第九話:家族
「それで優理、昨日遅く帰ってきた理由から話してちょうだい。」
僕と母さん、向かい合ってダイニングのテーブルに座っており
僕の膝の上にロレットが、ちょこんとまたがっている。
「昨日は学校が終わったあと、キャン吉と東谷書店にパーツを買いに行ったんだ」
「まぁ、それはいいけれど。それだけじゃないってこと?」
「うん。そこで上級生の人と揉め事があって無事解決したんだけど、予想以上に時間がかかっちゃって。それで帰りは近道をすればいいと思って雑木林を抜けて通りに出ようとしたんだ。」
「なるほど、ね。続けて」
「そうしたらその途中でこの子、ロレットがボロボロの状態で倒れていたからどうにかしてあげれないかと思って持ち帰ってきたんだ。」
「ボロボロってだけなら別にそんな慌てなくてもいいじゃない?」
「それが、左腕が無くなっていて…」
「!?それは…でもそれじゃあ、なぜ病院にロレットちゃんをつれていかなかったの?」
「それはわたしから話します」
「ロレット…いいの?」
「うん」
「わたし、実験場で対バイス用殺傷兵器の実験をさせられていたの」
「バイス用の殺傷兵器…!?」
「その実験場では、意思がなくても動くバイスの素体をターゲットにして実際の戦闘におけるバイスへの破壊力とかを、試していたんだと思う。」
「意思なく動くバイス…そんなの完全に法律違反だ…」
「わたし、戦いたくなんてなかった。いくら意識がないからって同じ形をして、動く相手を殺せるほどの武器で戦いたくなんてなかったの。でも、そうしないと私が殺されていた…だからわたし、仕方なく戦ったわ。
でもそんな状況に嫌気がさして、どうにか逃げられないかと思って機を伺った。そうしてようやく逃げれそうなときに、思いきって脱走した。
でも施設からでた瞬間、わたしに装着されていた外せないリングから信号を発して、脱出がばれてしまった。
追っ手のバイスがすぐにきたわ。バイスを殺せるほどの威力を持った兵器を持って…
このまま逃げてもいつかは信号を追われてしまえば捕まってしまう、そう思ったから思いきって追っ手のバイスと戦闘をした。
そのバイス達の中に、実体ブレードを装備したものがいて、その戦闘の中でわたしの左腕が斬り落とされてしまったの。
でもそれが、追跡信号を出していたリングごと斬ったから更に追っ手が来ることがなく、どうにか遠くまで逃げることが出来た…
そうして長い間人目につかないよう逃げ続けて、あの林に着いた。
急激なエネルギーの漏出を防ぐために一旦休憩しようと思ったら
そこへタヌキ…だったのかしら、襲ってきたの。
追い払おうとしたけど兵装は弾切れ、仕方なく追い払うためにハートコアのエネルギーも全放出してスパークさせて…そこからはあまり、記憶にないわ」
「そんなひどいことが…」
「もしかして、ロレットちゃんの斬られた左腕を治したのは、優理なの?だから帰ったなり一晩中部屋にこもってたの?」
「そうだよ。はじめは僕も病院につれていこうとしたけどロレットが止めたんだ。多分、そんな非人道的な実験場から逃げたバイスだと知れたら、治療なんてまともに受けられそうにないしね。」
「そうなの、優理がわたしを見つけてくれたから、今生きているし、左腕も…治ったの。だから優理のお母さん、優理を責めないでください
全部わたしが迷惑をかけてることなんです」
「ロレットちゃん…」
「でも、この後わたし、どうしたらいいか…わからなくって…帰る場所もない…あの実験場と関わりのある何かに見つかったらどうなるかも…わた、し…」
ロレットは涙を流し出す。
その様子を見た母さんは、拳を握りしめて強く言った。
「うちにいなさい!」
「「えっ!」」
僕とロレットは同時に驚く。
「うちには一人一組のバイスはまだ来ていないじゃない、
もし!ロレットちゃんがよければ、優理のパートナーになってくれれば、うちの子になれるわ。
優理、あなたはまだロレットちゃんにエネルギー補給ができないけど、母さんがどうにかエネルギーパックを譲ってもらえるところを探すから。
こんなこと、放っておけないわ。」
「母さん…」
それは、色々なものを背負い込むことになるはず。
謎の実験を行う組織
非人道的な兵器を使用可能な程のポテンシャルを持つボディ
それを抱え込んでうちにいるということは、あまりにも危険すぎる。
でも母さんはそれを、折り込み済みでそう言っているように聞こえる。
「うん、僕もいいよ。」
「優理、優理のお母さん…」
「しかも母さん、ロレットはすごいんだよ。エネルギーが少しでもあれば、それを元にエネルギーの自己生成もできる。だから僕がエネルギーを補充してあげられなくても問題ないんだ。ね、ロレット」
「うん…ハートコアはもうエネルギー生成はできないけど、ヘッドコアは無事だから元に比べてスピードは遅いけど、できるわ。」
「あら、それなら何の問題もないじゃない!」
いや、問題はいくらでもある。
でもそんなものは乗り越えてしまえばいい。
母さんは凄く前向きで、そういうところは息子として誇らしいなと思う。
「それじゃあ、ロレットちゃん。これからよろしくね」
「ロレット!これからよろしくね。」
「……うん、よろしく!」
そうして僕ら継川家に新たな家族が加わった。