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第一章 「壊れたキカイ」 1

 8月。

 学校が休みになり、開けっ放しの窓から、時折子供たちの喧騒が聞こえてくる。全く元気なことだ。

 俺は、ノートパソコンに、先月こなした依頼の報告書を打ち込んでいく。

 それにしても暑い。全身から汗が噴き出している。ノートパソコン自体が熱を発してホットプレートのようになっていて、手首をこんがり焼こうとしている。

 真夏日にエアコンが故障している部屋は蒸し風呂のようで、拷問部屋状態でしかない。

 この部屋の本日の不快指数は、120%といった感じだ。

『ああああぁぁぁぁ~~』

 ガタのきた扇風機が、ぬるい風と共に宇宙人のような声を運んでくる。

「暇そうだな」

『ああああぁぁぁぁ~~』

 どこから引っ張り出してきたのか分からない扇風機に向かって、ライオンのように四つん這いのポーズで咆哮している少女。俺の声に気が付いたのか、顔だけをこちらに向けてくる。

「夏休みの宿題は終わったのか?」

「終わった」

 扇風機の風に長い髪をなびかせて、お決まりの無表情で答える。

「なら、どこか遊びに行けばいいじゃないか?」

「待機任務中……」

「あっ、そっ」と、俺は肩をすくめて見せる。

 そこで会話が終了したと認識したのか、少女はまた扇風機に向き合って今度は目を閉じて風を感じていた。

 中学生の時に俺が着ていたお下がりの、ブカブカのTシャツが風をはらんで膨らんでいる。胸元に大きな穴が開いて、無防備に少女の白い肌をさらしている。そこから大切なものが見えそうになっている。

 この子は、ゆえあって親元を離れ、うちの探偵事務所で預かっている女の子で名を、ナナコという。

 本来、『お客様』的立場なので俺たちの仕事の手伝いなんてしなくてもいいのだが、『働かざる者食うべからず』と、自主的に探偵の手伝いを所望してくる。

 そういう姿勢だけは評価するのだが、ナナコは口数が少なく社交的な捜査には向いていないので、いつもは難易度の低い猫捜しなんかを手伝ってもらっている。

 年齢不詳の、自称十六歳のナナコだが、知らない人が見ればその風貌は普通の女子高生とはかけ離れた容姿をしている。良くて中学生、悪くすると小学生といった感じだ。

 それは、ナナコの生い立ちに起因するものであり、彼女は幼き日々を孤独に過ごしてきたせいだ。

 詳しい原因ははっきりしていないが、子供の頃、両親や家族、他の人と関わらず、十分に愛情を受けずに過ごすと、身心の成長障害や発達障害が起こって身長や体重が十分に成長しない子供になるらしい。

 愛情遮断症候群――愛情遮断性小人症とも言われる一種の病で、そのせいで本来十六歳の女の子が享受すべき発育が阻害されている。そのせいかナナコ自身も感情の起伏が少ない。

 だが、その原因となるものは以前の任務で解決した。医者からは、病気も回復しこれからは十分に成長すると言われている。

 しかし、当の本人はそんなことはあまり気にしていないようで、マイペースで気ままにやっている。だから、俺も普通に接している。


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