表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/138

第二章 「浦島太郎とウミガメのスープ」 2

 背伸びをして海を眺めるナナコ。

「それで、カメはどこだ? どこにいるんだ?」

「さあな? このでっかい海で小さなカメを見つけるのは難しいんじゃないか? だけど、別にいなくてもいいだろ。放っておいても勝手に大人になるんだからさ」

 閑散としているとはいえ、曲がりなりにも海水浴場にカメはいないんじゃないか?

「駄目だ。玉手箱を貰って願いを叶えてもらうんだ」

「玉手箱って、浦島太郎かよ? さすがにそれは、おとぎ話だから、ないと思うぞ」

 シュンと肩を落とすナナコに俺は何だか申し訳なくなってくる。オヤジのやつ、適当なこと言いやがって、フォローするこっちの身にもなりやがれってんだ。

「玉手箱はなくても、カメを見つけたい……。むな志が言っていた。『鶴はセン年、亀はマン年。縁起がいいのよ』って」

 こいつは、どんだけオヤジに傾倒してるんだよ? と言うか、二人はいつの間に仲良くなってるんだ? オヤジは、中身が女性なので、話が合うのだろうか?

「そう言えば、こうも言っていたぞ、『カメが駄目なら、武蔵ちゃんに、お願いすれば大人にしてくれる』と。後ろの方は良く聞き取れなかったが、武蔵にも何かそういう力があるのか? たしか、タマ? て箱? みたいな、『キンだったか? タマなんとか』って言っていた気がするが。もしかすると、武蔵に頼めば大人にしてくれるのか?」

 上目遣いで、ナナコにそう言われ、なぜか俺の胸は大きく跳ねた。こんなお子ちゃまに迫られて動揺しているというのか? 海と言う開放的な場所がそうさせるのか? 白い肌に白い水着なせいか全裸に見えてきた。 炎天下の中、立ちっぱなしだったせいか、頭がクラクラする。

 なおも海パンの裾を掴んで、「なあなあ」と急かされる。その心と同調するように体が揺すられる。ズルズルと海パンがずり落ちる。

 そして……。

「「あ……」」

 互いに顔を見合わせる。

 俺は海パンをケツに食い込むほどずり上げ、はっきりとこう言った。

「よし! カメを探そう!」

 そんなこんなで、俺とナナコで存在するはずもないカメを探していると、

「何をしているんですかぁ~」

 ニコニコと明るい笑顔を振りまいてクルミがやってきた。

「カメをさがしている」

 真顔でナナコが答える。

「え? いるんですか?」と、視線を海面に這わせるクルミに、「まだだ。そんなに簡単ではない」とナナコが答え、俺は肩をすくめて応える。

「そうですか、でも、きっといますよ。だって、私は、ウミガメを見たことありますよ。思い出が――。記録がありますから」

 なんだか、変な言い回しだなと思っていると、ナナコが首だけをクルミに向け、

「ホントか? どこで、いつ見たんだ?」

「ええ。あれは、たしか……」

 と、クルミが考え込んでいると、

「自分も、見たことがありますよ。ただ、この辺りはそれなりに人の出入りがありますから、あまり期待しない方が良いと思いますよ」

 大荷物を持った富田が、珍しく会話に割り込んできた。

 紺色の海パンに紺色のYシャツを羽織っている。ムキムキとはいかないが、ふんどしが似合いそうなくらいには筋肉質な体をしている。

 ナナコは、「いないのか」と肩を落とす。それを見て、富田がすかさず、「ですが」と続ける。

「海である限り可能性はゼロではありません……。それに、明日、行く場所でなら、もしかすると見られるかもしれません」

 真顔なので感情が読みづらいが、きちんとフォローを入れてくる。

 その証拠に、ナナコも顔を上げ、

「知っているか? ウミガメは卵を産む時、涙を流すそうだ。見たことあるか?」

 と元気を取り戻していた。



                    *


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ