おしえて!ナナコさん!AW
異世界行ってもやることはあんまり変わってない人
「ようやく、交易都市に着きましたね」
「そうっすね。本当に色々あったっす……緑色の猿潰したり村人に紛れ込んだ狼男ボコったり人面ライオン絞め殺したり戦闘員もどきに頼まれて巨大食人植物枯らしたり。
やっとこセンパイの住んでる街に着いたと思ったらなんか旅行でいねえって聞いた時は殺意ちょっと覚えたっすけど」
「そうですね……小鬼の群れはともかく満月の晩の人狼や街道を塞いでた人頭獅子まで倒してしまったのにはびっくりしました。人狼や人頭獅子はボクの村の歴戦の戦士でも苦戦するような怪物ですから」
「これでも、もっとヤバいのと何回もやりあってるっすからね。結社時代も婦警になってからも……そのせいで異世界送りなわけっすけど」
「国の将軍様と怪人ギルドの長の両方から推薦されて、危険な異世界に旅立ち、裏切り者に死の報いを与える勇者に選ばれるなんて名誉なことじゃないですか」
「いやその考えはおかしいっす。自分は公務員として安定しまくった平穏な暮らししたかっただけっす!血みどろは結社時代に散々やったんで望んでねえっす!」
「そんなに強いのに、竜殺しも迷宮踏破も不老不死も目指さない方がもったいないと思いますけど」
「……そこは見解の違いっす。てかエルフてもっとこう、森の恵みだけで生きていける平和とか平穏とかそう言うの愛する種族じゃないんすか?
漫画とかだとそんな感じだったっす」
「え? 盟約も無しに妖精人の森に入りこむ不心得者はちゃんと捕まえて生きてることを後悔させてから殺して吊るさないとどんどん入り込んで森を荒らすんですよ? 弱かったら話にならないじゃないですか」
「どこの部族っすか」
「妖精人はみんなそんな感じですよ。ボクらの一族は勇者の一人に数えらえる女王の末裔なんで他の妖精人の森より血の気が多いとは言われてましたけど……」
「確かにアンタも敵には超容赦ないっすからね。こっちがいつもの癖で穏便に気絶させた緑色の猿にノータイムでトドメ刺しに行った時にはドン引きしたっす」
「小鬼ならどこの種族も対応は似たようなものだと思うんですが……」
「マジっすか。異世界人やっぱ鬼っすね」
「妖精人を鬼みたいな下等な怪物扱いしないで欲しいんですけど。ボクとしてはどっちかというとナナコさんの方が鬼に近い気がするんですが」
「マジっすか。てか年頃の女に言う言葉じゃねえっすよテメエ」
「気を悪くされたのでしたらすいません。ですけれど、ナナコさんって全然魔力無いのに、すごい身体能力じゃないですか。
満月の加護を受けた人狼と正面から素手で肉弾戦出来るって相当ですよ」
「純粋な能力では向こうのが上っぽかったすけどね。そこはまあ経験と技術の差でボコれたっす。これでも自分、大神流師範の免状貰ってるっす」
「オーガミ流?」
「そっす。ポチさんっつうすげえサジェウルが作った、サジェウル専用の格闘技の流派っすね。プロのサジェウルなら大体できるっす」
「なるほど。人間の格闘術や剣技には色んな流派があってそれで自分より強い怪物と戦うと聞きますから、それみたいなものですか」
「まあ大体ニュアンスはあってるっす。つってもサジェウルじゃねえと使えないっすけど」
「そうなんですか? ここまでナナコさんの動きを見てた感じだと、オーガミ流というのは人間の使う格闘術と似たようなものと思っていたのですが」
「大神流格闘術は元々人間用の格闘技の色んな技で使えそうなのちゃんぽんしたらしいっすから似てるのも当たり前っす。
ただ、格闘術だけだと大神流の半分っすね」
「半分?じゃあもう半分は?」
「話術っす」
「……話術?」
「そうっすよ。ほら、前に教えたじゃないっすか。サジェウルは《沈黙の命令》が使えるって」
「魔力の消費も、精霊へのお願いもいらない《念話》ですよね。いつもお世話になってます。
目の前で使っても感知されないなんて、反則だと思います」
「便利っちゃ便利っすけどガチの戦闘中は基本あんま役に立たない……のを何とか戦闘でも使えるようにしたのが大神流の話術っす」
「つまり《沈黙の命令》が使えないと覚えられない……それだと確かにサージェントウルフ以外には使えませんね」
「そういうことっす。味方に必要な情報教えたり、ベストタイミングで合図したりする《助言》と、
逆に敵にクソみてえなタイミングで話しかけて判断と行動ミスらせる《流言》が基本技っすね」
「声に出さないのに、確実に相手に伝わるって、確かに考えようによってはものすごいメリットですね。
サージェントウルフの沈黙の命令は他の人に聞こえないってだけで怖いです」
「そうっすよ。話術の方はテメエの頭と言葉選びがモノ言うんで使いこなせるサジェウルが滅多にいねえんすけど、使いこなせるサジェウルは本当にやばかったっす。
なんか味方がすげえ的確な行動とったり、逆に知らんうちに敵が勝手に仲たがいしたり、潰しあい始めたりするっす」
「……怖い技ですね」
「特にウルフパックは話術の方も使いこなせる人も多かったっすから、いるといないとで本当に大違いだったっすね」
「センパイさんもそうだったんですか?」
「そうっすよ。なんかこう、一回、絶対勝てない敵に当たった時は延々と自分の怪人になってからの重い過去(笑)語り聞かせて時間稼ぎして逃げたとか言ってたっす」
「……それはどういうやり方なんですか?」
「いや《沈黙の命令》って声にしないから物凄い高速で伝わるんすよ。文字通りの意味で光の速さっす。
だから普通にやったら数時間くらいかかるような重い話も簡単に相手に叩き込める!とかアホなこと抜かしてたっす」
「うわあ」
「ちなみにその技、大神流の奥義になったっす。使おうと思うと色々演出とか考えないとダメなんで超めんどいから、普通使われないっすけど」
「奥義らしくはありますけど、それはいいんですか?」
「大神流の開祖だったマスターウルフ、意外と適当だったっすから……」
「そ、そうなんですね……ところで、前にお聞きしたとき言ってましたが、ナナコさんって元々は人間だったんですよね?」
「そうっすよ。人間にナノマシンぶち込むと怪人になるっす」
「それでしたら、その、ボクも怪人になったりとかは」
「無理っすね。諦めろっす」
「即答!?」
「いやだってこっちの人間って姿かたちがかねがねそっくりだけど人類とは違う生き物らしいっすから。
なんか向こうの偉い学者様が言うにはナノマシンは地球の人類用に調整されてるから、この世界の人間とかエルフとかにはそのままだと間違いなく適合しねえらしいっす。
ちなみに適合しねえと悲惨っすよ。なんかこう、肉が腐るのと再生するのをエンドレスで繰り返して全身が形保てなくてぐちょぐちょのどろどろになって見境なく人を襲うようになるっす」
「そ、そうなんですか……」
「大首領並に天才だったらしい大首領の娘なら適合するように改造出来るかもしれねえらしいっすけど、
ここまでこっちの人らベースの怪人全く見掛けなかったっすから、ほとんど作ってないと思うっす。
多分センパイが止めたんじゃねえっすかね。脳改造されてない怪人増えたらサジェウル的に不利なだけっすし」
「じゃあ、怪人はその、コウイチロウさんという方だけなんですね」
「……いや、多分もう1人はいるっすね」
「はい?」
「ほら、こっち来る前、辺境の街に寄ったじゃないっすか。センパイが根城にしてるっつう」
「ええ。確か狩人の魔人と戦った場所を見に行ったんですよね」
「あそこの壁、新しい壁が5枚連続で続いてたっす。そんなんパワー面では普通のサジェウルだったセンパイにはまず無理なんすよねえ……」
「え?ナナコさん、前に本当の姿になって《筋力強化》かけた状態で石の壁蹴り割ってませんでしたっけ?」
「逆に言うとアンタの魔法で強化してぶち抜けそうなところ見極めて全力で蹴りぶち込んで1枚ぶち抜くのがやっとっす。
あの熱さの壁5枚とかパワー系の怪人じゃないと無理っすね。サジェウル基本非力な方っすし」
「鍛冶人どころか鬼にも勝るナナコさんの膂力で非力って、怪人の筋力ってそんなにすごいんですね……」
「上の方は本当にやべえっす……自分が知ってる中じゃ乙姫様とか特殊合金製の扉を素手でこじ開けるっすからね」
「えっと、確かナナコさんの国の将軍様でしたよね……金属の扉を?」
「そうっすよ。指先思いっきり突っ込んでめり込ませたあと、グイって引っ張って扉こじ開けられるんすよあの人」
「……正直想像もつきません。その人は古竜か何かですか?」
「そうっす。確かなんちゃらドラゴンの怪人だったはずっすよ」
「……」
「……」
「ね、寝ましょうか?明日からは忙しそうですし」
「そうっすね……」
怪人の見極めが出来ないとサジェウルが生き残るのは難しい




