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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season3 Wolfs Forest Story06

ハイキングだと思ってたら行くのジャングルだった系

地球との怪人との闘いに勝利し、妖精人の森に踏み入って半日。

わたしたちは妖精人の森の中心、妖精人の都を目指して歩き続けていました。

「もう少しです。あ、そこの樹は人面樹(トレント)です。森の樹を傷つけた者が近づくと絞め殺しに来ますから、近づかないでください」

「え?ひゃ!?」

クリスさんにさらりと言われて思わず飛びのいたわたしの側を、風を切りながら木の枝が通り過ぎます。

その動きは的確にわたしの首を狙ったものでした。

「大丈夫? 妖精人の森は迷宮の一種だから、気を付けたほうがいいわよ」

「そ、そうですね……」

魔法的な襲撃を警戒しつつも熟練の冒険者らしい慣れた足取りで歩いていたベリルさんのいたわるような言葉に返事をしながら、思わずため息をつきます。


なんかこう、思っていたのと違う。


わたしの思いを一言でいえば、そうなります。

吟遊詩人の歌や物語の本に出てくる妖精人(エルフ)の森はもっとこう、きれいな場所でした。

森の樹々や花々はきれいに手入れされてて太陽の光が燦々と注いで、たくさんの動物が住んでいて、可愛らしい鳥の声が聞こえてくるような。

ギルドの妖精人の先輩(300歳)の故郷もそんな感じだと伺いましたし。

ですが現実は厳しいものでした。


道らしい道なんてない木の根っこと苔やきのこで凸凹して歩きにくい地面に遠くから聞こえてくる獣の声。生い茂った樹が光を遮るせいか昼間なのに薄暗いです。

おまけに滑りやすくてふとしたときに転びそうになります。というか二回転びました。

クリスさんとベリルさん曰く、森全体に感覚を狂わせて迷わせる魔法がかかっているらしく、わたしにはもう方向が全く分かりません。

案内役であるクリスさんがいなかったら、完全に道に迷っていたことでしょう。

「おっと。アリシア。そこに落とし穴がある。気をつけろ」

……おまけに罠が非常に多いです。

元々、部外者を排除するための妖精人の仕掛けが大量にある上に、どうやら人狼もこの森に潜む怪人から得た地球の道具や知識を用いた罠を仕掛けているようなのです。

一度、人狼の仕掛けた罠でやられたらしい黒焦げでバラバラになった妖精人らしき死体を見かけたときには思わず悲鳴を上げてしまいました。

「いややべえっすね。妖精人の森!」

そんな状況で、コーイチローさんの代わりにプロフェッサーさんの護衛役をこなしているナナコさんは楽しそうです。 

わたしよりも小柄な擬態した姿で、その腕にはプロフェッサーさんを抱えているにも関わらず、罠に引っかかることもなく歩いています。

「……」

そして抱きかかえられたプロフェッサーさんはといえばナナコさんに抱きかかえられた状態であることを気にした様子もなく、あの光る板を作り出して何かをやっています。

なんでも今は《聖壁》や《結界》のような効果がある「じくうだんれつばりあ」なるものの改良をしているとのことです。

原理はよくわかりませんでしたが、なんでも一度展開すると解除するまではどんなに強力な攻撃でも防げるらしいです。

(いつまで、続くんでしょうかこの森)

そんなことを考えながら、右も左も分からないような森の中を歩いていると、突然、開けた場所にでました。

人の手をこばむ巨大な森の中にあって、ここだけは人の手が入って整えられていることが伺えるそこには、緑色に染まった『城壁』が見えました。

「着きました。ここが、ボクらの都です」

クリスさんが一度立ち止まり、言った言葉に、安堵と、歓喜を覚えます。

人間にはまず見ることができないと伝えられる妖精人の神秘の都。

そこをついにたどり着いたのです。



城門があったと思われる場所に立つ巨大な人面樹に見張られながら門をくぐり、わたしたちは妖精人の都へと入ります。

「こちらです。現在のシャーウッドの森の女王にしてにしてわが母、ソフィーティアにまずは挨拶を」

妖精人の都では馬車の類が使われることはほとんどないとのことでしたので、ふわふわとした柔らかな茸に覆われ、上質な絨毯のような踏み心地の大通りの真ん中を歩きます。

左右には飛び出した樹々に覆われた、石の建物。石と樹を混ぜ合わせたそれが、この都の妖精人の住居なのだそうです。


―――見られてるな。ついでに弓矢で狙われてる。

―――この感じ、多分魔法も準備してるっす。全員、一応警戒しといたほうがいいっすね。


街中には妖精人の都というには不自然なほどに妖精人の姿がありませんが、どうやら見られてはいるらしく、感覚の鋭いサージェントウルフのお二人にはわかるようで、わたしたちに警戒を促してきます。

お二人とも、平然と普段通りに歩いているようにしか見えないのに、警戒しているときの独特の気配を感じます。

「なんとも変わった光景ね。確か、妖精人の街や都は樹や草だけを使って作り、石はどうしても石じゃないと駄目なところにだけ使われると、本で読んだことがあったのだけれど」

「ふむ。確かにエルフの住居はすべて伐採せずに代々の一族が育てた天然の樹木でできている、と文献で読んだが……例外ということか?」

「ああ、それは二千年前にボクらの都とする前は人間の都だったからだと思います。樹木が育つまで気長に待つのは面倒だけどそのまま使うにはあちこち痛んでいましたので、育てた樹で補修したそうです」

歩く道すがら、周囲をきょろきょろと見まわしていたベリルさんとプロフェッサーさんに、クリスさんが何でもないことのように答えます。

「え?そうなんですか?」

そんな話、聞いたことがない……いえ、よくよく考えたら二千年ともなると、冒険者ギルドにだって記録は残ってないでしょう。

わたしたちの住んでいる国はそこそこ歴史は長いほうですが、それでも度々王様や貴族が入れ替わるのを無視してもまともに記録が残っているのは三百年くらいですし、その前となると歴史なのかおとぎ話なのかわからないような時代です。

古代の人々は全員が魔法を使えたとか、秩序の神々と混沌の神々がお互いを滅ぼそうと戦っていたとか、その神々をも滅ぼす真なる竜がすべて焼き払ったとか、とんでもない話ばかり伝わっています。

「今から二千年前、人間の都だったこの都は、永遠の命と最強の軍勢を求めて混沌の神々に魂を売り渡した人間の王によって呼び出された魔神とその眷属によって滅んだそうです」

「聞いたことない……いえ、歴史から抹消されたのね」

ベリルさんが納得してうなずいています。

確かに、そうした時代であれば、他ならぬ王が邪悪の輩に堕して国ごと滅び去るということも珍しくはなかったのでしょう。

現代においても混沌や邪悪の輩に関わって一族郎党連座処刑されて滅びる貴族も、数年に一家くらいは出てくるわけですし。

「はい。当時の秩序の神々に導かれし英雄たちによって人間の王と民の魂を糧にこの世に受肉した魔神が討たれた後、英雄様たちが二度と同じことをすることが現れぬようにと当時かかわったものをすべて滅ぼしたと聞いています」

そう考えてみれば、古い伝説に知恵ある種族の最強の勇者を集め、混沌の神々とその眷属と戦った勇者一行のお話があったようにも思います。

ただひとたびの祈りで雲霞の如く押し寄せる不死者を清めつくしたとか、素手で大きな岩を真っ二つに割ったとか、混沌の神々から財宝を盗み取ったとか、地面を叩いたら地震が起きて混沌の軍勢がすべて地割れに飲まれたとか、とても荒唐無稽な話です。

「つまり、その魔神を倒した後に妖精人がここいら一体を森に変えたってこと?」

「そうなりますね。偉大な英雄の一人にして、最強の妖精人であった女王モリガン様が、炎霊王(イフリート)に力を借りて街に残っていた死体や怪物をすべて焼き払い、倒せなかった眷属を封印し、

 志を同じくする勇敢なる妖精人を集め、三百年かけて都の周りに森を作ったのがシャーウッドの森の始まりだと言われています」

「なるほど。それでこの森がやたら守りが厳重なのね」

クリスさんの説明にベリルさんが納得した、その時でした。

「……ちょっと待つっす。封印?」

ナナコさんがちょっと顔色を悪くして、クリスさんに問い返しました。

「はい。この森の地下には、かつての魔神の眷属が封じられています。先ほど戦ったグスターヴォは、森の外に出て旅をしたときに混沌と接触し、その心を混沌に売り渡して封印を破ろうとした咎人ですが」

前は咎人としての追放で済ませたが、今度は首を飛ばさないとと続けるクリスさんを見ながら、ナナコさんがぽつりと言いました。

「センパイ。なんかこう、ジャック・ローズと戦う以上の死神案件の匂いがしてきたんすけど」

よくわからない、おそらくは地球の言葉です。言っている顔が青ざめてるから多分嫌な意味の言葉です。

「……いつものことだろ。死神案件鎮圧担当」

そしてそれはコーイチローさんも同意見のようです。険しい顔で、ナナコさんに軽口を返しています。

「やってたんは主に元上司とか乙姫様っす。自分はただのパシリっす」

ナナコさんがどんよりした顔で返したところで、ついに妖精人の一団が姿を現しました。

銀色に輝く聖銀の鎧をまとい、大弓と短剣で武装した、若々しい男女。

全員が妖精人なので、見た目通り年齢ではないのでしょう。

そして、その戦士の一団の中から、薄衣をまとったクリスさんと顔立ちが似ている金髪碧眼の妖精人の少女が前に進み出てきました。

「無事に戻ったようでなによりです。クリストファー」

「はい。戻りました。母上。この通り、この森を荒した悪しきものと戦う勇士をお連れしました」

……下手するとクリスさんより若く見えるのに、クリスさんの母親のようです。

人間の身であるわたしには少しだけ理不尽に思えますが、見た目と年齢が一致しないのが妖精人なのでそういうものなのでしょう。

「つまり貴方が狩人の魔人(レラジェ)を討ち果たしたという勇者コーイチローですか……なるほど。

 ああ、申し遅れました。私は、この森の女王代理を務めるソフィーティア・シャーウッド。この森の妖精人を束ねるもの」

女王代理? ということは女王は別にいらっしゃるということでしょうか?

その言葉の意味を考えていると、ソフィーティア様が続けて言いました。

「……我が息子の選んだ男ならば、信じましょう。あなたが何者なのかは問わない。

 ついてきなさい。われらの女王モリガン様が、会いたがっています」

それだけ言って、ソフィーティア様はくるりと踵を返してこの都で最も大きな大樹……恐らくは城へと歩いていきます。

モリガン様というと、つい先ほど話題に出てきた妖精人の勇者様と同じ名前ですが、もしかして不老不死になって生き続けているということなのでしょうか?


そして、瑞々しい樹木でできた城の地下奥深くに作られた女王の間で、わたしたちは妖精人の女王の間で謁見することになります。

「こちらが、われらの女王、モリガン様です」

ソフィーティア様の傍らに『置かれた』のは、魔法でも掛かっているのか透き通るように美しい服をまとい、聖銀と宝石で飾り立てられた玉座に座った……干からびた死体でした。

「……え、ミイラ?」

「な、ナナコさんそれ禁句です!」

思わず呟いたという感じのナナコさんに対して、慌ててクリスさんが警告を発すると同時に。

「ぬおおおお!?」

耳鳴りのような音が響いて、ナナコさんのいた辺りが一瞬、ものすごい炎に包まれて燃え盛りました。

「ビビったっす……なんすかこのミ……人?」

それを間一髪でかわしたナナコさんがクリスさんに問いかけます。

「モリガン様は『封印』を施すために千七百年前からこの玉座に座り続けていて……今も、生きているんです」

「え……」

その言葉に驚いて干からびた、した……もとい女王様を見ました。どう見ても生きているようには見えません。

体中の水気が抜けて骨に皮が張り付いちゃってますし、目のあったところにも穴が開いているだけです。

「なるほど。確かに脳近辺にのみ生体反応がある。これは、元の肉体を培養槽代わりにして脳だけ生かしているのか。

 他の内臓がすべて朽ちて、血流すらない状態でそれを維持するとは。観測番号1872の技術も侮れんな」

プロフェッサーさんが光の板を出して目の前の女王様を調べています。

……いやちょっと、妖精人の方々がすごい目で見てるんですが。

「寿命を迎えた肉体に魔力を注ぎ込み続けることで疑似的な不老不死になる……そんな魔法があるとは聞いたことがあるわ。

 ただ、普通はそこまでやるなら肉の器を捨てて不老不死(イモータル)になることのほうが多いはずなのだけれど」

「……それでは、ダメなのだそうです。この森の封印の魔法を維持するには、莫大な魔力を帯びた森の樹々と、それと同調できる生きたまま肉が必要だと。

 他の妖精人では扱いきれない魔法であるため、モリガン様はこの玉座に座り続けることで封印を制御して、

 死すべき定めを覆して恐るべき『蟲の(アバドン)』を封印し続けているそうです」

ベリルさんの疑問に、元からいうつもりだったのか、クリスさんが説明しています。

つまりこの方は、妖精人を束ねる長であると同時に、封印の要になっているようです。

恐らくですが、物語のお約束的に、この方が死ぬと蟲の王が蘇るのでしょう。

(それにしても、千七百年……)

妖精人の時間の感覚が人間のそれとは違うのはお仕事柄知っていましたが、流石に妖精人の寿命といわれる千年を越えているとは思いませんでした。

「ちなみにアバドンってのはなんだ?」

「魔神の穢れた血と肉を求めて押し寄せた魔界に住まう森を食い尽くす虫の厄災……そう言われています」

「森を食い尽くす虫……か」

コーイチローさんが虫と聞いて、いやそうな顔をしています。もしかしたら虫があまり好きではないのかもしれません。

あれ?でも確かコーイチローさんって巨大な蟲の怪物を素手で倒していたことがあったような。


―――XXXXXX


そんな考えを遮るように突然、また耳鳴りのような音、おそらくは女王様の声が響きました。

聞いたことがない言葉です……ギルドのお仕事に必要だったこともあり、妖精人語と鍛冶人語は一通り読み書きできるのですが。

「女王のお言葉です。よくぞ来た。悪しき鳥を退けし勇者よ。そう言ってます」

「人類種1872-2の固有言語。それも推定二千年以上前の古い言葉か」

プロフェッサーさんの回答に、なるほどと気づきます。

二千年前から生きている方なら、その言葉が二千年前の古い言葉でもおかしくはない。

ダンジョンなどでたまに見つかる古文書の類も、本職の学者でないと読み解けないようなものばかりなことを考えれば、妖精人語を知ってても理解できないのはある意味当たり前かもしれません。


―――XXXXXX


「貴様らなら、不甲斐ない……その、玉なし、の子孫に代わりあの者らを討ち果たせよう。期待していると言っています」

妖精人の女王様はちょっと下品な方のようです。

「……今日は休んでおいきなさい。今宵は満月。流石に満月の夜に人狼と戦うのは危険です。休む場所はすぐに用意させましょう」

その場を取り繕うように、ソフィーティア様が提案し、わたしたちは森の探索を明日にして今夜は休むことにしました。

モリガン様は竜とか魔王を剣と魔法だけでしばき倒すガチ英雄の一人である

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなに興味深い死体… もとい肢体を目にしてプロフェッサーがステイできるか心配になります。
[気になる点] 茸(キノコ)?苔(コケ)じゃなく?
[一言] 宿敵!蝗現わる!
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