おしえて!ナナコさん!6
乙姫様、悪気はないんだ。ただ心の底から怪人なだけなんだ。
「いやあ、乙姫様、全然変わらなかったっすねえ」
「……」
「まあ、滅茶苦茶忙しそうだったっすけど」
「………」
「あれで自分と3歳しか違わないっつうんすからやっぱパネェっすわ」
「…………」
「いやほんと、アンタがこどもドラゴンとか言い間違えた時はどうなるかと思ったっすわ」
「……………」
「あの言い間違いで死んだサジェウルは3人いるとか言うっすから、本当に死ぬかと思ったっす。やっぱ年取ると丸くなるもんなんすね」
「………………」
「……あの、そろそろなんか喋って欲しいっす。流石に延々一人で喋るの辛くなってきたっす」
「……うそつき」
「い、いや、アンタが怖いのダメって話は知ってたっすけど、まさか赤ん坊見てビビりすぎて腰抜かして失神まで行くとか思わないじゃないっすか」
「うそつきぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
「だから怪人業界で『赤ん坊』っつったらアレが普通っす。まあ確かにクッソ高い培養器3つも用意してたのは、竜造寺家の資産パネェってビビったっすけど」
「ふざけんな!」
「え!?キャラ違くないっすか!?」
「乙姫様から、特別にわたくしの子を見せて差し上げますとか言われて!
ドヤ顔で変な液に満たされた謎の試験管に浮いてる人間未満の胎児見せられたら驚くに決まってるでしょ!?
バカなの!? しかも3つもあって、全部ぴくぴく動いてるとか! ただのホラーじゃないですか!?」
「え? いやだって受精から三か月の赤ん坊って大体あんなんっすよ? 促成栽培すると超寿命縮むらしいっすし。
むしろロールアウトした後はモニター越し以外ではしばらく会うの禁止っすよ?
ロールアウト直後の人間の赤ん坊は脆いなんてもんじゃないらしいっすから」
「分かるかボケ!このボケ!そもそも赤ちゃん相手にロールアウトとかそう言う言葉使うなボケ!」
「……やべえ。人間のキレるポイントマジ分かんねえ……」
「……はぁ。ちょっと落ち着きました。とりあえず、わたしもちょっと悪いので許してあげます」
「はあ。それはどうもっす」
「で、なんであんな気色悪……もとい不自然な形で赤ちゃん育んでるんですか?」
「そりゃ怪人女って妊娠できないっすから。ガキ欲しかったら培養器で受精卵育てるに決まってるじゃないっすか」
「……それ、滅茶苦茶重大な問題では?」
「え? いやだってむしろ、妊娠なんてしたら戦闘すんのに困るじゃないっすか。でけえ腹抱えて戦えとか普通に死ぬっすよ。
だから妊娠しねえ仕様になってるらしいっす。それに人間って確か月一で(ピーッ)から血が出るんすよね?
それもなくなるし、便利っすよ?」
「だからそう言う変なところ結社クオリティはやめてください!」
「んなこと自分に言われてもどうしろと。文句は大首領に言えっす」
「死んでるじゃないですか……」
「つうわけで諦めろっす。でも実際、その手の子作りとかどうとかは怪人と人間でだいぶギャップ感じるっすね。ヤったら出来るとか、超不便」
「生命の神秘を便利とか不便で片づけないで!」
「つってもいつ死ぬかもわからねえし金もねえ。男女比は大体半々で被験体とか労働用じゃない戦闘用になると待機中は割と暇なサジェウルにとっての娯楽っつったらやっぱヤることだったわけで」
「なんでそんなにあけすけなんですか!?」
「う~ん。多分っすけど、人間と違って怪人女にとっては妊娠も性病も何も無いし、何なら痛覚遮断のお陰で初めてでも痛みも無いっすからね。
そりゃ軽くなるっすわ。娯楽として」
「娯楽て……」
「サジェウル以外の大体の怪人にとっても大事な娯楽だったっすね。割とあいさつ代わりにこなしてる人大半だったっす。
なんかこう、妙に童貞とか処女とか大事にしたり、強くなることに忙しくて色事どうでもいいとか変な怪人もいるにはいたっすけど」
「怪人の価値観、全然分からない」
「自分も人間の価値観、時々分からないんでおあいこっすね。ま、男の怪人にとっては割とキツいらしいっすけどね」
「普通逆じゃないんですか……」
「人間と怪人との違いっすね。『据え膳食わぬと死ぬ』っていう格言もあるくらいっすし」
「何その格言!?」
「ほら、前に言ったじゃないっすか。男の怪人が自分より強い怪人女から告られたら『はい』か『イエス』か『死』だって」
「はぁ……そもそもそれがどうなんですか?」
「そこはまあ強い奴がえらい結社っすから。で、怪人女の場合、直接言わないでこう雰囲気とかムードでそれとなく誘ってくる人がいるんすよ。告白とか、セッ〇スとか」
「……そこはまあ、分かります。そういうのって女の人からは言いにくいですよね? 男の人から来て欲しいというか」
「そこが怖いところで、暴君閣下が『女の方から勇気を出して誘っているのに応えぬのは男の恥!据え膳出されたら黙って喰え!』
って言い切る御方だったのもあって、女がそれとなく誘ってきたらそれを察して男の方から誘わないといけないってか、
誘わないと機嫌損ねて殺されかねないんすよ。」
「や、ヤンデレ?」
「ああ多分それっす。で、乙姫様とか典型的なそのタイプなんすよ。センパイそれでしくじったってもっぱらの噂だったっす」
「……センパイさん、一体何やったんですか……何やったらあの人にそこまで好かれるんですか……」
「自分も噂に聞いただけっすけど」
「はあ」
「なんか赤と青の《第二形態》まではばっちり対策した上で挑んだのに、
いつの間にか新しく黄色の《第二形態》を獲得してた失敗作に負けてぶち殺されそうになってた乙姫様を颯爽と助け出してそのままラブホに直行したらしいっす。
ちなみに乙姫様は当時17歳で、前世がどうだったかは分からないっすけど、怪人になってからは処女だったって」
「それ完全にアウトじゃないですか……二重の意味で」
「いやまあ自分噂で聞いただけっすから。自分がサジェウルになる前の出来事なんで詳しい事情も良く分からないっす。
サジェウルに伝わるセンパイ伝説の一つではあるんすけど」
「……じゃあウソなんじゃ?」
「出所が乙姫様ご本人の口からっすけど? 丸くなった今でも真面目に聞かねえと腕や脚の一本くらいは普通に飛ぶって」
「だからなんでそうちょくちょく物騒なんですか!?」
「結社っすから」
「……もういいです」
「まあ、そんな乙姫様もついにガキ持つ決心したと思うと感慨深いっすけどね」
「あ、子供作るのは流石に怪人にとっても重いんですね」
「怪人の場合、明日には死んでるかもしんねえっすからね。残されるガキのこと考えるとどうしても躊躇するっつうか」
「……そっか。そう言えば、そうですね」
「それに結社だと子供作成の申請するときは必ず男女両方の許可がいるっすからね。どんだけ強くても、そこだけは一緒っす」
「なんか珍しいですね。結社って、そう言うの強い方が勝手に出来るイメージでしたけど」
「ちなみにそうしないと少しでも強い子供欲しいって、暴君閣下とか大首領の子供がグロス単位で勝手に作られちまうからって言う理由っす!
大首領も暴君閣下もいくら強くてもいちいちそんなとこまで見てらんねえっすからね!」
「……やっぱり結社じゃないですかやだー!」
「で、まあ話戻すと。そんな事情にも拘わらず子供残す怪人って、やっぱ覚悟決めてる人多いんすよね。
育児にかかる費用は各自の活動費から出すルールだったっすし」
「なるほど……教育とかどうなってるんですか?」
「結社内部で専用の育児施設があってそこで育てられるっすね。なんで脳改造なしでもかねがね結社の価値観持ってる子供に育つっす。
ちなみに進路は怪人固定っすけど、怪人にならずに子供時代過ごすのは認められてるのと、脳改造されても過去の記憶消されないのと、
どの怪人になるかは適性によって選択肢示された上で親と子の意見で決まるっすからちょっと恵まれてるっすね」
「ちゃんと聞くんですね、その辺」
「まあ、その方が揉めないっすからね。んなわけで本部じゃない基地には少し人間もいたっすよ。価値観結社っすけど」
「なるほど……どんな子がいたんですか?」
「まあ自分ほどになると知り合いも多いっすけど、例えば京子ちゃんっすね」
「京子ちゃん?」
「ヤクザさんと魔理愛霊是さんの娘さんで、アサシン・ジェリーの適正もあるのに、将来はナナコさんみたいな立派なサジェウルになる!
とか言ってくれる健気な良い娘っすよ? まあバクダンの適正もあるけど絶対選ばないってのは残当っすけど」
「……どうしよう。ツッコミどころしかない」
「どこが!?」
「どこも、です! ……あれ?そう言えば乙姫様のお子さんって、相手の方はどなたなんでしょう?」
「そりゃセンパイに決まってるじゃないっすか」
「え?でもどうやって許可を得たんですか? 確かなんかこう樹里さんと取り合ってて恋人ですらないって」
「あ、さっきの許可の件、例外あるんすよね」
「れ、例外?」
「どっちかが死んだ場合とMIAになった場合は、片方の許可だけで子供作れるんすよ。元々死んだ後にせめて子供だけでも!って感じで」
「……まさか乙姫様、それで3人も……?」
「ウルフパックの精子と卵子はサジェウルの中での突然変異扱いで全員分サンプルどっかに保管されてるって聞いたことがあるっす。
執念でそれ、探し出したんじゃないっすかね……そらどや顔にもなるわけっすわ」
「……あの人、乙姫と言うより清姫なんじゃ?」
純真無垢な女の子(戦闘力がサ〇ヤ人)とか言うやっべえの引っ掛けちゃったからね。しょうがないね。




