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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season2 Double Justice 17

コーイチローさんが必死に使わせないようにしていた、アレ。

戦いの喧騒の中にあったにも関わらず、その瞬間をアタシは正確にとらえていた。

(……畜生!)

勝っていた、上手く行った、作戦がハマった……このまま何事もなく、当然のように終わるはずだった『簡単なお仕事』だと思った瞬間。


そういう時にこそ、取り返しのつかない致命的失敗(ファンブル)と言うのは訪れる。


アタシが、十年を越える冒険者生活で学んだ『教訓』の一つだ。

「……死の教団の教祖だもの。注意くらいはしておくべきだった……!」

周りを囲んでいた敵の最後の一人を引き釣り倒し、延髄に赤く染まった短剣を突きこんで絶命させたあと、アタシは後悔する。

……魔人であることを隠さなくてもいい、貴重な『仲間』を死によって喪ったのだ。

「ベリル! あれは一体どんな魔法なんだ!?」

一瞬のスキをつき、死の教団の教祖が放った一発の魔法。それによりアリシアが倒れたことに異常を感じ取ったのだろう。

アタシたちが出てきた祭壇の方に教祖を殴り飛ばして距離を取った後、コウイチローはアタシに合流して、焦ったように尋ねる。

「……多分だけど、《死の供物(サクリファイス)》っていう、死霊術の一種……生贄を、傷つけずに殺す死の魔法よ」

どうやら、まだ事態を理解しきっていないらしいコウイチローにアタシは端的に、どんな魔法かを伝える。

あまり時間が無い。教祖は未だ重傷だが死んでいない。あまり悠長なことをしていれば増援も来るだろう。

短時間の間に決して覆せない『現実』を教えるのも、一党の頭脳担当の仕事なのだ。

「……死、だと?」

コウイチローのその表情が、驚愕に染まった。信じられない。そんな表情だ。

「そう、その力に抗いきれず囚われたものは、どんなに頑健なものであっても、どれだけ重装の鎧を纏おうと死ぬ。そう言う魔法」

「そんな魔法、あったのか……」

だが、その現実は変えられない。死したものは生き返らないのが、普通なのだ。

どうしても生き返らせたかったら、それこそ神々にでも縋るしかない。

「……知らなかったのね」

いや、確かに、知らなくても仕方がないかもしれない。《死の供物》は死の神の司祭か、死霊術師しか使えない高位の魔法だ。

使い手の力量が求められるし、抵抗されるとなんの意味も無い。素人同然の娘を傷つけずに殺して供物にするための魔法。

……そんな不安定な代物を咄嗟に使える辺り、伊達に死の教団の教祖を務めてはいない、そう言うことだ。

「じゃあ、アリシアは……もう」

それを理解した、コウイチローの顔が悲しみに染まった。

……思ったよりは冷静だ。仲間が死んだときと言うのはもっと動揺するものなのだが、まるで『慣れている』ようだ。

「そうね。助からないわ……悪霊の力で持って心臓の鼓動を止めてしまう魔法だなんて、助けようがないわ」

「……おい、それは本当なのか?」

そのことに少しだけ励まされながら、わたしはどんな魔法かを続けて伝えたそのとき、コウイチローの表情が変わった。

「……ええ。神々に蘇生を嘆願する奇跡はあるらしいけど、この国で使えるのは、王都に居る最高司祭様だけとも聞くわ」

なんでそんな顔をするの?

そんなことを思いながら、アタシは説明を続ける……

蘇生(リザレクション)》の奇跡は普通の人間には使われないし、それで蘇ることが出来るのも、元から神に愛されて、健康で頑健な神々に選ばれし一握りの英雄だけ。

普通の人間は蘇生を掛けても大体は灰になって死体も残らない。

若い王族が、事故死したときですら試すかどうかで意見が分かれるくらい、蘇生は難しい。

「そうか……よし、逃げるぞ」

その瞬間のコウイチローの決断は、異様なまでに早かった。一瞬でアタシを抱え上げ、何がいるかも分からない通路の方へと逃げる。

……それはまるで、遺跡に仕掛けられた大規模な罠で通路が崩れていくのを見たときのような顔だった。

「え!?ちょっと!?」

確かにアリシアが助けられないのが分かっている以上、逃げるのは選択肢の一つだとは思うけど、ちょっと薄情すぎない!?

せめて死体だけでも回収を、そう思ったときだった。


―――怪人の身体に流れるナノマシンは、怪人の体内で異常が起きた時に自動で修復しようとする働きがある。

   傷を受けた時に、再生する。毒が身体に入れば分解する……心臓が止まれば、無理にでも『再起動』させる。


「一体、どういう……それってアリシアがまだ死んでないってことじゃないの!?」

そんなことを思っていたときに唐突に流れ込んできた《沈黙の命令》に困惑しながらも、その中で重要な事実を掴む。

怪人は《死の供物》で心臓が止まっても死なない。コウイチローの言葉が正しいのなら、そう言うことになる。


―――そうだな。何しろB級怪人バーサークタウロスだ。心臓を完全に破壊されれば死ぬが、心臓が停止した『程度』ではまず死なん。


「程度って、じゃあなんで逃げてるの!?」

実際に話をするより早く、正確に流れ込んでくる《沈黙の命令》の中から、言葉を拾い上げ、疑問に仕立てて尋ねる。

その間も、コウイチローはまったく立ち止まらない。少しでも距離をとることを優先するかのように。

途中で遭遇する死の教団の怪物や人間が驚いている間に、どんどんと祭壇の間から離れていく。


―――巻き込まれたら、死ぬからだ。


「……巻き込まれる?」

聞き返した瞬間。答えが戻ってくる……まるで何が起きるか分かっているかのように。


―――バーサークタウロスが《肉体狂化(バーサーク)》を発動させる条件は三つ。

   一つは自分の意思で使う場合。二つ目は感情……特に怒りの感情が高まった場合。


「ちょっと、何を言ってるのか、分からないわ」

説明してくれるのはうれしいのだけれど、伝わらなかったら意味が無いのよ!?


―――そして最後の一つ。それは……命の危機が迫った場合。


「命の危機……?」

その言葉で、得られた情報からアタシは気づく。

……怪人、バーサークタウロスであるアリシアが《死の供物》によって心臓の鼓動を止められる。

それは『死』ではなく、『命の危機』程度なのだと。


―――そうだ。最後の一つは絶対発動する。生存本能って奴なのか、自動的にな……

   つまり、今のアリシアは《肉体狂化》する。まず間違いなくな。


「それならなおさら逃げずに一緒に戦うべきじゃないの!?」

死んだのならば、諦めるのも必要だが、生きているのなら見捨てるなんて、出来ない。

……それをやる一党は実際に生き残れるかどうかに関係なく、遠からず崩壊するのもまた、経験則だった。


―――無理だ。


だが、コーイチローの言葉は端的で……ひどく冷静だった。そうすることが正しいと知っているように。

「どうして?」


―――今のアリシアは、見境を失ってる。近くにいたものは、例えオレたちでも『破壊』しないと止まらないんだ。


……返ってきた答えの意味をアタシが本当に理解するのは、もうちょっと先の話だった。



まっくらでなにもみえない。おとだけがきこえてきます。

「……撤退したか」

「は。ベリル・バークススタインと人狼は入り口から教団内部に逃げたようです。

 今は他の場所の警護をしていた教団員をこちらに呼び集め、追撃隊を編成させているところです」

「必ず追い詰め、殺すのだ。生かして返してはならぬ」

「分かっております……たった三人に、ここまでやられるとは」

「まさに。被害は甚大……聖騎士どもに攻め込まれる前に、退避すべきか」


どくり、とからだのなかからおとがきこえました。

「仲間の死体を捨てて逃げるとはな。所詮は、魔人か」

「……奴ら、いずれまた来るやも知れませぬ」

「ならばこの合成獣(キメラ)は今のうちに屍兵(ゾンビ)にでも変えるか。かつての仲間の屍兵(ゾンビ)とどう戦うか、実に見物だな」

ああ、なんだかせかいがまっかにみえます。

「……なんだ。今、この女、いま、動いたような……」

「死霊術はまだ掛けてないはずだぞ。気のせいだろう」

「そうだ。教祖様の《死の供物》が成功したのだ。助かるは」

そして、うるさいです。


……だから、しね。


ぐちゃりとおとをたてて、ちかくにいたなにかがつぶれました。

「な!?い、生き返っただと?」

「馬鹿な!?先ほど完全に死」

うるさい。しね。


ぐちゃりとまたつぶれました。


にこつぶしたらしずかになりました。みんな、わたしをみています。

「ひ、ひぃ!?なんだこの女!?確かに死」

「気をつけろ!来るぞ!死にたくなきゃすぐにかま」

そうおもったのにうるさいのがいたので、ふたつとも、つぶしました。

「さ、先ほどまでとは動きが違う!逃げ」

「急ぎ、鮮肉造人(フレッシュゴーレム)を呼び戻しぶつけるのだ!ありった」

うるさいのをつぶしていたら、なにかが、ちかづいてきます。おおきいです。


「あは」


こうげきしてきました。つまり、てきです。こわしました。

「ば、バカな!?戦闘用の鮮肉造人(フレッシュゴーレム)がこうも簡単に破壊されるだと!?」

「さ、先ほどとは動きが違う!?早すぎます!?」

「ひぃ!?くるな、くるなあ!」

こわしたのに、うるさいです。だから、しね。


「あはははは」


うるさいのはこわさないと。つぶさないと。じゃまなのです。

そういえばこーいちろーさんは、かいじんならおもいものをなげろといってたのでそうします。

「こ、こいつ鮮肉造人の死体を!?」

「や、やめろ!?そんなもの投げられたら死」

とりあえず、なげました。ぶつかってこわれてつぶれました。

「あははははははは!」

ぜんぶこわしましょう!はかいします!だって、こいつら、てきです!うるさいし!

「……教祖様、隠し通路より退避ください!我らが時間稼ぎをいたします!」

「う、うむ! すまぬ!引かせてもらうぞ!」

こわさないと、ころさないと!にげるな!じゃま、じゃまあ!

……うるさいのをつぶしてたらどたどたとかけよってくるおとがします。

「き、騎士団長殿!こちらです!こちらで正体不明の怪物が暴れております!」

「うむ、ここは我に任せよ……来るがよい。恐るべき巨人の末裔め!この首無騎士(デュラハン)最強と謡われた我が剣のさ」

ちょっとかたかったです。こわすのにさんかいかかりました。


ぐちゃり、ぐちゃり、がつん、ぐちゃり、ぎゃああ……いつのまにか、うごくものがいなくなりました。


しずかになったので、わたしはとまりました。

「あははははは……はぁ」

そういえば、こーいちろーさんは、どこにいったんでしょう?

あかいせかいのなかで、わたしはあたりをみて、まっくらになりました。

バクダン見たら逃げろ。死神見たら祈れ。


―――サージェントウルフに伝わる警句

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