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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season2 Double Justice 21

社会的地位:ギルド職員と言う情報収集の暴力

死の教団との戦いの決着がついた日は、妙に張り切ってたアリシア以外は全員が休んだ。

その間にミフネ……コジロー・ツカハラについては、冒険者ギルドの職員でもあるというアリシアが自らの(コネ)と幾ばくかの金銭(カネ)でもって半日もかからずにギルドの記録確認と冒険者への聞き込みで調べてきた。その詳細さは、流石のギルド職員だ。


ミフネと言うのは東方にある戦士の一族が良く名乗る偽名で、コジローもそれに従いそう名乗っていたらしい。

どこからか……多分東方の国から交易都市までふらりとやってきて、冒険者として登録したのが二十年前。

それから冒険者の戦士として様々な冒険の果てに……槍鬼の魔人を単独で撃破して聖騎士になったという。

そのせいか信仰心と言うものがあまりなく、使える奇跡が戦神の信徒のみが使える《決闘(デュエル)》だけだと言うのが不幸中の幸いだろうか?

……特定の敵を倒すと神に誓い、正々堂々と戦う時だけ戦神から強烈な加護を得られるという《決闘》が使えるとかコジローの剣の腕を考えると恐怖以外の何物でも無いのはこの際置いておこう。

それに、冒険者時代に手にいれたり、金を出して買った様々な魔法道具(マジックアイテム)を持ってる。

単独で上級魔人を倒すような戦士ならば、多分、基本的なものは大体おさえているはずだ。

ちなみにコジローの側にいたエリザベス・アンダーソンとか言う聖騎士の少女は正義の神の聖騎士で、見習いを終えたばかりの新米らしい。

剣も奇跡も使えるからあの年齢の冒険者としてはすごく強いけど、聖騎士としては経験も浅いし普通の強さらしい。

そんな情報を手に入れ、明日はミフネ……コジローとコウイチローが決闘をするという大事な日。


アタシは、コウイチローと共に逢引きすることになった。


最強の聖騎士との戦いを前に、魔法に関する知識が無いコウイチローの装備を魔法に詳しくて冒険者生活も長いアタシが見立てて買うことになっただけだけど、そう言う恋愛沙汰に全くと言っていいほど縁が無かったアタシにとっては立派な逢引きである。

アリシアがちょっと怖い顔してたけど、アリシアでは魔法道具の目利きや交渉は出来ないし、アタシではギルドのコネを使った情報収集は出来ない。プロフェッサーの原理すら謎の物体を使って教会の動向を探るのは、プロフェッサーにしか出来ない。適材適所と言う奴だ。

(へ、変じゃないかしら……)

アタシはアリシアから借りた街歩き用の服を着て、コウイチローと共に歩いている。

護身用に短剣だけは持ってきたけど、他は冒険者らしくない平服だ。

アリシアはあれで貴族の血を引いてるらしく、服には割とこだわるところがあるらしい。

ほつれや繕った後が無い綺麗なワンピースだし、割と仕立ても良い……胸元がちょっとキツいとは流石に本人の前では言えなかった。

「えっと、こっちでいいんだよな?」

「……ええ。こっちよ」


今日は馬車ではなく、二人とも徒歩で、交易都市でも最も賑やかな市場へと向かう。


「さあさあ見てくれ! 冒険者から買い取った本物だよ!」

「……それか。それならば銀貨で30枚だ。買うか?」

「ほほう!鋭い魔剣が欲しいと?それでしたらちょうど良い品が」

「おやおや、酷いことをおっしゃいますな。我らが交易神はおっしゃいました。

 『商いとは、金と頭と舌を使った戦いである』と。本気の戦いであるならば、負ける方が悪いのです」

「テメエ、店の前で剣抜きやがったな……死ぬ覚悟は、出来てんだろうなあ?」

「ひっひっひっ……魔法道具のお見立てを依頼なさるか。よろしい。ではこの婆についてきなされ。お代は金貨1枚いただくよ」


交易都市で毎日開かれる市場……その中でも魔法道具を扱う一角は相変わらずだった。

まあ仕方がない。この市場を利用するのは主に冒険者……怪物だの邪悪の輩だのを殺してお金を稼ぐ荒くれ者たちだ。

お金はあるし魔法道具を買おうと思うくらいの実力はある。だが目利きの技術はある奴の方が少ない。

そして、魔法道具と言うのは専門知識と経験が無いと善し悪しが全く分からない……

文字通りの意味でのお宝もあるが、詐欺や偽物が当然のようにある。ご禁制の品だって、探せば見つかることも珍しくない。

当然のように商人は目利きの出来ないカモに対しては容赦なくぼったくるし、目利きの甘い商人と見ればプロの仲買人(ディーラー)が容赦なく買いたたく。

本職の悪党がゴロゴロ転がってるし、冒険者だって騙されたと知れば剣や魔法の一つは使ってくる。


知恵と舌と目と度胸とお金がモノを言う、商売人の戦場。


魔法道具を扱う市場は、衛視でもうかつに手を出せない無法地帯。貧民街(スラム)より危険な場所と言われて久しい。

「……なんかこう、オレが入っていい場所じゃない気がしてきたんだが」

その雰囲気に己が場違いなのを感じ取ったコウイチローが、さりげなく近寄ってきたスリを交わして軽く頭を殴って追い払いながら、困ったように言う。

盗賊の勘や技術には優れているが、こういう場所での交渉にはあまり慣れていないようだ。

「それがいいのよ。素人のフリすると商人だって少しは油断するわ……任せときなさい。何のために町娘に化けたと思ってるの?」

だが、それをサポートするためにアタシがついてきたのだ。アタシなら、きっちりやり遂げられるはずだ。


……アタシだってここで何回も騙され、ぼったくられながら学んできたのだ。色々と。


無事に『買い物』を終え、アタシたちは交易都市にはたくさんある、外に会話が漏れないのが売りの喫茶店の密会用の一室で祝杯を挙げた。

「上手く行ったわ! あれだけの品、こんなに安く手に入れられるなんて初めて!」

自力で品の善し悪しを見分けて、交渉してお互いが納得できる値段で買い取る。やはり買い物はこうでなくちゃいけない。

目利きなんてする必要すらない完全に信頼できる品を高額で買うのもありと言えばありだったけど、買い物をしている実感が足りなかった。

……今回はお金に余裕があったので妥協や無理な値切りをしなくてよかったし。

「まあオレは突っ立ってただけで何の役にも立たなかったけどな」

コウイチローは謙遜して言っているがそんなことは無い。

隣でにらみを利かす、明らかに『熟練した腕の立つ男』がいるのは、交渉の場ではとても役に立った。

相手から最悪暴力に訴えればいい、そんな気持ちを抑え込める……見た目が成人したての小娘であるアタシは、毎回そこで侮られるのだ。

「しかしまあ、本当に色々あるもんなんだな」

コーイチローの腰には、新しい鞄がつけられている。無論、ただの鞄ではなく《大喰らいの鞄》だ。

取りあえず、《矢避けの護符》を始めとした様々なものから己の身を守る護符や装飾品、いざって時に身体を癒す治療薬、投げつけると様々な魔法が発動する使い捨ての魔法道具、魔法の楔や縄と言った必需品……必要なものは買い終えて、全部コウイチローの新しい《大喰らいの鞄》に放り込んだ。

「そうよ。魔法道具は本当に色々あって、使い方次第で色々な効果を発揮するわ」

「ああ、オレじゃあ使い方は聞けば分かっても、その品が良品か粗悪品かどうかは見分けられん……

 結社の新装備で危険な奴はなんとなく直感で分かったもんだが」

アタシの説明に、コウイチローが少しだけ昔を思い出したのか苦笑いをしながら、お茶を飲んだ。

それにつられて、アタシも砂糖をたっぷり入れた甘いお茶を飲み……ふと、気づく。

(あ、そう言えばこれ、逢瀬の定番よね……)

貴族用に整えられた調度品に、綺麗な絹のカーテンが下がったガラス窓がある、外に声が漏れない密室。

お茶とお菓子が並ぶテーブルを囲んでいるのは若い男女が二人だけ……

完全に恋愛小説や他の若い女の子の冒険者が話す『素敵な一日』のお話そのままだ。

(あ、やだ……緊張、してきちゃった……)

意識してしまうと途端に顔が赤くなり、どうしていいかが分からなくなる。

魔人になり、家を出て冒険者になった時から、こういうのは諦めていた。

顔は良かったから言い寄ってきた男がいなかったわけじゃないけど、人ならざるものだとバレると困るのが目に見えていたので、

深いお付き合いは避けてたし、なんの冗談か襲われた時も全部返り討ちにしていた。

そんなわけで28歳になるまで、こんなことは一度も無かった。

「……ん?顔赤いけど、大丈夫か?」

「だ、だいじょぶよ!なんともないよ!へいき!」

コウイチローの言葉に普通に答えながら、ちらりとコウイチローを見る。

ちょっと幼い顔つきの、でもすごく強い怪人。魔人であることを気にしない人。

初めて出来た、気になる異性だ。

(……出会ったのが、アリシアより早ければ良かったのに)

そんなことを思ってしまうくらいには。

「……そう言えばさ……コウイチローはなんでコジローから、アタシを守ってくれたの?」

そんなことを考えてしまったせいか、アタシは聞かないでおこうと思っていた言葉がポロリとはみ出てしまう。

あ、と思ったが、一度口に出してしまえば、もう取り消せない。

どうしようもない沈黙が辺りを包み、アタシはお茶を飲みながらコウイチローの方を見る。

「なんでって……そりゃあ、目の前で殺されそうになってる女の子見たら、助けるさ。事情は後から聞けばいい」

暫く考えた後、コウイチローの口から出てきたのは、まるで経験が足りない冒険者のような言葉だった。

「……そのせいで教会を敵に回しかけてるのよ?」

その答えにちょっと納得できず、アタシは口を尖らせて尋ねる。

「……まあ、ミフネの方は信用して良いと思ってる。そういう奴だ……エリーはちょっと危ういけど、ミフネが何とかするだろ」

「楽観的ね。世の中、そう上手く行くことばかりじゃないのよ?」

悪漢に襲われてる美少女を助けたら美少女の方が怪物や邪悪の輩だった、なんて話は冒険者の間では珍しくない。

良くそれで生きてこれたものだと、ちょっと思う。

そんな、アタシの素直な感想に対して、コウイチローは肩を竦めて、言った。

「……世の中、オレじゃどうしようもないことのが多いのは分かってるさ。

 オレは、サージェントウルフ……ちょっと人間より強い力がある程度の、ただの怪人だからな。

 だから、出来そうなことはとりあえずやっておくことにしてる……

 ジャック・ローズが囮になっている間に、化け物から逃げた時みたいなことになるのは、二度とごめんでな」

「……そう、良い人だったのね。その、ジャック・ローズって人」

その言葉で、アタシは何となく察する。きっと、大切な人だったんだろう。

そう言う人を置いて逃げる羽目になるのは、辛い。アタシにだってそんな覚えは、ある。

「まあな。オレにとっては母親みたいな人で……今でも忘れられない、尊敬する上司さ」

……その言葉と表情に、ちくりと心が痛む。

アタシは早くに母親を亡くしたのもあるし、生きてる女は死んだ女には勝てないって言葉もあるから。

「……そう」

傷ついた心を隠し、アタシは流すことにした。

「……ベリルはなんで魔人になったんだ?」

それを察したのだろう。コウイチローは話題を変えてきた……ちょっとアタシの重い過去の話に。

「え?それ聴くの?」

「……言いたくなかったら、言わなくてもいいさ。オレは気にしない」

言ってから、あまり踏み込むものじゃないと気づいたのだろう……変なところ、若いのよね。コウイチローって。

「別に、隠すことでも無いわよ。パパ……お父様が魔神を召喚して、願っただけ。

 『自分の命をくれてやる代わりに、娘を魔人にしてくれ。娘が健康な身体を取り戻すために』ってね」

そんな、若い男の子に免じて、アタシは誰にも話したことが無い過去を話した。

……コウイチローなら、普通に受け入れてくれるって、信じられたから。



正義の神の信徒であり、神官でもあり、優れた魔法使いだったパパは掛け値なしに天才だった。


処女の生き血を金銭を対価にやりとりしてはならない……ので、掛け値なしの処女である自分の娘から慎重に量を決めて生き血を取った。

魔神召喚に必要な素材を、売買してはならない……だから自力で討伐し、採取するために取りに行った。

魔神召喚に関する書物を読み、知識を得てはならない……なので自力で勝手に『答え』にたどり着いた。

……やり遂げるのに何年もかかったが、それでもやり遂げた。


『処女の生き血を始めとしたご禁制の品を全て合法的に集め、儀式を行い、魔神と契約するその瞬間まで一切法律を犯さない』


そんな『狂った実験』をアタシの脚を治すという『目的』のためにやらかしたのだ。

アタシとて娘として止めてはみたが、一切止まらなかった。死ぬその瞬間まで。


……最後は『やっぱり僕の仮説は正しかった!正義の神は、正義を司らない!法と秩序を司る神だった!』

とか叫びながら魔神との契約に基づいた蒼い炎で焼き殺されたのは、パパとしては本望だったんだろう。

そして、パパが全部燃えて灰になった後、まだ人間で、逃げようにもそもそも歩けなかったアタシは、

魔神による契約に基づいて無理やりに魂を弄られて、魔人になった。

……まともに歩ける脚と引き換えに、他のあらゆるものを失った瞬間だ。


バークスタインの当主は思い付きで始まり、死んで終わる。パパは、どうしようも無いほどに、バークスタインだった。


父親としては良い人だったと思うけど、普通に頭がおかしい人だったとも思う。アタシとは大違いだ。

「……そうか、良い親父さんだったんだな」

「…………そうね」

そう言うことにしておこう。そのせいで今もアタシは元気に生きている。

ちょっと魔人になって何度か自殺しようとしても死ねず、十年以上冒険者やった揚句に死の教団に狙われて奴隷落ちした後、今度は魔人であることがバレて教会の聖騎士に殺されかけてることくらい、些細なことだ……そう思わないとやってられない。

「ま、まあそう言う暗い話はこれくらいにしましょ。色々と聞きたいわ」

「そうだな。悪かったな。変なこと聞いて」

そのあとは、夕方まで色々なことを話した。これが、殺し合いの前の準備だと忘れるくらいに。


……帰った後、アリシアにとても怒られた。遊んでいるんじゃないと、プロフェッサーにまで言われた。

まあ、その後アリシアはちゃっかり『二日後』にデートに行く約束していたし、覚悟を決めているんだろう。


アタシは、良い仲間を持った。心からそう思う。

自らの命を犠牲に妻の忘れ形見である娘を救うというとても感動的なお話(方法から目をそらしつつ)

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