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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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おしえて!ナナコさん!7

大首領が死んでも、怪人は怪人だよ?

「……むう。また配送ミスっすね」

「あら?配送ミスですか?」

「そうっす。なんか自分とこ、違う人の通達とか健康診断結果とか来るっす」

「それは困りますね。ナナコさんところに誤配されてると言うことは、誰かに届いてないってことですし」

「そういやそうっすね。てか誰だよ里見里香って感じっす」

「……ナナコさん。それ、ナナコさんの本名です」

「え?……あ。あーあー。本名とか普段全く使わねえから忘れてたっすわ、面倒な手続きは大体アンタに押し付けてるっすし」

「それはまあわたしの場合はそう言うお仕事なのでいいんですが、ご自分の本名って普通忘れますか?」

「そりゃまあ、思い出したというか、自分の本名知ったの結社崩壊した後っす。それまでずっと7750号かナナコで通してたっすからねえ。本庁でもナナコとかナナコさんとしか呼ばれねえっすし」

「でもご家族とかに呼ばれたり」

「なんか自分の親、不良仲間と自分が行方不明になった後、それが原因で教育の責任押し付けあって揉めて離婚したらしいんすよね。

 で、今になって帰ってこらられても困るし、ていうか昔の記憶全部忘れてるし、人殺しとかしてた結社の怪人なんでしょ?

 って感じで超居心地悪かったんで、近寄ってないっす。いやあ婦警になれなかったら砂漠の海月に身売りするしかなかったっすね」

「……ナナコさん、そういう辛くなる話をさらっというの辞めましょうよ」

「いやまあ、前世のしがらみなんて自分がいちいち気にしててもどうにもなんねっすから」

「前世ですか?……あの、中学生が昔はとある国のお姫様だったとか、暗黒の魔王と戦う光の勇者の恋人の僧侶だったとか言う、あの?」

「……アンタ、昔は割と拗らせ中二病だったんすか?」

「え、あ、き、聞かないでください!」

「……なるほど、アンタまあまあ顔整ってていいとこのお嬢で安定堅実な公務員なわりにモテないの、それが原因だったんすか」

「は、話を戻しましょう!前世って怪人の中では意味合いが違うんですか!?」

「ん。まあ、アンタみたいな痛々しい前世自称する怪人も居たっすけど、基本的には前世っつったら自分が改造される前の人間だった頃のことっすね」

「一言余計です!……改造される前と言うと」

「ほら、怪人って脳改造されるときに人間だった頃の記憶全部消されるじゃないっすか」

「そう言えば、そうですね」

「んでまあ、常識とか知識とか、頭が忘れても身体が覚えてる経験とかはまあそのまま覚えてるし使えるんすけど、自分の過去に関する部分は絶対思い出せないんすよ。脳みそがそう言う風に弄られてるから、治したりも出来ねえっす」

「……それって、人間だった頃に名乗ってた本名をまったく思い出せないってレベルなんですか?」

「そうっすよ。身体は覚えてるから、ニートとかクダンちゃんによるとなんか昔の名作漫画とか古いけど超面白いゲームとか、知識として展開とかキャラとか

 攻略情報知ってるのに実際に読んだりやったりした記憶が無いから改めて読んだりやったりすると物凄い既視感だらけで変な感じになるらしいっすね」

「うわあ。なんともそれは……」

「一応、怪人になってから結社のデータベースに記録されてる前世の記録を調べて新しく覚えるのは出来るっすけど、それ普通にバレたら結社への反逆とみなされる危ない橋になるんで、基本誰もやらないっすね」

「……なんで結社ってそこまで徹底的にやってたんですかね?」

「なんかこう、人間は怪人にとっては敵でも家畜でも良いけど違う種族ってことを明確にするためじゃないかって、ニートが言ってたっす。

 大首領的には最終的には人類は滅亡させて人類の進化種である怪人だけの世界作りたかったみたいっすし」

「なるほど……」

「それにまあ、前世のことを覚えてないのは結社の怪人ならみんな同じなわけで、周りも全然気にしねえから自然とどうでもよくなるっすね」

「そんなものですか……」

「そんなもんっす。ただ結社滅んだあと、帰ってきたのに前世のグダグダ持ち出す人間多くて困ってるって話はよくあるらしいっすけど」

「……そうなんですか?」

「なまじ擬態してるときは人間だった頃と外見全く同じっすから、忘れてるだけでそのうち思い出すはず!中身はそのままのはず!とかアホなこと考える人間多いらしいんすよね。

 でも前世で親子だったとか恋人だったとか夫婦だったとか親友だったから思い出して!そしてやり直しましょう!

 とか、んなこと言われてもお互い困るじゃないっすか。覚えてねえのに」

「……それは分かりますけど、ちょっと寂しいですね」

「怪人の自分としてはアンタみたいに怪人になってからちょっとずつ色々知って新しい関係作るのはやぶさかじゃなくても、前世のことグダグダ言われると超萎えるっす。

 樹里さんとかそう言うの面倒だからってさっくり前世の自分が死んだことにして本名も経歴も全部新しく用意したくらいっす。

 顔も知らねえ家族だの友人だのにたかられるの嫌だからって」

「……樹里さんって、砂漠の海月の社長の樹里さんですよね?すごい数の怪人を雇ってて、怪人のドンとか言われてる」

「そうっすよ。樹里さんは怒らせなければ付き合いやすい人ではあったっすね……敵と見なした相手には超えげつないっすけど。

 あの人に敵認定されて生き残ってる怪人って、乙姫様くらいじゃないっすかね?」

「……ああ、乙姫様って本当に樹里さんと仲が悪いんでしたっけ?」

「そうっすね。まあ乙姫様の場合は、実力だけじゃなく、竜造寺家の地位とか名誉とか金も使えるから普通に対抗出来てるみたいっす。

 つっても乙姫様的には今の地位は割と自分の実力で手に入れたもんで実家は名前が利用できる金づるって扱いっすけど」

「え?その割り切り方も怖くないですか?」

「乙姫様、実力もねえくせに舐めたこと抜かす奴と温泉旅館が死ぬほど嫌いっすから」

「温泉旅館は一体どこから……いえ、いいです。でも、乙姫様ってご実家と仲悪いんですか?割と竜造寺家の娘だって公言してますけど」

「使えるもんは使うタイプっすから……っつっても乙姫様ももうちょっと友好的に行くつもりだったけど、やめたらしいっすね」

「一体何が?」

「なんか結社も無くなったからって一応、義理で実家に挨拶行ったら、何を勘違いしたのか当主で祖父だとか言う偉そうな人間のジジイに、


 『竜造寺の当主はお前の姉の婿に継がせる。お前は改めて竜造寺家の娘として嫁に行き竜造寺に尽くせ。相手はワシが選んでおいた』

 

 とか言う寝言言われて困ったとか愚痴られたっす」

「それはなんとも、時代錯誤な……今でも上の方の家ではあるとは聞きますが」

「……まあ、無礼なこと抜かした罰として乙姫様が実家の豪邸を半壊させたらそのジジイ、泡吹いて卒倒して入院して、

 当主が代替わりした後は黙って必要な金を出すようになったからもうどうでもいいらしいっすけど」

「……なんていうか乙姫様、解決手段が力技すぎません?」

「いやだって乙姫様っつったら暴君閣下の弟子で失敗作と戦って殺されかけたこともある、結社で五本の指に入る強さの武闘派っすよ? 

 むしろ自分としては、あの乙姫様にんなこと言うなんて、その人は命いらねえのかな?って思ったくらいっす」

「それが怪人と人間の違いってことですか……」

「そうっすよ?基本原理は弱肉強食、嫌いな奴は後ろから蹴落とせ。奪われたくないならきっちり守るか奪う奴を殺せ。どんな手使ってでも最後まで生き延びた奴が勝ち、と」

「……そう言うのって、大首領の脳改造の影響だったって聞いてるんですが?」

「脳改造の影響は大首領死んで消えたっつっても、それまで怪人業界で殺し合いしてきた経験は消えないっすから」

「……なんかこう、わたし、怪人の方々とうまくやってける自信が無くなってきました」

「いやまあ、大丈夫っす。怪人に改造されるべく攫われて帰ってから、ちゃんと人間社会で前世の家族と上手くやってる人もいるっす」

「あ、そう言う人もいるんですね」

「まあ、攫われた時が8歳だか9歳で、今12歳の子どもなんすけど、ご両親ともお兄さんとも上手くやってるって時々連絡来るっす」

「やっぱり直ぐになじめるのは子供だからなんですかね。それとも、そういうのって秘訣があるんですかね?」

「う~ん。まあ色々あるっすけど、多分前世のかかわり方がよかったんじゃないっすかね?」

「と、言うと?」

「いやあまあ、その子のご両親の話じゃあ、前世ではなんか産まれた時から治らねえ上にどんどん悪化してくだけの病気にかかってて、ずっと病院にいたらしいんすよ。

 攫われた時にはもう残りの寿命が数か月だったとかで、今、元気に生きて帰ってきてくれただけでもうれしいとか言われたらしいっす。そんな感じだと、新しい関係作るのも楽っすよね」

「……ああ。そう言えば怪人化すると病気が治るんでしたっけ。そのせいで病気のお金持ちとかに怪人になりたい人が沢山いて問題になってるらしいです」

「ナノマシンが遺伝子レベルで改造するっすからねえ。んで、今は超元気で普通に中学通ってて、お母さんのごはんが美味しくて、お兄ちゃんが意外とカッコよくて守ってあげたいタイプとか言われたっす」

「……なんかこう、不治の病の病弱さの欠片も無いですね」

「ちなみにそいつ、自分の上司だった例の最弱のA級怪人で怪人時代に殺した人間の数が3万人越えてるとか、今でもその気になったら辺り一面、白骨死体しかねえ墓場に出来るからむっちゃ監視されてるとか、

 なんかやらかした瞬間に失敗作に連絡行って爆発四散させられることになってるとか、ご家族にも秘密にされてるらしいっすけどね!」

「だからそう言う怖いオチ付けるのやめてください! ていうかそれ、普通のおうちに住ませていいものなんですか!?」

「結社時代にやらかしたことは法的に不問らしいっす!脳改造されてたんで!」

「……ああ。そう言えば、そうでした」

「あ、あと、アンタの知ってる人だと、乙姫様も誘拐されて怪人になったって話っすね」

「そうなんですか!?」

「A級怪人適性がある人間見つかったら、誘拐して改造する作戦立てるのが結社っすから」

「ええ、そうですね。そう言うところですよね、結社って」

「まあ、乙姫様の場合、割と雑いというか、ザルな作戦で攫われたらしいっすけどね」

「……どんな感じだったんですか?」

「まあ、自分も作戦の責任者だった樹里さんから聞いただけっすけど。

 乙姫様って当時、マジもんのお嬢様しか入れない全寮制の女子高に通う花の女子高生だったらしいんすよ」

「……まあ、確かに育ちが良さそうな感じではありますが」

「なんか学力が学年一位で、薙刀の腕前が全国大会二位。

 双子の姉が学力が学年二位で薙刀の腕前が全国大会一位とかだったらしいっすね。

 ちなみに双子の姉があれっす。大学通いながら協力者やってるつう、リュウグウゴゼンの弱い方」

「……その呼び方辞めてあげてください。わたしの高校の頃の後輩の話では双子で同じリュウグウゴゼンなのにいくら努力しても乙姫様に全く歯が立たないって、ものすごく気にしてるらしいので」

「そりゃ暴君閣下にボッコボコにされながら竜の剣をマスターしたっつう乙姫様に人間の剣術しか知らねえ人が勝てるはずもないっすよ。

 で、話戻すと、乙姫様ってたまの休日とかに仲のいい友達と街に行って遊んだりすることもあったらしいんす」

「まあ、あるでしょうね」

「で、そう言う時に街のチンピラに囲まれて、薙刀の他に合気道の心得もあって腕に自信があった乙姫様が、

 お友達だけ逃がしてお友達が助けを呼びに行ってる間にボコられて車に乗せられて攫われたらしいっす」

「……乙姫様って、人間で何とか出来るもんなんですか?」

「いや、乙姫様だって人間だった頃はさすがに人間並みの強さっすよ?……多分っすけど」

「あ。それはまあ、確かに」

「ちなみにそんとき乙姫様攫った街のチンピラ、全員擬態したサジェウルっす」

「……うわあ。それ、詐欺じゃないですか」

「いやだって、誘拐作戦立てたの、あの樹里さんらしいっすから。むしろサジェウルだけだっただけマシってくらいっすよ。

 ま、戦闘訓練で脱落して乙姫様攫った後は、さっくり死神案件の被験体になってあっという間に死んだ落ちこぼれどもだったらしいっすけどね」

「それでも、人間にどうこうできる相手じゃないですよね?」

「そりゃまあ。とまあ、そんなわけでお嬢様女子高生は結社で結社最強クラスの怪人になって、竜造寺家のご令嬢としての権力持ってて、お子さんも三人いる、武闘派怪人まとめ上げた最強の戦闘部隊ドラゴンチルドレンの長官って話っす」

「……そう言うのも、ある意味立身出世ってことになるんですかね?」

「じゃねえっすかね」

結社では事実は隠蔽され真実は捻じ曲げられるのは日常茶飯事。

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