第一話:バイス・アームズ
ダッ!ガウッ!
ダララララララ!
地を蹴り、空を蹴り、
続いて重厚に響く弾ける音は、少女の右腕から発せられた。
それと同時に飛び出る高速の光弾。
タッタッタッ…ズシャァ!
襲い来る光弾を駆けかわし、バリケードへと滑り込むもう一人の少女
「エレナ!よくかわした」
「当然!」
エレナと呼ばれた少女は、バリケードから飛び出ると同時に
左腕につけられた小型の機械から淡い水色に光る薄い幕を広げながら
脚部につけられた噴射機から青白い光を猛烈な勢いで吹き出した。
エレナを押し出すように強い風が吹き、対峙した少女に高速で近寄った。
「ミデラ、格闘を仕掛けてくるつもりだ、空中退避!」
「あの機動、間違いありませんね」
ミデラと呼ばれた少女は、高速で詰め寄る相手から距離を離すため
腰部に装着された砲身から緑色の光線を拡散させるように発射させる。
そうしながら背部の噴射機から青白い光を放ち、空へと飛んだ。
襲い来る緑色の光線を左手の光の幕で受け止めたエレナは、空へ向かい右手に装着されたカバーを外し、杭打ち機を発射した。
「なっ!?」
「パイルバンカー!?近接実弾兵装だと!」
ミデラは腰をねじり、脚部の噴射機を使用したが空中での機動はエレナほど機敏ではなかった。
「まさか近接兵器を射撃に使用してくるとは!やるな、マサト!だが…」
エレナの右手に装着された杭打ち機から杭はなくなり、武器として使用できなくなっている。
「もう近接兵装は残っていない、残り時間俺たちの射撃に耐えきれるか!」
空中にいるミデラは左腕に装着されたランチャーから、三発の電気をまとった光弾を発射した。
それと同時に右腕の機関砲はエレナに狙いを定めている。
エレナは発射された電気弾を避けるために走り出すが、それは低速で追尾し続けてきている。
その走る先を見据え、右腕の機関砲から高速の光弾を連射した。
ドウッ!バゴッ!バゴォ…
電磁弾を地面に着弾させ、回避はできたが機関砲から襲い来る弾は回避できそうにもない。
エレナは左腕の光の幕を小さく密集させ、頭と胸を守ったが胴と足に一発ずつ攻撃を受けた。
「キャ!結構痛いじゃん!」
「エレナ!…大丈夫なみたいだな、よし、腰部ラッチと左腕シールドパージ!残りの全エネルギー、右手のエネルギークローとスラスターに集中させるんだ!」
「エネルギークロー…なっ、パイルバンカーだけでなく、エネルギー兵装まで右腕につけていたのか!?」
「マスター、兵装のリロード…それにバーニア残量の回復はどちらかしかできませんわ!」
「ミデラ…回避優先!」
バシュウッ!!
ミデラが空中での機動を変えるためのバーニアは噴射量的にあと一回が限度だった。
それでも近接を仕掛けてくるエレナから距離をとるため、後ろへとバーニアで移動した。
しかし、エレナは右腕以外全ての攻撃兵装を外し身軽となっており、全てのエネルギーは機動に用いられた。
そのスピードはすさまじく、バーニアを吹かせたミデラの速度を上回る速さで近寄った。
そしてパイルバンカーの下部につけられた機器から淡い水色の光が爪の形を成し、
ミデラを切り裂こうと…
ブツンッ
「こら優理!食事の時にはテレビを見てちゃダメでしょう!」
「あっ、今いいところだったのに!」
「まったく早く食べて早く学校いきなさい、また遅れたって知らないわよ」
「でもこれ、昨日の夜見れなかったバイス・アームズ準決勝のハイライトなんだよぉ!」
「はいはい、そんなこと言うと思って録画してあるから、ちゃっちゃとする!」
「本当!?母さんありがとう!」
母さんが録画しておいてくれたことに安心して
僕はウインナーと目玉焼きをパンにはさんで一気に食べた
「あっ、そんな食べ方して…お行儀悪いわよ!」
「早く食べてっていったのは母さんだもんね、それじゃいってきまーす!」
「まったくもう…いってらっしゃい」
玄関を走って飛び出て、学校へ向かう。
今日のバイス・アームズもすごかったなぁ。
マサトさんとエレナさんのコンビはいつも優勝を逃していたけど
あの様子だったらもしかしたら今回は勝ち上がれるんじゃないかな。
僕も早く自分と一緒に暮らすバイスが来て欲しいなぁ、そうすれば…
「よっ優理、おはよう。」
「キャン吉、おはよう!」
考え事をしながら通学路を歩いていると、友達の喜屋武吉が声をかけてきた。
(喜屋武でキャンって読むんだって、不思議だな)
「昨日のバイス・アームズもう見た?あれはすごかったよなぁ」
「それが…昨日はすぐに寝ちゃって見れなかったんだ、録画してたんだけど」
「相変わらず子供っぽいのね、ユーリって」
キャン吉の肩から顔を覗かせたのは、キャン吉のバイス、ウィトスだ。
「なにー!僕は大器晩成の天才型なの!今は力を蓄えてるんだ!」
「まぁ、確かにまだクラスでバイスが来てないの、優理だけだけど個人差はあるし、気にするなって」
「はぁ…そうなんだけどさ…まぁ、いっか。今日は新しいパーツの発売日だし、録画もあるし、やることはたくさんなんだ!」
「優理の前向きさは美点だよな、それじゃあ放課後俺も付き合うよ!」
「ユーリったらバイスがいないのにパーツばっかり買い集めて、なにが楽しいのかしら?」
「うるさいぞウィトス!こんどバイスがきたらバイス・アームズでこの意味をわからせてやる!」
「キャハハ!やれるならやってみせてほしいわね~♪」
「ウィトスもうやめろって、それじゃ優理、放課後な」
「うん、じゃあまたあとで」
そう、僕にはまだバイスがいない。
母さんも不思議がっているし、学校の先生もまだバイスがいない僕をどう扱っていいかわからないみたいな感じで
正直あんまり学校は好きじゃないんだ。
バイストレーニングの授業もいっつも見学だから、たいくつで
僕は母さんに内緒で保健室にいつも通ってる。
だから教室には向かわず保健室へ向かった。
保健室の扉をあけ、保健のまゆり先生に挨拶した。
「おはようございます、今日もここにいさせてください。」
「おはよう優理君、いいけど…たまにはちゃんと授業でてみたら?」
「僕だけなにもできないんじゃ、でる意味ないよ…だったら勉強してた方がましだもん。」
「ま、そういうとは思ったんだけどね。そんなにバイスに早くきて欲しいなら…」
「いい。僕は自然に来るまで待つよ。」
「あら、そう…他の子はほとんど自分で済ませちゃって、早くバイスを迎えてるんだけど、ね」
「わかってるよ、でも僕…」
「はいはい、わかってますよ。君がどうしたいかって事が、一番大事だから。」
まゆり先生は優しい。
まだ精通が来ていなくて、家にバイスを迎えられない僕の相談にのってくれた。
バイスは僕たち男の精をエネルギーとして生きる精神体生物で、
昔は人間をやたらめったらに襲って滅亡の危機に陥れたって前に授業で聞いた。
でも、それじゃあいつか人間が滅びて、エネルギー源がなくなっちゃうことを危惧したバイスの女王さまが
一人の男に一人のバイスをパートナーとさせる決まりを作った。
だから、当然バイスが来るのは精通した男のところにだけ。
「先生、優理君みたいな子結構好みだから…協力してあげるわよ?」
「い、いいよ!」
「ふぅーん、私結構人気だと思うんだけどな」
「そういうこと自分でいっちゃうとこが、ダメだと思うけど…」
「授業にでない悪い子に言われたくはありまーせん」
痛いところを突かれた僕はなにも言い返せず、教科書を黙って読むことにした。
好きなことについて勉強してる間って、時が経つのが早く感じるもので
四回目のチャイムが鳴ったあと、僕はお腹がすいていることに気がついた。
「先生、ご飯買ってくるね」
「はーい、いってらっしゃい。ここで食べるのはダメよ」
「わかってますよ」
この学校には食堂やカフェがあるが、食堂だとクラスの人にからかわれるのがいやだから
カフェでパンをかって、目立たないところで食べる。これが僕のいつもの昼だった。
しかし今日はなにやらカフェに人だかりができている。
なにかあったのだろうか?
「ゴールデンメロンパン!月に一度の限定販売!今回の数は10個ですよ~!」
ゴールデンメロンパン、それは黄金のような果肉を贅沢に使ったメロンパンで
外はサクサク、中はもっちりとした食感の超人気商品だ。僕でも知ってる。
あれは王都の有名店、バトルベーカリーが直々に、月に一度出張販売にきてくれているんだ。
「あーあ、これじゃ並びすぎてて何も買えないなぁ、しょうがない、ごはんぬくか…」
「おーい、優理、やっぱりいたんだな」
「盛田じゃないか、あのメロンパン狙ってるのかい?」
「そらぁ、オラもメイシーもあのメロンパン大好きだかんな」
盛田は僕の友人で、なんというかご飯以外のことにさほど興味をしめさないタイプの人だ。
バイスをもってるもってないだとか、貴賤だとかを気にしない、そんな彼だからこそ、僕も友達になれたんだろうな、と思う。
「でも10個しか売ってないのに盛田はこの列の18人目じゃないか。これじゃ買えない…」
「ん、優理はしらんだな、これは20人までに並んでいられりゃだいじょぶなんだ」
「ん?どういうこと?」
「2人ずつでバイス・アームズで競いあって、勝った方がゴールデンメロンパンを手にすんだぁ」
「なるほどなぁ、バトルベーカリーらしいや」
「だからよぉ、優理、おめのパーツを貸して欲しいんだぁ!おらどうしてもこのゴールデンメロンパンが食べてぇ!」
「うーーーん…」
「おめの分のパンも買っといてやるでよ、たのむぅ」
「私からもお願いです~私もほっぺがおちるようなメロンパン。たべたいんです~」
メイシーも一緒にお願いしてくる。
メイシーはファンティール型のボディだから正直とがっている性能をしている。
だから僕のようなパーツマニアでないと、普通の人では持ち得ない相性のいい組み合わせができない。
「よし、わかった。じゃあパーツを貸すよ。かわりに、僕はスパイシーベーコンパスタサンドを頼むね」
「おお、ありがとよぉ優理!そんじゃメイシー、頑張ってくれなぁ」
「わかったです~がんばるです!美味しいメロンパンのために!」
ふたり張り切っているところ、僕は考え込む。
ファンティール型は耐久性に優れたボディーと、見た目によらぬ強力な脚力を持っている。
しかし重量が大きく、地上では素早い動きをすることができない上、バーニアの噴射でも高速機動ができない。
そのため強力な脚力で一気に上空まで飛び上がり、バーニアをホバリングに使用することで、ふわりふわりと舞う空中戦を得意とする。
それにあう装備は一体どんなものか…
まず、ヘッドギアはピークギア。これは衝撃吸収に優れたパーツで、被弾時の衝撃を抑える効果がある。
右腕にはスタッカートバブルアーム。これは小さな泡状のエネルギー弾を撃ち出す兵装で、ゆっくりな弾速ながら長時間飛び続け、多くの弾を出せるため接近を防ぎやすい。
左腕にはハーフムーンボム。一試合に9発のみ所持できる実体兵装。考えた方向に半月のようなカーブを描き飛んでいくため奇襲性と妨害性が高い爆風武器。
腰部には普通、レールガンやミサイルポッド、姿勢制御スラスターをつけるが
今回はバイワイヤー・ブースターを選択した。バイワイヤー・ブースターは空中での緊急的な方向転換を補佐してくれるパーツ。
脚部にはフェザーライトレッグスを選択。空中でのホバリング性能を大きく高めてくれる。
さすがに服装までこんなところでカスタムするわけにはいかないので、服装パーツはそのまま。
あとは盛田の持っている使いなれたサブ兵装を持てば、カスタム完了だ。
「それでは先頭から2人ずつでバイス・アームズを開始してくださーい!」
パーツの装着と同時に、バトルベーカリーの店員さんが声をあげた。
15cmほどのサイズであるバイスは、バイス・アームズをする際には
特殊な力場を発生させるガジェットを起動させ、その力場内で戦う。
その力場内ではバイスの保有する精エネルギーを、僕たち学生の場合4000の数値に変換し
それを武器、スラスター、本体へと割り振る。今回の盛田に貸したパーツは
右腕が820、腰部が800、脚部が600のエネルギーを使用するので
1780エネルギーが耐久値になる。
今回の盛田の作戦は、スタッカートバブルアームで牽制し、ハーフムーンボムを狙って当てることだ。アームは一発30ダメージ程度しか与えられないが、ハーフムーンボムは一発直撃すれば400ダメージはかたい。
「よし、がんばるぞメイシー!」
「はいです!」
意気込むふたりに対する相手も
「俺たちだって負けないぞ!」
「私たちはポッチャリさんに負けないわよ」
とやる気万全。
「「バイス!アームズ!」」
二人が声をあげると右腕のリング型ガジェットからオレンジ色の光が放たれ、力場を生成した。
この力場は戦う場所によって状態がことなり、地形に合わせた障害物も生成される。
しかし、基本的には力場がはってあればその場に実際に存在する物質に、影響は与えない。
そして、ガジェットからスリーカウントシグナルが響き始める。
スリー!!
このスリーカウントの間、バイスたちは自由に移動できるが地上のみで、攻撃も禁止される。
ツー!!
そして、カウントが完了されると同時に、ジャンプや攻撃が可能になる。
ワン!!
メイシーは中、遠距離ぎみにペースをつかみたいため相手から離れるように移動している。
相手も中距離型カスタマイズなのか、つかずよらずの位置を保っている。
ゼロ!!
そしてバイス・アームズが開始した。