おしえて!ナナコさん!8
と、言うわけでなんでコイツいるの的な
「はぁ……」
「ほ、ほらナナコさん!今日は特別にわたしの手料理なんですから、しっかり食べてください!」
「行きたくねえ……超行きたくねえ……」
「ほ、ほらこれなんかわたしでも年に3回くらいしか作らないご馳走ですよ。作るの物凄い大変なんですから……」
「大体おかしいんすよ何で交通違反切符切ったりチンピラ捕まえたりが仕事でやべえ奴見たら逃げても良いポジの婦警が異次元探索なんすかてか樹里さんがちゃんと管理してねえのが悪いんじゃないすかそもそも異次元とか樹里さんとこの腕利きなり乙姫様んとこの脳筋でも送り込んどけって話っすよ」
「……ナナコさん。もう、どうしようもないです。諦めましょう。国際指名手配怪人犯の探索任務、頑張ってください」
「でもそれ一介の婦警の仕事違うっすよ!? なんかこう国際警察とか国のエージェントとか特殊部隊とかのお仕事っすよ!?」
「……それは、わたしも思いますけど。しょうがないじゃないですか。
『任務達成出来そうな怪人が他に居ない』ってところで、上の見解が一致しちゃったんですから」
「真っ向からの殺し合いならドラゴンチルドレンに、暗殺とか潜入とかなら砂漠の海月に得意な人いっぱいいるじゃないですか……自分じゃなくてもいいじゃないっすか」
「そうは言っても、完全に未知な上に知的生命体と独自の文明が既にあって、更に科学では説明不可能な謎の超能力がある異次元に対応して、どこに逃げたかも分からない犯罪者怪人逮捕できそうな人は完全開放から三日で結社の怪人のコネが一切通用しない警察で立派にやってるナナコさんしかいないって……アドバイザーとして呼ばれてた乙姫様と樹里さんも同意したそうですし」
「警察に入ったのがそもそも間違いでしたねとか完全に罠じゃないっすかー!?」
「それはまあここまでの活躍を認めて貰ったということで……それにしても、砂漠の海月はどういう会社なんですか?
樹里さんが社長やってる会社で、怪人を派遣してるとは聞きますが、なんだかよく分からないんですよね」
「そうっすか?割と分かりやすい気がするんすけど」
「いえ、怪人や協力者に色んなお仕事を紹介する会社って言うのは分かるんですけど、範囲が無茶苦茶広いじゃないですか。
子守りとか、猫探しとかでもお金さえ払えば引き受けてくれるって言いますし……
その、いわゆる犯罪行為にも手を貸してますよね?本庁でも証拠が掴めてないので疑惑扱いですけど」
「あ、それはガチっす」
「やっぱり危険なところじゃないですか!?」
「利益優先で金にならねえことはしねえのと、堅気に対する犯罪は基本やらねえのと、モヒカンもどき見たら速攻〆る分、
訳わからん理屈で動く結社よりはマシって感じっすね。真面目に会社もやってるヤクザみたいなもんっす」
「……つまり、怪人のマフィアってことですか?」
「そんな感じっすね。確か運営歴10年越えてて、あっちこっちにやべえコネや貸しがあるんで、下手に敵に回すと超怖えっすよ。
結社の中枢にまで一部食い込んでて、砂漠のクラゲを乗っ取ろうとしたA級怪人が行方不明になって今も見つかってねえとか、
アホな鉄砲玉使って樹里さん暗殺しようとしたA級様が翌日には失敗作とガチンコタイマンする今週の生贄に決まって爆発四散したとか、
ナノマシン製造機含めた基地のある島を結社崩壊のどさくさで一つまるっと抑えてて目ん玉飛び出るくらいの金貰って人間を怪人に改造してるとか、やべえ話もたくさん抱えてるっす」
「それ半分くらいは嘘なのでは……って、砂漠の海月が設立されたの、結社が壊滅してからだったんじゃ?」
「人間社会の会社としてはそうっすけど、結社が健在の頃から砂漠のクラゲ自体はあったんすよ」
「……え?つまり結社があったころから怪人のマフィアみたいなことしてたと?」
「そうっす。つっても元々は砂漠のクラゲって怪人専用の交流サイトだったんすけどね」
「怪人専用のサイト、ですか?」
「そうそう。結社に登録されたナノマシンの持ち主しかアクセスできねえ結社の怪人専用サイトが砂漠のクラゲで。
そこの管理人が樹里さんだったんすよ」
「……それ、どんな感じだったんですか?」
「見てる人が全員怪人なの前提なの以外は人間とあんま変わらん感じだったっすね。
嘘か本当か分かんねえ結社の情報だの結社で一番の美人は誰かみてえな超下らねえ議論が書き込まれる掲示板とか、
怪人の有志が色々やってみたり解説したりしてる動画投稿とか、
色んなもの売り買いするオークションとか、お友達やセックスの相手探しの出会い系とか」
「……やってる人たちが怪人ってところ以外は、普通なんですね」
「怪人自体が人間ベースで作られてるっすからね。大体似たようなことやるんすよ」
「でも、そうなるとなんでそれがマフィアみたいになってるのかが分からないんですが」
「あ、そういやそうっすね。実はあのサイト、一つだけ普通の人間のサイトでやってねえことやってたっす」
「というと?」
「お仕事の仲介っす。こう、依頼したい怪人が幾らで依頼するからやってくれって頼んで、出来る怪人が金貰ってお仕事するって感じの」
「……それは普通のサイトでもやってるのでは?」
「気に入らねえ相手への鉄砲玉とか事故に見せかけた暗殺とか強盗とかスパイとか誘拐って人間のサイトでも依頼できるんすか?」
「すいません。そうですよね。結社の怪人仕様のおかしいお仕事が仲介されるんですね。分かりました」
「そうっす。やべえ仕事頼みたいときの駆け込み寺が『砂漠のクラゲ』で、会社としての『砂漠の海月』はそこから始まっただけあって割と何でもやるんすよあの会社。
今でも社員っつっても事務方と他の組織に渡さねえように囲い込みされてる一握りの連中除くと基本的には給料無しで、依頼をこなして成功報酬貰う傭兵って扱いっす」
「なるほど。それでその管理人の樹里さんが社長で、怪人業界のドンなんですね」
「そうっすね。ていうか砂漠の海月まともに回せるのは多分、樹里さんだけっすよ。基本的に自分らが好き勝手やりたい怪人の集まりっすから」
「そう言えばナナコさんの話では樹里さんって陰謀タイプでしたっけ……実際のところ、強いんですか?樹里さんって」
「え?強いかと言われると……アサシン・ジェリーの中では最強ってのは間違いないっすね。
なんかこう、すげえ精密に触手複数操って、カンフー映画のワイヤーアクションみたいな動きで毒針刺しにくるっすから」
「……あの恰好で、ですか?」
「そうっすよ。ちなみにアサシン・ジェリーって怪人状態のときは見た目そのままに半透明になるっすから超ホラー映画っぽいっす。
樹里さんも結社時代は夜中の心霊スポット巡りが趣味で肝試しに来た連中散々驚かせてたとかどうとか」
「それはこう……見ただけで失神しそうですね」
「今は流石にやってないらしいっすけどね。で、話戻すと、樹里さんはアサシン・ジェリーとしては超強いんすけど、それが乙姫様みてえなA級怪人とかと比べると強いかと言われると、ねぇ……」
「怪人は基本の能力差がとても大きいんでしたっけ?」
「そこっすね。樹里さんの触手はパワー馬鹿が引っ張るとあっさり千切れるし、筋肉の壁とか外骨格装甲ぶち抜けないし、再生能力高い怪人には麻痺毒も効かねえらしいっす。
全部兼ね備えたバクダン辺りとは相性最悪っすし、一回、乙姫様に直で襲われた時は多分殺されはしねえからってセンパイ餌にして速攻で逃げたとか言ってたっすね」
「……判断早っ!?」
「そりゃ咄嗟の判断力とか戦術眼とかクソ度胸無かったらB級怪人が怪人業界のトップの一角に立てないっすよ」
「なるほど……そう言う立ち回りが出来るタイプってことですね」
「……正直、樹里さんがいきゃあいい気がしてきたっす。あの人なら謎の異次元とかでもなんとかすると思うっす」
「それは……樹里さんがいないと砂漠の海月が回らないとなると、無理だと思います」
「オウ……そう来るっすかぁ……やっぱ下っ端はどこ行っても扱い雑なんすねえ……」
「い、いや三日に一度は戻ってこれるように手配するとも言ってましたし、色々支給しますから!大丈夫です!」
「ま、そうっすよねえ。結社じゃあるまいし、ロクなもんも持たせずに異次元に放り出して放置プレイとかしないっすよね!」
―――原因不明の異次元転移装置の故障で、テストとして転移した直後のナナコさんと連絡が取れなくなったのは、それから三日後のことでした。
敗因:プロフェッサーさん製造の機械を信用した




