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3・最強ですが、新人です

 それから俺は近くの街『レビダ』に辿り着いた。

 レビダは王都ほどではないが、人が多く活気に満ちあふれていた。

 いい街だ。


「ここだったら冒険者ギルドもありそうだな」


 あまりに田舎すぎたら、ギルドがないところもある。

 そうなった場合はまた別のところに移動……ということになってしまっていたが、どうやらその心配はなさそうだ。

 しばらく歩いていると、冒険者ギルドらしき建物の前に到着する。


「入るか」


 扉を潜る。

 入ると見るからに屈強そうで冒険者らしき男の姿や、ローブに身を包んだ魔法使いの姿もあった。

 どうやらギルドで当たりのようだ。


「ギルドにようこそ! 今日はどのようなご用ですか?」


 奥のテーブルまで行くと、受付嬢に笑顔を向けられた。


「冒険者になりたいんですが」

「冒険者ですか? 失礼ですが、他の街で冒険者をやられていたという経験は?」


 受付嬢に問いかけられる。


「勇者パ……」


 そう言いかけてしまったが、


「……いや、はじめてです」


 とすぐに言い直した。


「ふうん?」


 受付嬢は首をかしげるが、それ以上詮索しようとはしてこなかった。


 ——勇者とは輝かしい功績を上げ、Sランクまで到達した冒険者のことだ。

 全属性の魔法を使いこなせるクラークはあっという間にSランクまで昇格し、すぐに勇者と呼ばれるようになった。

 そんな勇者がいる冒険者パーティーは、一流中の一流。

 限界突破していなかった俺が所属出来ていたことは、ただただ幸運であった。


 そんな勇者パーティーに所属していた、なんてわざわざ言ってみろ。

 たちまちハードルが上がっちまう。

 それに何故パーティーから離脱したか、ということを言わなければならない。

 そうすれば一転して立場が悪くなってしまいかねない。

 冒険者は弱みを見せてはいけないのだ。

 

「それでは新しく冒険者ライセンスを作ることになりますね。プロフィールカードにご記入お願いします」

「はい」


 受付嬢からカードを受け取り、すらすらと書いていく。


 この街で新しく生まれ変わるのだ。

 そのため、勇者パーティーに所属していたことはなんとしてでも隠さなければ。


 やがてプロフィールカードに全て書き終え、受付嬢に渡す。


「はい、ありがとうございます。使える魔法は……氷属性のみ?」

「そうですね」

「んー、あー……そうなんですね。まあ頑張ってください。使いようによっては、Dランクくらいまではいけると思いますから!」


 一瞬受付嬢が憐憫の視線を向けてきたが、すぐに俺を励ましてきた。


 仕方がない。

 俺が氷属性しか使えないと分かった場合の一般的な反応だ。

 本当はこのことも隠したかったが、プロフィールカードに嘘を書くことは厳禁だ。書かざるを得なかった。


 受付嬢の反応はまだ優しい方である。

 酷いヤツになると「ププー! 氷使いなんて恥ずかしくないのかよ!」と罵倒してくるヤツもいるためだ。


「まずはFランクからです! ランクの上げ方についての説明は必要ですか?」

「いえ、結構です。勉強してきたんで」


 ランク昇格についての仕組みは、王都とさほど変わるものでもないだろう。

 ランクのところに『F』と書かれた冒険者カードを受け取る。


「これからどうしますか? Fランクの方向けのクエストも用意していますが?」

「いえ……それもいいんですが、まずは魔物を換金したいです。道中の森で倒したんで」

「魔物ですか?」


 一転。

 受付嬢がパッと表情を明るくする。


「すごいですね! 早速魔物を討伐なんて……! これは将来有望ですよ!」

「あ、ありがとうございます。ですが、少々大袈裟すぎませんか?」

「なにがですか?」


 受付嬢が不思議そうな顔をして、こう続ける。


「魔物を倒せるなんてすごいことじゃないですか。Fランク冒険者は薬草摘みや雑用からはじめることが多いのに……」

「ここではそうなんですか?」

「ここでは?」

「い、いえなんでもありません。忘れてください」


 王都の冒険者ギルドでは、Fランク冒険者でも魔物を倒すことは当たり前だった。

 しかし王都の周辺では魔物も多く、貴族同士の衝突もあって戦いが多い。この街と比べることはナンセンスだろう。

 それに……平和なことはいいことだ。


「それでは魔物を早速見せてください。とはいっても持ってきているようには見えませんが……どこにあるんですか? 倒したのはスライムですか、ウルフですか?」


 受付嬢がキョロキョロ視線を彷徨わせる。


「いえ、持ってきています。少し大きいんですが、ここで出しても大丈夫ですか?」

「ふうん? まあ一度見せてください」


 俺は服の内側から、先ほどの手の平サイズの氷塊ひょうかいを取り出した。


「ではいきますよ……これが俺の倒した魔物です」


 人がなるべくいないところに氷塊を投げて、そこに込められた魔力を消滅させる。

 ベヒモスが解凍され、一気に元のサイズに戻った。

 すると……。



「うおっ! 急に魔物が現れたぞ?」

「しかもベヒモスじゃねえか、どうなってる!?」

「話は後だ! 早くベヒモスを倒さないと!」



 無理もないが、ギルドが騒然となった。


「みなさん、安心してください! そのベヒモス、死んでいますから!」


 必死に俺が呼びかけるが、みんなにその声は届かず、各々がベヒモス(の死体)に攻撃をはじめようとした。

 しかしみんなはすぐに気付き出したようで。



「このベヒモス死んでる……?」

「どういうことだ。いきなり現れて死んだだと?」



 みんなが『理解不能』といった感じで混乱していた。


 振り返ると、


「わわわ……! ベヒモスが! エリクさん、なんてもの持ってきたんですかぁぁあああああ!」


 受付嬢が目を回し、大きな声を上げた。

 しまった……やはり性急すぎたか?


 やがて受付嬢だけではなく、他の職員も出てきてベヒモスを鑑定しはじめた。



「間違いない。正真正銘のベヒモスだ」

「Sランクの魔物……! Aランクパーティーでも倒すことが難しいと言われてるのに」

「しかしどうやって持ってきたんだ? もしや失われた魔法である収納魔法を使ったのか!?」



 ベヒモスであることは認定してもらえそうだ。


 しかしこの人達は一つ勘違いしている。

 収納魔法ではない。

 似たような効果ではあるが、俺はただベヒモスを冷凍保存しただけなのだ。


「これを倒したのは?」

「エ、エエエエエリクさんっていう新人冒険者です! ここにいるFランク新人冒険者さんですぅぅうううう!」


 受付嬢はまだ混乱している様子で、俺を指差した。

 自然と俺にギルド中の注目が集まる。



「なに! あいつが倒しただと!?」

「しかも新人だと!? 天才じゃねえか!

「見たことない顔だな。それにまだ若い」

「お、おい君! まだパーティーに入ってないなら、是非オレと組まないか?」

「ず、ずりぃ! 抜け駆けは許さないぜ!」



 俺のところにみんなが殺到してくる。


 なんせSランクの魔物であるベヒモスを俺は倒してここまで持ってきたのだ。

 是が非にでも自分のパーティーに入れたいと思うのは当然のことだろう。


「み、みんな押さないで!」


 必死に声を上げるが、これもみんなの耳に届いていないようだった。

 こうやって誰かに求められることは嬉しい。今までこういうことは経験してこなかったからな。


 だが……このままでは押し潰されてしまう!

 なんとかして一旦この場から脱出しようとすると、



「——その人はわたしのものだよ!」



 と透き通った一人の女の子の声が響いた。


 声だけ聞けば分かる。

 きっとこの声の主は……美少女だ。

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