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第一章 「壊れたキカイ」 11

「カメを見に行こう。さあ行こう、すぐ行こう」と、ナナコにせっつかれていると、

「お待たせしました」

 二人が準備を整えてやってきた。

 富田の方は、さっきと同じ格好だが、娘さんの方は着替えて来たようだ。

 さっきまでは、Tシャツとジーンズにエプロンをまとった、ザ・店員という感じだったが、今度は緑をベースにしたチェックのスカートに、フリルのついたイエローのブラウスに身を包んでいる。ナナコ同様、大きな白い帽子を被っている。足元に置かれた荷物は、女の子にしては比較的小さなバッグだ。

 と、おもむろに、ナナコがそれを持ち上げた。

「依頼者の荷物はわたしに任せろ……」

 その勢いで富田の方にも手を伸ばすが、

「いえ、自分ものは、自分が」

 と、やんわりとお断りされていた。

 ナナコにしては気が利くな。これもオヤジの特別レッスンのタマものというやつだろうか?

 しかし、荷物を持たれた少女の方も、何だか気まずそうで、すったもんだの末、ナナコと一緒に持つということで決着をつけた。

 二人で持つには小さすぎる旅行バッグには、『富田クルミ』と色のくすんだ猫のキャラクターの名札がつけられていた。ずいぶんと年季が入っているので、幼少期のものをいまだに使用しているのだろうか?

 そう言えば、この子の名前を聞いていないことに今さらながら気が付く。

 クルミ――か。何となくだけど、この子に合っているような気がする。

 無口なナナコにも、ほんわかとした雰囲気で合わせているクルミ。

「それにしても、娘さん――クルミさんは、よく出来た娘さんですね……。いつもは人見知りなナナコも良くなついているみたいです」

 俺は時計を気にしている富田の隣に並んでそう告げると、富田はハッとして、空を見上げると目を細めるた。それから、眉間に皺を寄せると、奥歯を噛みしめているのか、頬が少し強張って見えた。

「あの、どうかしましたか?」

 何か気に障ることでも言っただろうか?

 富田は、「いえ、いささか夏の日差しにやられたようです」と真顔で返すと、「それより、電車の時間がありますので」と、駅へ向かって歩き始めた。

 


                    *



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