第七話:オペレーション
まずは手指を消毒液で殺菌してから作業にとりかかる。
左腕部の根本からとなると、上腕、肘窩、肘、腋下、前腕、手首、手甲から指先まで全ての作成が必要になる。
おそらくそれだけのことをするとなれば10時間は必要になるだろう。
まず真っ先に必要なのはバイス型の特定だが、このバイス、型がわからない。
背部のブースターや体高からみて、クリムパック型か、ウィロウエルフ型には見えるが詳細はさらに調べてみないとわからない。
腕部は背部と首部に密接な関係があり、タイプごとに腕の可動域が違うため、ここをおろそかにしてしまうと
一般生活程度では問題ないが、バイス・アームズをする際にのちアーム兵装の精度に影響してくる。
なので一旦はそれをおいておき、右腕のサイズ計測、可動域測定から始めることにした。
サイズ測定はスムーズに進み、あとはどこまで無理のない可動をすることができるのか、
右腕を掴んで動かしつつ測ってみると、すさまじい柔らかさだった。
指も一つ一つの節がしなやかで、トリガーレスポンスに優れていそう。
これほどの高精度な腕は一般家庭のバイスとは比にならないほどだろう。
全ての右腕サイズ計測と可動域測定を終えたつぎは、そのサイズに見合った骨子と人工筋繊維の組み合わせだ。
ここからは精密な作業になるので、部屋の明かりを強くし、ヘッドルーペを着けて作業開始する。
人間で言う肩甲骨と上腕骨骨頭部、関節窩は残っており、上腕骨からが欠損していたので、まずは上腕骨を作り出す。
1mm単位で違う、サイズ別の上腕骨子からピッタリのサイズを選び出し
人工筋繊維を内側になる烏口腕筋から肘筋、上腕筋、上腕三頭筋、上腕二頭筋の順で接合していく。
そうしてから肩の方にある三角筋、小円筋、棘下筋、棘上筋に相当する箇所を人骨筋繊維で復元させ、
それらを組み上げた上腕部と接合する。
一つ一つがmm以下の精度を求められる組み合わせなので、手の震えなども許されない。
ここはまだ大きな区切りではあるのでまだ精度を過度に求められる部分ではないが
指先などになってくると、体高15cmのバイスの小さい指先を寸分の狂いもなく組み上げるのは凄まじい難易度だ。
「っ……ふぅ…とりあえず、上腕部の修復は完了…もう1時間以上もたってる」
とはいえあまり時間をかけるのもよくない。できる限り早めに修復を終えてエネルギーを循環させてあげなければ。
よくて長らく動かなくなる。悪ければ、腕をつけ直したとしても全く動かなくなってしまう。
次は下腕部、大丈夫…スペアユニット作成で一度練習したことがあるじゃないか、きっとうまくいく。
右腕部から測定したサイズに合う骨子を選択し、同じように人工筋繊維を接合していく。
筋の始まりの位置をずれないように、正しい位置に張り付けるのは一度やってみていなければ確実に失敗していただろう。
初めて作った腕部スペアは疑似神経を繋いで動かしては見たものの
ぎこちない動きを繰り返したし、負荷をあげたら動かなくなってしまった。
動かなくなったスペアを再度分解し、おかしな動きをした箇所を徹底的に洗い出し
何度も何度も人体図とバイスの設計学書を読み直して原因を調べて
適切な筋の開始位置からテンションを維持しつつ適切な筋の終了位置まで接合することを学んだ。
そうして出来た新たなスペアアームは、無事に動くようになったのだ。
でもそのスペアは今回のバイスのサイズ、可動域には合わないから使えない。
新たに作り出すしかないんだ。
カチャ…カチャ
ビッ、ペタ…キュッ キュゥ…ペタ
カチャカチャ、コッココ
キン!キュルキュル
キン!キュルルッ
ひたすらに精密作業を繰り返すこと6時間。
なんとか手甲までは組み合わせることが出来た。
しかしここからはとてつもなく難易度の高い、指先の修復。
「つ、疲れた…」
もう深夜の2時を回る頃で、いつもだったら僕は9時には寝ている。
正直すごく眠いが、こんなところでやめるわけにいかない。
(せめて夜食を食べて、母さんのコーヒーも飲んで次にとりかかろう)
部屋の扉をあけ、一階へ向かいダイニングの机の上にあるおにぎりとウインナー、卵焼きをレンジであたためる。
冷蔵庫の中にあるコーヒーをコップにつぎ、たくさんの砂糖をいれて飲んでみるもあまりにも苦い。
初めて飲むけどこんなに苦いのか、砂糖たくさんいれてもまだ全然苦い。けど今日だけ我慢だ。
わかめと鮭の混ぜ込まれ、いいぐあいにしけったおにぎりと
少し焦げ目に焼かれたのがいい、ウインナー。
それと甘めの味付けの卵焼き。
正直こんな悪ガキみたいなことをした僕に、
好きだったおかずで夜食まで作っておいてくれて母さんには本当に感謝しかない。
明日には全部正直に話して、謝らなくっちゃ。
全て食べ終えたあと流し台へ食べ終えた食器をいれ、水を注いでおく。
そして、最後の難関へととりかかる。