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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season2.5 Holiday Special1

ここまで、奴隷買って色々買って邪教と戦って聖騎士と果し合いしかしてねえ

一連の戦いが終わった翌日の天気は、生憎の雨模様だった。

(この雨じゃあ、露店は大体お休みでしょうね……まあ、あんまり気にしないでしょうけど)

アリシアは朝早くから、コウイチローと共に出かけて行った。

なんでも今日は劇場でアリシアが見たい劇をやるらしく、それを見に行くと言っていた。

劇場ならば雨は関係ないが、それ以外の散策をするなら雨なんて厄介者でしかないはずで、アリシアも朝出かけるときは少し残念そうだった。

(まあ、アリシアは割と建物見に行ったりするのが好きっぽいからそれでいいんでしょうけど……)

ここ、交易都市にはとても高い物見の塔や美しい装飾が凝らされた神殿の聖堂、怪物が掃討されて一般人でも入れて見て回れる古代の地下遺跡、趣向を凝らした都会にしか無い店など、雨の日でも見て回れる、珍しい物が沢山ある。

この雨では市場や広場は閑散としていると思うけど、それらを見て回れば一日くらいは困らないだろう。

(ま、今日くらいは、ね)

アリシアとコウイチローが二人だけで出かけるというのには、女として、思うところが無いわけではない。

だが、アタシがこうして今、死の教団からも聖騎士からも狙われず、こうして穏やかに過ごせているのは、アリシアたちのお陰でもある。

(……それにこの前、普通に逢引きもしたしね)

それに、逢引きらしきことをしたのは、アタシが先なので、今日のところは譲ってあげることにする。

そんなわけで、今日はアタシはまだ読み切っていない魔導書を読みながらゆっくりと部屋で過ごすことにしたのだ……彼女と、二人で。

「……なんだ?どうかしたか?」

アタシが見ているのに気づいたのだろう。この部屋に残ったもう1人……プロフェッサーがアタシをちらりと見る。

どこか眠そうで、それでいて鋭い、獲物を狙う猫のような真っ赤な目に、普段はコウイチローの手で編まれてまとめ上げられている、今はさらりと流れたままの夜空のように真っ黒で艶やかな髪の毛。

いつも服の上から鳥をかたどった勲章が付いた洗っている様子もないのに真っ白な外套を羽織った不思議な女の子で、一応はアタシの主人ってことになってるコウイチローの上司、らしい。

だが、アタシの見る限りでは、プロフェッサーは普通の人間の子供だ……貴族として順調に行ってれば、アタシにもこれくらいの子供がいてもおかしくないと気づいた時にはだいぶ凹んだ。

身体能力も明らかに下手な怪物をも越える怪人の二人どころか人間の大人には勝てない程度だ。

普通の人間の子供とそう変わらないし、魔力だって宿っていない。

頭の回りだけは異様に早いけど、時々盛大に空回りするのも知っている……だからこそ、アタシたち大人が見ていてやらないととてもあぶなかっしいのだ。

「なんでもないわ。ただ、朝は調子悪そうだったのに、もう平気になったんだなって」

そんなプロフェッサーは今朝、起きた時には明らかに調子が悪そうだった。辛そうにしていたし朝食も普段の半分程度しか食べていない。

多分だけど、熱も出していたと思う。

コウイチローは口にこそ出さなかったが、だいぶ気にしていたようだ。

だが、どうやらその心配は不要だったらしい。まだお昼前なのに完全に治ったようで、調子も顔色もいつものプロフェッサーに戻っていた。

今は、買ってきた本を凄い勢いで読んでいる、あの本、表紙のタイトルからして鍛冶人(ドワーフ)語で書かれてるはずなんだけど、普通に読めてるっぽい辺り本当に頭がいいんだろう。

「ああ、どうもこの前、患者との接触の際に感染したようでな。それが初期症状を起こしていた。感染の原因になったウィルスについても、確認済だ。

 私は、感染症対策として風邪薬を持ち歩いている。それを服用した。初期の感染症ならば服用から一時間もすれば治る」

そう思っていたら、どうやら携帯していた薬を飲んだらしい……少し効くのが早すぎる気がするが、まあそう言う薬なのだと思えば納得できる。

それより気になったのは別のことだ。

「へえ。風邪薬って、もしかして地球ってところの?」

アタシが、自分が魔人であることを明かしたときに、コウイチローたちから聞いた話によると、コウイチローとプロフェッサーは地球なる異世界の出身らしい。

その世界がどんなところかは知らないが、プロフェッサーの持つ原理すらまったく理解できない異質な技術が使われている世界だ。

そこで作られた薬なら、人間や妖精人(エルフ)の魔法使いが作る霊薬(エリクサー)並みの回復力があってもおかしくはないと思う。

「ふむ、そうであるとも言えるし、そうでないとも言える」

「あら、どうして?」

だが、アタシの問いかけに対するプロフェッサーの答えは、少し謎めいたものだった。

どういうことなのか、いまいち意味が掴めない。アタシは理由を問う。

「風邪薬の研究開発は、地球で行った。地球でも製造可能と言う意味では、地球の薬とも言える。

 だが、今の地球にこの薬品を製造できる人類はいないだろう」

「……もしかして、自分で調合したの?」

あっさりと言い切った言葉に、アタシは驚いた。

どうやらプロフェッサーは薬学にも詳しいらしい。

「当然だろう。事前にある程度偵察済とは言え、未知の土地に行くのだ。感染症に対する備えを怠れば、人間はたやすく死ぬ、らしいぞ」

「……そ、そう。本当に、何でも出来るのね」

アタシはアタシの中で、プロフェッサーの知識と技術の評価を上げておく。

……っていうか、何なら出来ないんだろう?この子。

「…………なんでもは、出来ん」

そう思っていたら、窓の外を見ながら、プロフェッサーがポツリと言った。

「そうなの?」

「ああ、私の最終目標についてはまだ、達成のための糸口にすら模索中だな」

自分にも、出来ないことがある。そう言う時のプロフェッサーは、少し寂しそうで、年相応の子供に見える。

「最終目標、ねえ……もしかしてそれが、この世界に来た理由?」

「そうだ、私は……最強の怪人となる。そう、自らの最終目標を設定し、この世界の探索を行う準備をしていた。

 まさかその前に結社が滅ぶとは思っていなかったし、念のための確認のつもりが本当の模索になったのは想定外だがな」

その言葉で察したアタシが尋ねると、プロフェッサーは頷いて自らがこの世界を訪れた理由を語る。

「最強? ……つまり、それがプロフェッサーが自分を怪人に改造していない理由ってことかしら?」

「そうだ。一度怪人になったものは、人類に戻ることも、他の怪人になることも出来ん。改造できるのは一度だけだ」

「だから、その最強の怪人になれる準備が整わないうちは、怪人になるつもりは無い、と」

そこまで言われれば、アタシにもプロフェッサーが求めていることもわかった。

……コウイチローによれば、人間を怪人に変える『ナノマシン』なるものは人間以外の生物や怪物の血液を素材として必要とする。

そしてアリシアによれば、プロフェッサーはこの世界の生き物の血液を集めているのだから。

「その通り。私は最強の精子と卵子を使って製造され、17億の受精卵から選別を重ねることで大首領をも超越する知能、すなわち人類史上最高の知能とあらゆる怪人に改造可能な適合性を有し生まれてきた。

 あとはこの世で最も強い怪人としての肉体を得れば、非常に単純明快に人類を超越した最強の進化種となる」

「……なんだか、凄く分かりやすい夢を持ってるのね」

そう言い切るプロフェッサーは淡々としているけれど、夢自体は分かりやすいと思う。年頃の男の子みたいな夢だ。

何を考えているのか分からないと思っていたけれど、案外普通のことを思っているんだな。そう思った。

「どこがだ?」

「え?」

……が、納得したアタシにプロフェッサーは真顔で問い返してきた。どうやら本人としては、全く分かりやすい夢じゃないらしい。

「肉体的に最強となる。それはいい。では最強とはなんだ?定義が分からん。力か?生命力か?素早さか?行動の精密さか?人類には無い特殊能力か?どれがどう優れていれば最強と定義できる?」

「それは……アタシにも、分からないわ」

ああ、更に分かった。この子は、バークスタインに近い。とても、面倒くさい性格をしている。

最強なんて、自分が最強と思ったらそれでいいじゃない……とか考えられないのだ。

「……現時点で、最強の怪人。そう呼ばれる存在がどういうものであるかは知っている」

それから、プロフェッサーは外套のポケットに手を突っ込み、一本の液体に満たされた管を取り出した。

「……それは?」

「怪人化処理を行うためのナノマシンだ。これは、かつて結社によって作られた怪人の中における『最強の怪人』へと肉体を改造する。

 だが、適合した人間は、70億いた人類の中でも過去2名しかいない。大首領と、その予備として選別されて製造、調整された、私だ」

なるほど、一応は目標としているものはあるらしい……それを使わないということは、納得していないということなんだろう。

それは、分かる。無理もない。

「……物凄く、気持ち悪い色をしているのね。何色なの?それ」

「分からん。私にも定義不能だ」

それは、黒っぽいけど、黒じゃない……世の中にあるすべての色を無理やり混ぜ合わせたような色をしていた。

赤のようにも、青のようにも見えて、しかも何色なのかが絶え間なく変わる。見ているだけで吐き気がするような色だ。

こんなものを身体に入れたら、取り返しがつかない、大変なことになる、根拠も何もない直感だけど、そう思った。

「それで、それを使うと、どんな怪人になるの?」

「あらゆる怪人のナノマシンを取り込み、特殊能力を模倣することが出来る。更に肉体的には状況に適応して理論上無限に進化する。

 そして、己の肉体の欠片を他の怪人の脳内に埋め込むことで、精神構造を変質させ、支配することが出来る……」

その、ナノマシンを使うとどんな怪人になるのかについて、プロフェッサーはすらすらと答えて見せる。

……最強の怪人、と言われるだけあってとてつもない力を有しているらしい。

「……なにそれ、反則じゃない」

「そうだ。現在までに確認されている怪人と比べれば、正しく反則と言っても良い性能を持っている。

 原初にして、無限に進化することで最強であり続ける、この世にただ1種類しかいない、生まれながらのS級怪人。

 大首領と私のみが適合した最強の怪人『パーフェクトモンスター』……私の遺伝子上の『母』は、これを最強であると結論付けた」

アタシが素直に言うとプロフェッサーは肩を竦める。呆れの中に、少しだけ悲しみを混ぜて。

「だが負けた。最強ではなかった。偶然誕生した『怪人殺し』とでも言うべき怪人に敗北した。

 ……愚かな女だ。他の怪人たちを使い、限界まで進化させた上で喰おうとして、逆に蹴り殺されたのだからな」

「……バカみたいな死に方ね」

その末路を聞いて、アタシは素直な感想を言う。

まんま、おとぎ話や冒険の中で出会う、危険な実験に手を出した悪い魔法使いそのものの死に方だ……どうやら、例え異世界でも、そう言うことはあるらしい。

「そうだ。だから、私は『これ』が信用ならん」

恐らくだが、プロフェッサーは見てしまったのだろう、そのバカみたいな死に方をした自分のママを。

少しだけ、気持ちは分かる。アタシだって、パパのことは今でも好きだが、あんな末路を辿るのは絶対にごめんだ。

「最強の進化種ならば、怪人殺し……最悪の失敗作に負けることも思えんし、そもそもそんな愚かな間違いを犯すとは思えん。

 だから私は……『これ以上』が無いかを探しているのだ。

 これを越える生物の遺伝子を手に入れてナノマシンを製造し『真に最強の怪人』となる。それが私の最終目標、夢となる」

……だけど、根本的なところで、プロフェッサーはとんでもない結論を出したらしい。

つまり、最強の怪人たる大首領とやらを越える怪人になればいい。

まるで、子供の見る夢みたいな……ああ、この子は、そう言う『子供』だった。

「それになって……どうするの?」

「……それは達成後に再設定すればよい。当面、私の最終目標は達成困難なのだからな」

思わず問いかけたアタシの疑問に、プロフェッサーは肩を竦めて、そう呟いただけだった。

と言うわけで、俺たちの観光はこれからだ!的小話やってきます

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― 新着の感想 ―
[一言] 大首領お母さん!? >育てて食う なるほど、それで追撃しないのか!
[気になる点] 遺伝子上の母が大首領なら父は暴君閣下で合ってます?
[一言] 「今週の生贄」って文字通りの生贄だったわけですか……
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