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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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砂漠のクラゲ2

B級怪人にとって、有能なサージェントウルフの確保は、死活問題である。

あの日、ジャック・ローズに誓った後、僕は先輩に出会った。


……結社の命令で、死んだジャック・ローズの部屋を片付けていた僕のところに、唐突に現れたのだ。まるで、嵐のように。

「初めまして……ではないわね。何度か情報をやり取りさせてもらってた情報屋の樹里よ。アサシン・ジェリー6号。よろしくね」

ジャック・ローズと生前付き合いがあったという怪人の出迎え(ジャック・ローズと付き合いがあるだけあって、殆どが優しそうだったり、真面目そうな怪人だった)も一段落し、いよいよジャック・ローズの部屋を全部明け渡す準備をしていたそのとき。

もう僕以外は誰も開けることは無いだろうと思っていたドアが音を立てて開かれて先輩が入って来て、名乗ったのだ。

白い綺麗なドレスに、真っ赤なリボンをつけた黒髪の美女……それはまるで、ちょっと歳をくったお姫様みたいだった。

「……あの、なんでここに」

僕はと言えば、その時はTシャツにジャージと言うラフな姿で、ジャック・ローズの遺品を片付けてた最中だったわけで。

部屋を掃除してたらお姫様とか言う突然の事態に固まってしまったのはしょうがないと思う。

「ジャック・ローズとは長い付き合いでね。お悔やみを言いに来たの。それと、あなたをスカウトにね」

「それはご丁寧に……スカウト?」

来訪の理由を告げる先輩にジャック・ローズ仕込みのにわか作法で出迎えようとして、僕は首を傾げた。

スカウト……スカウトってなんだ?

「ええ。スカウト。あなた。私の指揮下に入らないかしら? 副官としてね」

そう思っていたら、先輩の方から説明があった……

僕は直属の上司だったジャック・ローズが死んだ以上、ジャック・ローズの部下としての仕事は終わりで、代わりの怪人への配属があることにようやく気が付いた。

「……結社から命令があったなら、従いますよ。それがサージェントウルフですから」

そう言い返したときの僕は、ありていに言ってふてくされていたと思う。

ジャック・ローズが死んだのは良く分かっていたし、死んだ怪人のことを嘆き悲しむ暇なんて結社がくれないのは知っていたけれど、それでも大事な人の死を土足で踏みにじられたような気がしたのだ。

「ダメよ。あなたが選びなさい」

「……選ぶ?」

そんな僕の心情なんて知ったこっちゃないとでもいうように、先輩は自分の要件を伝えてくる。

「そうよ。単刀直入に言うと、あなたの配属はまだ決まってないわ……ジャック・ローズが育ててた秘蔵っ子ってことで、複数の怪人が欲しがってる」

「なんでですか……?」

複数の怪人?なんでそんなことになっているのかと思いつつ、僕は少しだけ興奮してきていた。

僕の怪人としての人生で何か重大な決定を『選ぶ』のは初めてのことだったから。

「生き残れるサージェントウルフはとても貴重だからよ……失敗作とやりあって五体満足で帰ってきたサージェントウルフとなると、今のところあなたくらいだもの」

「……僕は、逃げただけですよ」

けれど、続けて言われた言葉に、いろんな意味で萎えた。ジャック・ローズと最後に会話したときの情けない記憶は、忘れたいと思っても忘れられない。

あのとき、僕がついて言っていたらジャック・ローズは勝てたかもしれないし、死なずに済んで、二年後にジャック・ローズと二人で『ジャック・ローズ』を一緒に飲むことだって出来たかも知れない。そんな後悔だって未だに感じている。

「それが出来るのが貴重なのよ。むしろ、あそこで戦って死ぬような奴だったら私は欲しがらなかったわ。

 私は、テツジンとジャック・ローズが連続で挑んでも勝てなかった失敗作と戦う気は毛頭ないの。

 それともあなたは、アレと戦って仇を討ちたい、とでもいうつもりかしら」

そんな僕のことなど知ったことか、とでもいうように先輩が堂々と宣言した。

それは質問であり、確認だった。アレと戦うつもりは無いが、それでも良いか、と。

「……いえ、多分行っても無理だと思います。僕じゃどうあがいても勝てない……今は」

……少しだけ考えて、僕は素直な心情を口にした。アレは、選ばれた反則(チート)野郎だ。

ただのサージェントウルフでは、絶対に勝てない。そんなことは、とっくに理解している。

今は、とつけてしまったのが『僕がアレには絶対勝てないこと』を認められない僕の、最後の一線なんだと思う。

「ふふっ。思ったよりも冷静で、結構負けず嫌いなのね。男の子って感じだわ」

そんな僕のことをどう思ったのか、先輩が心からの笑顔を浮かべて言った。

「ジャック・ローズに頼まれてたのよ……『アタシになんかあったら、代わりに面倒見てあげて頂戴』って」

「ジャック・ローズが……分かりました。僕を、部下にしてください。樹里……さん」

そうしてふと、寂しげに言った言葉が僕にとっての殺し文句だった。ジャック・ローズのお友達だったなら、きっと悪い人じゃないと思った。

……それが大間違いだったのを、そのときの僕はまだ知らなかった。

「良いわよ。契約成立ね……それと私のことは『先輩』と呼んで。

 若い男と女の二人で、それとなく上下関係を感じさせて、ついでに匿名性も保てる呼び方だとそれが一番目立たないわ」

「え?ジャック・ローズの話だと樹里さんって結構なベテラ……いってえ!?」

その言葉に違和感を覚えていつものように質問しようとした瞬間、思いっきり激痛が走った。

何事かと思えば、そこには鬼のような笑みを浮かべて、髪の毛を逆立てた先輩がいた。

「女に歳の話すんじゃないわよ?それと、先輩ね?せ・ん・ぱ・い。OK?」

「お、おっけー。じゅ……先輩」

こうして僕の僕の『二人目の上司』が、ジャック・ローズとは色んな意味で違う人だと理解し、僕の新しい怪人生が始まりを告げた。


……後日、先輩が一番欲しがってたのが僕のジャック・ローズ仕込みの家事能力だと知った時と、サージェントウルフの再配置は本人のこれまでの戦績に応じて『本人の希望』が考慮されるのを知ったときは、だいぶ凹んだ。



入院生活から社会へ復帰して二日目。僕はいつものように床の上で目を覚まし、あくびと共に伸びをした。

目覚めは上々、体調も万全。今日は一日この部屋で過ごすとなれば、開放感だってある。

床の上と言っても綺麗に掃除されたラブホテルの一部屋なのだ。あの血とか汗とか垢とかカビとか色んなものが染み込んでたところに男も女も無く三十人詰め込まれて雑魚寝だったサージェントウルフの訓練施設の寝床と比べれば天国である。

そんなことを思いながら、ラブホテルには必須であろう二人が悠々と寝れるくらいでかいベッドの上で大の字になって寝る先輩を見る。着ているのは『諦めたら人生終了』とか書かれた謎のTシャツに、どこで買ったのと聞きたくなるどピンクのジャージ。

……まあ、物理的に外に出る服が無い、もんなあ。

先輩は綺麗なドレスを着てないときは絶対に外に出ない。油断した姿を見せたら負け、らしい。僕は、部下と言うか下僕だから良いけど。

なんかこう、変なところ拘る辺りは、バラ色のスーツ何着も同じの持ってたジャック・ローズの『お友達』だったんだなと思わなくもない。


僕が部下になったあの日、先輩は情報収集と逃亡を兼ねて(先輩はあちこちで恨みも買ってて、殺したがってる怪人が沢山いるらしい)僕を連れてジャック・ローズの居た基地を離れて旅に出た。

行先は、日本の地方から、どっかの外国まで様々だ……パスポート偽造とか、伝手をたどれば普通にできてしまう辺りがこの人の怖いところだ。

IT技術が発達した現代、ネットワークがあるのなら、情報屋と言う仕事は割とどこにいても出来るものらしい。

色んな怪人から情報を買い取って、必要な怪人に金で売るなり情報で交換するなりするだけのお仕事だという。

それだけでも並のA級怪人より遥かに稼げるし、それに加えて先輩は無茶苦茶金を持ってる。なんか株とかFXとかそう言うので増やしたらしい。

……先輩ほど頭良くないし、人間の社会でうまく立ち回る、なんてできるわけがない僕にはとても無理な生き方だけれど。


そんなわけで僕は先輩の思い付きに全力で振り回される旅をしながら暮らしている。もちろん家事全般は全部僕が担当だ。

先輩は家事力が全くないし、配下のサージェントウルフが全部やるのはまあ分かる。分かるけど手洗いじゃないとダメな服と下着はそろそろ控えて欲しい。あれ、洗濯するのもクリーニング出すのも面倒なのだ。

あと、風呂に入るとき身体洗わせるのも、髪とか大変なので辞めて欲しい。

お陰で前はちょっとはドキドキした先輩の履いてた綺麗なシルクでレースの下着とか先輩の全裸とか見ても、洗うの面倒だよなとしか思わなくなった。

そして今もまた、僕はラブホの風呂場(湯舟付き)で先輩の服を洗っていた。

一週間の間に、持っていた服は全部着尽くしたらしく、全部要洗濯の汚れ方をしている。ご丁寧に全部要ぬるま湯で手洗いの上で陰干し必須とか言う面倒な服ばっかりだ。

(まさか、ジャック・ローズに仕込まれた家事の技術が一番役に立つことになるとはなあ……)

そんなことを思いながら、僕は先輩の服を洗う。最近は流石に手洗い不可の服は控えてくれるようになってきた。

まあ、先輩と僕の服はしょっちゅう『お仕事』で色々あってボロボロになる。そのたびに先輩は大きな都市に出て専門店でたっかいドレスを普通に買う。

……つくづく金ってあるところにはあるんだなと思う。

そんなことを思いながら僕は一通り洗い終えて、皺や型崩れに注意しながら乾かしていく。


こうして一仕事終えた僕は、ナノマシン認証のついたスマホを起動し、怪人専用のサイト『砂漠のクラゲ』につないだ。

サイト名の意味は、優れた怪人は砂漠にクラゲがいるはずがない、と言う人間の常識の裏をかくように人間の社会に紛れ込むとかどうとか。


ちなみにこのサイトの管理人はすぐそこでダサいTシャツとどピンクのジャージ着て寝てる。

僕もジャック・ローズもその手の技術は無かったから理解はできない。


まあ実際、あちこちを放浪していると、結構な数の怪人と出くわす。それだけ社会に潜んでいる怪人は多い。

「あ、更新されてる」

めぼしい情報が無いか確認し、僕は楽しみにしていた動画配信が更新されているのに気づいていそいそと見に行く。


『マスターウルフの犬でも分かる大神(おおかみ)流講座 第2回』


一回ぽっきりで終わりの一発ネタじゃなかったらしい動画の新しい方を再生する。

殺風景などっかの道場に、あの、学ランみたいな襟の、中国人っぽい恰好した初老の男であるサージェントウルフと、道着を着て黒帯を巻いた大柄な男のサージェントウルフ。

大神流の師匠マスターウルフとその弟子と言う設定と言うか、実際に師弟なんだろう二人がサージェントウルフ専用の武術である大神流を簡単にマスターできるように色々と解説してくれる動画だ。

つまりはただの通信教育だけど、サージェントウルフの世界では技術と知識が習得できるかどうかには文字通り命が掛かってるので、僕は真剣に見ている。


マスターウルフがどう見ても怪人酒場のマスターって言うかサージェントウルフ88号ことラスト・ポチなのも、動画の配信が始まった1週間前に、マスター直々に諸君らのような優秀なサージェントウルフが増えて欲しいと思い、動画配信を始めることにしました、拡散希望します。と言うメールを貰ったのも見てる理由だ。

出元が信頼できるところだったので、僕は、健太郎にも見ることを勧めておいた……

一緒に連絡しようとした1年前の同期は、半分くらい死んでて更に残り半分は音信不通だったのは残念だったけど。

『前回は、怪人と人間の違いという心構えと掌底についてお教えしました。今日は、手刀について講義をします』

朗々とポチ……もといマスターウルフが喋りながら、指をピン、と伸ばした手の形を見せる。

拳を固めてパンチではなく、手刀。それが怪人の技術だという。

『いいですか? サージェントウルフには再生能力と言うものがあります』

マスターの教えは、基本もったいぶらない。分かりやすいので大好きだ。

『つまり、突き指、脱臼、骨折など数秒で治るものですので、気にせずガンガン使ってください。練習すれば、これくらいは出来るようになります』

そう言いながら、弟子って設定らしい大柄なサージェントウルフが鉄筋コンクリートの壁を思いっきり手刀でぶち抜いて穴を開ける。

……普通のサージェントウルフである僕だと無理な厚さを、普通にぶち抜いたぞ。

多分、B級怪人でもパワーがある方じゃないと出来ないだろう。

『怪人にとって腕は、剣であり、盾です。折れても治りますし、千切れてもくっつきます。暫く待てばまた生えても来ます。痛みだって大したものじゃない。人間と怪人の違いはそこなのです』

その代償として、弟子の人の拳は酷いことになっていた。皮は破れて血が出まくってるし、骨も多分、折れてる。

人間だったら大惨事と言ってもいい怪我。だが、その傷は目に見えて治り消えていく……怪人の再生能力による再生だ。

『また、手のひらに何かを乗せたまま相手の肉を穿つことで相手の体内に物を『仕込む』ことも可能です。体内に残った異物。それは人間にとっても怪人にとっても恐ろしいものです』

なるほど。参考になる。確かに銃弾が身体に残ると取り出さないと治らないのは、何回か経験している。

それを人為的に狙っていくのは、良い手だと思う。

『では、基本の構えから詳しく見て行きましょう……』

そうして後は動画で詳しく解説されていく構えを真似て、実践していく。


……先輩を起こさないように静かにやるのは、意外と神経を使うのだ。下手に起こすとめっちゃ怒るし。


動画を最初から三回繰り返して見て、手刀の練習をしていたら、むっくりと先輩が起き上がった。

「……おはようございます」

「おはようございます。先輩」

よし、起きて最初に朝の挨拶から入る時は、機嫌がそこそこ良い時だ。少なくとも寝起きで触手さしてくることは無い。

「ふぁ……パソコン。スマホ」

「はい。どうぞ」

いつものように先輩にパソコンとスマホを3台渡す。

先輩はそれを受け取ると、両方の手と髪の毛に擬態させた触手を使い、すごい勢いで操作して、情報を確認していく。

……やっぱり情報屋って大変なんだな。

どこか他人事のように思いながら、僕はその光景を見つつ、冷蔵庫で冷やしておいた缶コーヒーを取り出して渡す。

それを一気に煽りながら、先輩はぷはぁ、と一つため息をついていった。

「今日の全自動処刑装置はここから140km離れた森の中にいるらしいわ。東に移動しているみたいだから、あたしたちは明日から南に下るわよ」

「了解」

まずチェックする情報は勿論、アレの動向だ。僕らが遭遇してしまったら、生き残れる確率は絶望的に低いのだ。

だからこそ先輩は張り巡らせた情報を使い、アレの動向を探る。

結社の手にかかれば、どこで何をしているのかがあっという間に分かるのがアレが抱えた『弱点』の一つだ。


そう、怪人にとっては恐怖以外の何物でもないアレの『人間だった頃』の情報は既に調べ尽くされている。

人間社会の裏までしっかりと潜り込んだ結社の手にかかれば、それくらいわけもない。


アレは、結社に触られて一時失踪した後、普通に帰ってきた家出少年の扱いだった。つまり、人間だった頃の記憶も、戸籍もしっかりと残っていた。

だからアレは5127号を殺した後、何気ない顔をして家出していたと家族に告げて自分の家に帰った、らしい。その頃はまだ、近くの高校に通う高校生だったと言う。


それから1年近くが過ぎた今、全自動処刑装置ことアレは、薄汚れた服とぼさぼさの髪で怪人を探し、怪人だからこその頑丈さを武器にサバイバル紛いの生活しながら日本中をさ迷い歩く天涯孤独の身だ……正確に言えば、天涯孤独に『なった』


何しろ既に殺害した怪人の数は三桁にとっくに届いていて、ジャック・ローズと言うベテランのA級怪人すら殺したのが、アレと言う存在だ。

その家族、親戚、友人、知人……アレにとって大事な人を見逃すほど、結社は甘くないし、怪人は親切じゃない。

アイツの知り合いと言う知り合いはすべて結社の怪人たちの手で『狩り』つくされた。

アレの妹に至っては、結社で怪人に改造されてすぐにアレと戦って、他ならぬアレの手で爆発四散したらしい。


それから、アレは人間そのものを避けるようになった。まあ少しかかわっただけの人間が片っ端から『狩られる』となれば、そうもなるだろう。

アレは人間には絶対に手を出さないし、目の前で人間が怪人に殺されそうになっていたら必ず助ける。


……人間としては立派だと思うが結社の怪人にとっては『弱点』でしかない。


(アレは早く殺さないとダメ。きっと不幸になるわ。結社も……あの子自身も、だったか)

そんな風にアレのことを考えるとき、僕はいつもジャック・ローズの最後の言葉を思い出す。

ジャック・ローズの後にも殺される怪人は後を絶たずに不幸になったし、周りの人間を巻き込んだアレも不幸になった。

誰も幸せになれなかったのだ。僕自身も含めて。

「……あ。ちょっと面倒な情報が入ってきたわ」

そんな僕をよそに情報を調べていた先輩が顔をしかめた。

「一体どんな情報ですか?」

「なんか、本庁の刑事が全自動処刑装置と接触しようとして情報を集めてるみたい」

僕の質問に先輩はパソコンのモニターからひと時も目をそらさずに答える。

……本庁の刑事? つまり、警察か。

「警官がアレと接触するのは珍しくないんじゃ? ほら、アレって擬態してる時はただの家出少年に見えますし」

そう、アレは良く職務質問って奴を受ける。まあ見た目がまんま行くところなくてさ迷ってる家出少年だから仕方がない。

と言っても擬態状態で普通に走るだけでパトカーを余裕で振り切るアレが逃げきれなかったことは無い、らしいが。

「そう言うんじゃないわ。怪人のことを、結社のことを知ってて、全自動処刑装置が何をしてきたかも知ってる。そう言う刑事が接触しようとしてるのよ。大問題」

だが、それから続けられた先輩の言葉で、僕もどこが大問題なのかは理解した。

ほぼ単独で動いてたアレが日本の警察と言う『組織』の力を借りられるようになったら、大問題だ。

先輩に従うようになった今なら、それは分かる。

「……あ。そう来るのね」

「何か新しい情報が入ったんですか?」

そうなった未来をちょっとだけ想像してしまった僕は、恐怖しながら続く先輩の言葉を待つ。

「ええ、結社の結論としては、刑事を消すことに決定したみたい。暗黒蟻帝の部隊が、刑事の追跡に入ったわ」

「ああ。そう言えば今週の生贄に選ばれたんでしたっけ?」

……そうだ。アレに関して今、動いているのは、S級怪人である暗黒蟻帝の部隊だった。

つまり、その刑事もあっという間に消されて終わりだろう。

「そうね。ちょうどいい餌も結社にいたらしいからそれを使うらしいわ。例の刑事の元同僚で結社に攫われて改造済。サージェントウルフ893号、コードネームは……『ヤクザ』!?」

「それは酷いっすね。ああああとか銀河大爆発(ギャラクシー)よりはましだと思いますが」

そのコードネームを言った瞬間、先輩が思わず笑い出し、僕も吹き出した。

多分名付けた奴は何も考えてなかったんだろう。安直すぎる。言っちゃ悪いが光一郎とは大違いだ。

「893号だからヤクザって、小学生並のセンスね。やっば、お腹いたぁい……しかもこれ、擬態状態の顔が本当にヤクザだわ。ほら、見なさい」

そう言いながら先輩がスマホの一つを僕に見せてくる。

そこには例の『ヤクザ』さんの擬態時の姿と怪人状態の姿が写っていた。

「ほんとだ、言っちゃ悪いけど本当にヤクザ……あ」

その擬態状態の顔の超強面っぷりに僕も笑いながら、その隣に映った怪人時の姿を見て、驚いた。

「……大神流講座の弟子の人……」

怪人の方の姿に思いっきり見覚えがあった。


世間は、意外と狭いし、人間と怪人の世界は隣り合ってるんだなと思った。

……次回から講座見たら絶対ヤクザさんの顔を思い出して笑ってしまうんだろうなとも。

この後、暗黒蟻帝爆発四散したんだよね……

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