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第一章 「壊れたキカイ」 9

 そんな馬鹿なやり取りをしていると、ケンさん――もとい、富田たちが外に出て来た。

「あの、今回のご依頼のことで何か行き違いがあったのでしょうか?」

「いえいえ。任務の詳細をレクチャーしていた所です」

 よそ行きの笑顔でオヤジが答える。

「ストーカーとか変人は武蔵ちゃんの知らないところに、沢山いるんだからね。それに交通事故とか、予期せぬアクシデントは色々あるじゃない。とにかく、二人を安全に旅をさせることが今回の任務よ」

「この国はいつからそんな危険地帯になったんだよ」

「変人は変だから変人なのよ。探偵は常に常識外でものを考える癖をつけておかないとダメよ」

 と、変人のオヤジが言うと、妙な説得力があるな。

「このお方はメカトロニクスの世界では権威よ。凄い人なのよ。そのお方とご一緒出来るのよ。名誉なことじゃない」

 背中をバンバンと叩かれる。

「いえ、自分はそんな大層な人間ではありません。自分は自分の出来ることをやっていただけです」

 富田は小さく頭を下げると、謙遜する。

 オヤジの色眼鏡はともかく、富田は、一言で言い表すと、まさに不器用な人だ。

 常に何かを考えているように眉間に皺を寄せ、寡黙な男だ。しかし、年下の俺にも礼儀正しく、実直な性格なのがうかがえる。それに、見た目も背筋に定規でも入っているかのように姿勢正しく、綺麗に散髪された角刈りに乱れがない。古き良き日本人といった印象を受ける。もっとも身近にいる成人男性がオヤジなので、今まで勘違いしていたのかもしれないが、本当はこれが大人の男というやつなのかもしれない。

 ただ、娘さんに対してもそれは同じようで、見た感じほとんど喋っていない。家族なのに、どこかよそよそしいと言うか、違和感がある。そんな親子が二人きりで旅なんて、互いに息が詰まるのかもしれない。

 その筋では有名な人らしいから普段から忙しくて、家族サービスなんてする時間もなかったのだろう。もしかすると、この旅行を機に娘さんとの関係を修復しようと考えているのかもしれない。その不器用な人が、見ず知らずの人間に同行して欲しいと言っているのだ。

 探偵への依頼というよりも、むしろ純粋な願いと言ってもいいだろう。それを無下に断るような人間になったつもりはない。

「ったく、分かったよ。何でもやるのがコンビニ探偵だろ?」

「さすが武蔵ちゃん。そう言ってくれると思ったわ」

 満面の笑みでオヤジが答える。

「だけど、あいつは大丈夫なのかよ? めったなことはないとは思いたいが、変な奴が襲ってきた時の対処とか出来るのかよ?」

 俺は、この任務のバディである、ポケーと虚空を見つめているナナコを見る。

「その点なら問題ないわ。毎日、特別レッスンしたもの。防御だけなら、武蔵ちゃん以上の能力があると思うわよ」

 本当かよ? と思いながらも、オヤジがそう言うならそうなのだろう。

「それで、依頼は受けてもらえるんでしょうか?」

「ええ。モロチン……。失礼。もとい、もちろんです。今、話がついたところです。今回は、ここにいる。コンドームサシちゃんが、旅のお供をさせていただきますわ」

 おずおずと一歩前に出て訊ねる富田に、オヤジが自慢の大胸筋を叩いて、「大船に乗ったつもりでお任せください」とポージングを決めて宣言する。

「それで話は変わりますが、富田さん。いえ、ミチさん……って呼んでも良かったかしら? 今度、プライベートでゆっくり旅行していただいてもいいかしら?」

「はい。自分でよければ。この旅行を無事終えることが出来たら、ぜひ、ご一緒させてください」

 おどけて言うオヤジに、富田は真剣な顔つきで答える。

 う~ん。富田はその意味が分かってるんだろうか? いい人には間違いないが、やはり、つかみどころのない人だ。



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