな。だから礼なら彼女に言ってやってくれ」

「なっ!」とウィンクをして、クルミの方を見ると、どこか焦点の合わない目でナナコを見つめていた。

 呼びかけ、目の前で手を振っても上の空といった感じだ。

「ありがとう。クルミが助けてくれたんだってな」

 ナナコが肩に手を置いたところで、クルミは意識を取り戻したのか、

「ええ……。助かって……。良かった……。助けられて……。良かった……。私が……。私を……」

 ブツブツとクルミは何かを呟いて、薄く笑うと、突然ナナコの肩に体を預けた。

「あつい……」

 そうナナコが呟いたと思ったら、いつの間にか隣にいた富田がクルミを引きはがして仰向けに寝かせる。

「頑張り過ぎて、熱が出たのでしょう。少し横になれば問題ないと思います。この子は自分がみているので、お二人は先に旅館の方へ戻っていてください」

 正座をして、クルミの額に手を当ている。

「いや、しかし。あなたたち二人だけを残すのは……」

 辺りには海水浴客はおらず、陽はすでに水平線の向こうに沈んでいた。富田の言う、『奴ら』がコンタクトしてくるとしたら、今、なんじゃないか?

「私たちは大丈夫なので、だから、早くナナコさんを休ませてあげてください」

 俺が、二の足を踏んでいると、

「それに、いざと言う時に、武蔵さん一人だと任務を果たせない可能性だってあります。まだ、少なからず人もいますし、自分たちでも警戒はしておきますので、どうか……」

 そう言われると、こちらは何も言えない。ナナコの顔色はさっきほどでないにしろ、あまり調子が良さそうには見えなかった。

 それじゃあと、渋々俺はクルミの面倒は富田に任せてその場を後にした。



                    *


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